王太子と公爵令嬢は我らがお守りします!

照山 もみじ

文字の大きさ
1 / 48

1.隊員、不穏な雰囲気を察知する

しおりを挟む

「わぁ~い! ありがとうございますぅ~殿下!」

 王宮内にある、第二王子──クリフトフ・イェーガーの執務室から、その場に相応しくない甘ったるい声が聴こえて来た。

「はっはっはっ! エミリアのためならこれぐらい当たり前だ」

 エミリアの喜びに気を良くしたのか、クリフトフも王子とは思えないだらしない声を上げて笑っている。

(ああ……また皆怒るなぁ)

 ドアの前で気配を消して聞き耳を立てているのは、第一王子・ジェラルドの側近の一人であり、次期宰相とされているユリシーズ・フォーレスト。
 この半年、クリフトフの事で悪い噂が流れ、それを聞いては怒り狂う者たちがいた。
 というのも──

「このドレス、とってもステキですぅ! 靴もアクセサリーもピッタリで、私、幸せいっぱいです~!」

 猫なで声で締まりなく話す男爵令嬢──エミリア・ボンネットと、まるで婚約者のように接しているからだ。
 勿論、クリフトフには幼少期から決まった婚約者がいる。

 公爵令嬢──ヴァイオレット・オルブライド
 深紅の髪に青い瞳を持ち、厳しい教育の下淑女の全てを身に付けた、貴族のトップに立つ公爵家の娘である。

 印象だけで言えば取っ付きにくい雰囲気があるが、その実彼女は人の世話を焼いたり、細かい所に気が付き自身で問題解決をしたり、誰か困っていれば解決方法を一緒に模索する……心はとても優しい少女なのだ。
 そんな完璧な婚約者を放っておいて、クリフトフは男爵令嬢……しかも貴族としての教養も何も身に付けていない少女に気を使い、常に行動をともにしている。
 婚約者であるヴァイオレットにはお茶もしなければプレゼントもなく、ぽっと出のエミリアには毎日お茶会をしてプレゼントも与えていれば、ヴァイオレットを慕う者からすれば気分の悪くなる話だった。ユリシーズもその内の一人──否、彼女を『女神』と称するほど、ヴァイオレットに傾倒していた。

「クリフトフ様とお揃いのドレスをパーティーで着るのが夢だったんですぅ」

 内心苛々しながら聴いていたユリシーズだったが、彼女の言葉で思考が止まった。
 お揃いのドレス……相手の衣装の色やデザインに併せてドレスを作る事は常識だが、それは婚約者や伴侶のいる身の者に当てはまる事で、決してこの二人が着て良いものではない。

「私もだ、エミリア。一ヶ月後の兄上の王太子就任パーティーで一緒に着られると思うと……幸福過ぎて堪らないよ」

──は?

 開いた口が塞がらないとはこの事だ。
 クリフトフは今何とも言った? と、何度反復して思い出しても、婚約者とではなく浮気相手と言っても過言ではない娘と、王家主催のパーティーに出席すると言っていた。それも衣装をお揃いにして……。

(待て待て待て……じゃあヴァイオレット嬢のドレスはどうするつもりだ!?)
「そう言えば、ヴァイオレットさんのドレスはどうするんですか~?」

 聞きたい事を口にしてくれるのは楽で助かるが、公爵令嬢を『さん』とほぼ呼び捨てにするのはいただけない。

「アイツは別に良いだろう。私にはエミリアがいるし、その時にはアイツは赤の他人だ。贈らんでも問題ない」

 さすがクリフトフさまぁ~! というエミリアの声は、ユリシーズの耳は拾わなかった。

(ドレスを贈っていない!? ではヴァイオレット嬢は今ドレス無い状態なのか!? しかもその時には赤の他人、だと? ……仕方ない。これはもう、ヤるしかありませんね)

 ユリシーズは足音を立てずにその場を離れ、暫く進んだ先にあるバルコニーへと向かった。

(大丈夫ですよ、ヴァイオレット嬢。貴女を……そしてジェラルド様を悲しませる事は“我々”が阻止しますから!)

 バルコニーに出たユリシーズは、片手を前に伸ばして魔方陣を展開させた。

『おいで、私の可愛い僕たちよ』

 そう唱えた瞬間、ユリシーズの周囲には、猫や蝶、烏の姿をした複数の使い魔が姿を表した。

「いいかい? “仲間”に一字一句間違えないように伝えるんだよ?」

 ユリシーズは使い魔たちにそう告げると、パンッ! と一つ、手を叩いた。
 すれば使い魔たちは一斉にユリシーズの下を出発し、主の使いを達成するべく、城の中や外、そして大空へと飛び立って行った。

「さて、私も早急に動き出さないといけませんね」

 何せクリフトフたちの企み……もとい王太子就任パーティーまで一ヶ月しかないのだ。彼らの思い通りにさせないために──ヴァイオレットや主であるジェラルドのために、ユリシーズは短い期間で全てを回避しなければならない。

「……皆、動き出す時が来ましたよ」

 使い魔たちが向かった、ユリシーズの“仲間たち”を思う。

──大丈夫、彼らは“推しのためなら絶対動く”

(さぁ……『推しを幸せにし隊』の出陣ですよ)

 ユリシーズは屋内に戻ると、先ずは切羽詰まった問題を解消するべく動き出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

処理中です...