11 / 48
11.終幕
しおりを挟む
※エミリア視点終わりです。
クリフトフに出会って以来、エミリアは彼に媚を売るようになった。
だってヴァイオレットの婚約者であり第二王子……しかも顔も格好良いときてるのだ。エミリアが絶対欲しいと思うには十分な相手だった。
『クリフトフ様ぁ~!』
始めこそ「また君か」とあしらわれていたが、次第に名前を呼ばれるようになった。
その後も、クリフトフから茶会に呼ばれるようになったり、街に買い物に行ったり、彼の園庭が見渡せる部屋に連れて行ってもらったりと、トントン拍子で関係は進んで行った。
そんな彼女が一抹の不安を覚えたのは、クリフトフといつもの部屋から園庭を眺めている時だった。
『青いお花がお好きなんですかぁ?』
青い花が植わり、まるで空の青をそのまま写したような庭を見下ろしながら、エミリアはそう口にした。
確か、クリフトフの正装にも青色が入っている。
だから彼が青色が好きなのは直ぐにわかったが、聞かれたクリフトフは数秒目を伏せた後に「ああ……青が、好きだ」と、今までにない程静かな声で答えた。
(私の好きな色はピンクなのに……)
ふと、そんな言葉が胸に沸いた。
エミリアが好む色は、濃い色から薄い色まで引っ括めたピンクだった。それは身に付けるものから小物、部屋の家具にまでピンクを使うほどで、それだけエミリアはピンクが大好きだった。
『その内、ピンク色のお花も植えて下さいね?』
可愛らしくおねだりをして、見た目以上にガッシリとした腕に絡み付く。
しかしクリフトフから返って来たのは、彼女の願いを叶えるものではなく、ただただ苦笑を浮かべるだけのものだった。
そのクリフトフの仕草は、暫くエミリアの中に留まっていた。
不安の色が濃くなったのは、王太子就任パーティーでエスコートしてもらう際に着るドレスを贈ってもらった時だった。
『ありがとうございますぅ~殿下!』
ドレスを贈ってもらえるように、エミリアは今まで何度もアプローチをかけていた。
『最近父の仕事が上手くいっていないらしくてぇ~』
『母や兄弟たちが買うのを拒んで来るんですぅ~』
『それに加えてヴァイオレットさんが嫌がらせでドレスをダメにしてくるんですぅ~』
会う度に、エミリアはクリフトフに訴え続け、その都度「自分はピンクが好きだ」とも主張してきた。
だから執務室に呼ばれ、「今度のパーティーで着るドレスだ」と言われた時は舞い上がった。
あのヴァイオレットからクリフトフを奪ってやった。やっと目標に近付いたかと、エミリアは歓喜に震えた。
しかしドレスにかかっていた布を退かした瞬間、その考えは間違いだったと思い知る事となる。
布の下にあったドレスは、てっきりピンク色だと思っていた。散々ピンクが好きだと訴えて来たのだ。ピンクしかないだろうと、そう信じて疑っていなかった。
しかし、目の前にあるドレスは、春先に生える花を連想させるような、淡い黄色だった。
(私のピンクでも、殿下の青でも赤でもない……)
その事実に、胸にあった不安は色を濃くさせた。
まさか、そんな……と、一つの可能性がエミリアに襲いかかる。
(殿下は、私の事を……)
そこまで考えて、慌てて消し去った。そんな事は有り得ない、絶対にない! と、自分に言い聞かせ、その時は貰ったドレスを嬉しがったのだった。
「はぁ、はぁ──」
怒りのあまり息が荒くなり、血が煮え滾っているかの如く全身が熱くなった。
目に前の赤い女──ヴァイオレットの頬は傷付き、鮮血が溢れている。自分が扇子で思いっきりひっぱたいたからだ。でも自分は悪くない。悪いのは自分を煽って来たその女だ……エミリアはヴァイオレットを見下ろしながら、心の中でそう叫んだ。
(アンタが……)
扇子を持ち直すエミリアを、ヴァイオレットが静かに見据える。その瞳は、クリフトフが好きだと言った……
(青色だからいけないのよ!!)
