王太子と公爵令嬢は我らがお守りします!

照山 もみじ

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19.止められない

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 ヴァイオレットが青い花に囲まれながら、少し離れた場所に見える、紫色の園庭を眺めていた頃……

「ユリシーズ……ドレスの件は進んでいるか?」

 静かな廊下を進みながら、後ろに控えるユリシーズに、ジェラルドは低く静かな声で問うた。

 ドレスの件──それは公爵令嬢・ヴァイオレットへのプレゼントとして、彼女の家に制作費を出す事であった。

 ヴァイオレットはジェラルドが子どもの頃から想い慕っている令嬢である……が、現段階では弟の婚約者だ。その相手が身に纏うドレスの心配をするのもおかしい話だが、立太子後に開かれる、王太子就任パーティーで着るドレスを贈られなかったと聞いて、考えるより先に贈る事を口にしていた。

「アベルの報告では、既にイヴァンジェリンが領地にて制作中だそうです」

 彼女らしいですね、というユリシーズに、ジェラルドは安堵した声音で「そうか……」と短く答えた。
 オルブライド家は家族揃って皆仲が良い。あの家に嫁いだイヴァンジェリンも、結婚して早々にあの家に馴染み、持ち前の行動力と発想力を発揮して領地経営を担っている……が、今回のヴァイオレットのドレスは相当気合いが入っているらしく、アベルに告げてまだ三日だというのに、自ら領地に赴き、更に物凄い速さで制作が進んでいる事実に、流石と感心する反面、恐ろしささえ感じてしまう。

(……気持ちは多めの方が良いな)

 自分は払うものを払うだけであるが、それぐらいはさせてもらおう、と、瞬時に協力してくれる臣下に感謝した。
 これらを婚約者である弟・クリフトフが行わない事に関して、怒りと呆れが込み上げて来る。

(彼奴は何をしているのだ……)

 ヴァイオレットを横から奪って行った弟は、幼い頃からジェラルドのものであれば何でも欲しがり、そして取って行った。
 そんな事をされても兄弟として、王族・貴族としても見捨てられないのは、奪って行った後、彼はそれらをとても大切にする事を知っているからだった。

(だから……託したものを)

 婚約の件が、もうどうにもならないと突き付けられた時、ジェラルドは「ヴァイオレットが幸せなら……」と、クリフトフが彼女を大切にしてくれる事を願って、泣く泣く身を引いたのだった。
 しかし現在、クリフトフはヴァイオレットを大切にしている素振りはない。
 クリフトフの園庭は今年も青色の花が植えられたそうだが、普段から婚約者として、愛する者として接していないのなら、ジェラルドからすれば、それは無意味な事だった。

「今年も見事に咲きましたね」

 ユリシーズの感嘆とした言葉に釣られ外を見れば、自身の園庭に植えたスミレの花が、先週蕾だった分も開花して、これでもかと咲き乱れていた。
 クリフトフ同様、ジェラルドも園庭の花は自身で植えている。
 守る事が出来なかった彼女を想い、時間の許す限り、一つ一つ丁寧に手入れをしていた。

(女々しいな)

 情けない、とも自覚している。しかし幼い日に芽生えた想いは炎の様に燃えるばかりで、鎮火する事を拒んでいる。

(どうしたものか……)

 私情だと理解していても割り切れない想いに溜め息を吐いく。
 そしてふと、視線を紫の園庭のその先に向ければ、青い庭に向かい合って佇む、二人の女性の姿が目に留まった。
 一人は燃える様な赤色で、もう一人は眩しいピンク色。
 その赤色の方は、今しがた思考を独占していた愛しい人だと確認せずともわかるが、もう一人の令嬢に、ジェラルドは眉をひそめた。

「あれは……ボンネット男爵のところのご令嬢ですね」
「……エミリア、と言ったか?」
「はい、あのエミリア嬢です」

 眉間の皺が深くなる。
 クリフトフなら兎も角、あのふたりが並んで仲良く花を愛でるとは想像出来ない。

「……影に様子を見させましょうか」

 ユリシーズの進言に頷いた。ヴァイオレットの腕なら一人二人相手にするのも余裕だが、それはそれ、これはこれだ。何かあってからでは遅いのだ。

「では、そのようにし──っ!?」

 ユリシーズが思わず止まってしまうのも無理はない。
 令嬢とは思えぬ速さと威力で、男爵令嬢が公爵令嬢を扇子でひっぱたけば、誰だって唖然としてしまう。

「一体何やって……殿下!!」

 移転魔法で向かおうとしたジェラルドの腕を、ユリシーズが思い切り掴んで阻止した。

「見て下さい殿下。ジャンたちが駆け付けたでしょう?騎士団のトップであるイライザ殿下もご一緒ならば、