原色の青を持った瞳を、エミリアは憤怒の形相で見つめ返した。
──青が、好きだ
クリフトフの言葉を思い出す。確かに青が好きだと言っていたが、“何の青”だとは一言も言っていなかった。
エミリアが、ただ青が好きだと思っていたのは先刻まで。まだ執務があるからと言ったクリフトフを、終わるまで庭が見える部屋のバルコニーで待っていたエミリアが、青の花に囲まれて佇んでいるヴァイオレットを目に留めた時、今まで抑えていた感情が暴れ始めた。
顔は、見えない。しかしいつも見ていたために、見なくても彼女の瞳が何色なのかもわかってしまう。
嘘だ
嘘だ
嘘だ
焦燥感に駆られるがままに、エミリアはバルコニーから離れると、急いで庭に降りてきたのだった。
そして確信する。
クリフトフの好きな青はこの青だ。花や空の青など、全てはヴァイオレットを連想するだけのものでしかないのだ。
(私の事は、これっぽっちも愛していない!!)
屈辱だ。奪ってやったと思っていたのに、彼の心は動いてすらいなかった。
──貴女は、殿下の好みもご存知ないのですか?
「うるさいっ!!」
再び扇子を振り上げる。しかしその腕は下ろされる事なかった……誰かが、エミリアのその腕を掴んでいたから。
「だ、誰ですかぁ!!邪魔しないでくださ──」
扇子を持った腕を掴む相手に振り返った瞬間、エミリアの声は止まり、サッ、と血の気が引いた。
「……ここで何をしている?」
腕を掴んでいたのは騎士団長。しかし聞こえた声は彼よりも更に後ろからで、そこに立っていた人物に、エミリアは小さく悲鳴を上げた。
「ここで何をしていると聞いている、ボンネット嬢……場合によっては、連行する」
怒りを抑えながらも低い声で問い質すのは、クリフトフの姉であり、この国の第一王女である──イライザ・イェーガーだった。
クリフトフに出会って以来、エミリアは彼に媚を売るようになった。
だってヴァイオレットの婚約者であり第二王子……しかも顔も格好良いときてるのだ。エミリアが絶対欲しいと思うには十分な相手だった。
『クリフトフ様ぁ~!』
始めこそ「また君か」とあしらわれていたが、次第に名前を呼ばれるようになった。
その後も、クリフトフから茶会に呼ばれるようになったり、街に買い物に行ったり、彼の園庭が見渡せる部屋に連れて行ってもらったりと、トントン拍子で関係は進んで行った。
そんな彼女が一抹の不安を覚えたのは、クリフトフといつもの部屋から園庭を眺めている時だった。
『青いお花がお好きなんですかぁ?』
青い花が植わり、まるで空の青をそのまま写したような庭を見下ろしながら、エミリアはそう口にした。
確か、クリフトフの正装にも青色が入っている。
だから彼が青色が好きなのは直ぐにわかったが、聞かれたクリフトフは数秒目を伏せた後に「ああ……青が、好きだ」と、今までにない程静かな声で答えた。
(私の好きな色はピンクなのに……)
ふと、そんな言葉が胸に沸いた。
エミリアが好む色は、濃い色から薄い色まで引っ括めたピンクだった。それは身に付けるものから小物、部屋の家具にまでピンクを使うほどで、それだけエミリアはピンクが大好きだった。
『その内、ピンク色のお花も植えて下さいね?』
可愛らしくおねだりをして、見た目以上にガッシリとした腕に絡み付く。
しかしクリフトフから返って来たのは、彼女の願いを叶えるものではなく、ただただ苦笑を浮かべるだけのものだった。
そのクリフトフの仕草は、暫くエミリアの中に留まっていた。
不安の色が濃くなったのは、王太子就任パーティーでエスコートしてもらう際に着るドレスを贈ってもらった時だった。
『ありがとうございますぅ~殿下!』
ドレスを贈ってもらえるように、エミリアは今まで何度もアプローチをかけていた。
『最近父の仕事が上手くいっていないらしくてぇ~』
『母や兄弟たちが買うのを拒んで来るんですぅ~』
『それに加えてヴァイオレットさんが嫌がらせでドレスをダメにしてくるんですぅ~』
会う度に、エミリアはクリフトフに訴え続け、その都度「自分はピンクが好きだ」とも主張してきた。
だから執務室に呼ばれ、「今度のパーティーで着るドレスだ」と言われた時は舞い上がった。
あのヴァイオレットからクリフトフを奪ってやった。やっと目標に近付いたかと、エミリアは歓喜に震えた。
しかしドレスにかかっていた布を退かした瞬間、その考えは間違いだったと思い知る事となる。
布の下にあったドレスは、てっきりピンク色だと思っていた。散々ピンクが好きだと訴えて来たのだ。ピンクしかないだろうと、そう信じて疑っていなかった。
しかし、目の前にあるドレスは、春先に生える花を連想させるような、淡い黄色だった。
(私のピンクでも、殿下の青でも赤でもない……)
その事実に、胸にあった不安は色を濃くさせた。
まさか、そんな……と、一つの可能性がエミリアに襲いかかる。
(殿下は、私の事を……)
そこまで考えて、慌てて消し去った。そんな事は有り得ない、絶対にない! と、自分に言い聞かせ、その時は貰ったドレスを嬉しがったのだった。
「はぁ、はぁ──」
怒りのあまり息が荒くなり、血が煮え滾っているかの如く全身が熱くなった。
目に前の赤い女──ヴァイオレットの頬は傷付き、鮮血が溢れている。自分が扇子で思いっきりひっぱたいたからだ。でも自分は悪くない。悪いのは自分を煽って来たその女だ……エミリアはヴァイオレットを見下ろしながら、心の中でそう叫んだ。
(アンタが……)
扇子を持ち直すエミリアを、ヴァイオレットが静かに見据える。その瞳は、クリフトフが好きだと言った……
(青色だからいけないのよ!!)
原色の青を持った瞳を、エミリアは憤怒の形相で見つめ返した。
──青が、好きだ
クリフトフの言葉を思い出す。確かに青が好きだと言っていたが、“何の青”だとは一言も言っていなかった。
エミリアが、ただ青が好きだと思っていたのは先刻まで。まだ執務があるからと言ったクリフトフを、終わるまで庭が見える部屋のバルコニーで待っていたエミリアが、青の花に囲まれて佇んでいるヴァイオレットを目に留めた時、今まで抑えていた感情が暴れ始めた。
顔は、見えない。しかしいつも見ていたために、見なくても彼女の瞳が何色なのかもわかってしまう。
嘘だ
嘘だ
嘘だ
焦燥感に駆られるがままに、エミリアはバルコニーから離れると、急いで庭に降りてきたのだった。
そして確信する。
クリフトフの好きな青はこの青だ。花や空の青など、全てはヴァイオレットを連想するだけのものでしかないのだ。
(私の事は、これっぽっちも愛していない!!)
屈辱だ。奪ってやったと思っていたのに、彼の心は動いてすらいなかった。
──貴女は、殿下の好みもご存知ないのですか?
「うるさいっ!!」
再び扇子を振り上げる。しかしその腕は下ろされる事なかった……誰かが、エミリアのその腕を掴んでいたから。
「だ、誰ですかぁ!!邪魔しないでくださ──」
扇子を持った腕を掴む相手に振り返った瞬間、エミリアの声は止まり、サッ、と血の気が引いた。
「……ここで何をしている?」
腕を掴んでいたのは騎士団長。しかし聞こえた声は彼よりも更に後ろからで、そこに立っていた人物に、エミリアは小さく悲鳴を上げた。
「ここで何をしていると聞いている、ボンネット嬢……場合によっては、連行する」
怒りを抑えながらも低い声で問い質すのは、クリフトフの姉であり、この国の第一王女である──イライザ・イェーガーだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~
春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。
かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。
私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。
それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。
だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。
どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか?
※本編十七話、番外編四話の短いお話です。
※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結)
※カクヨムにも掲載しています。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる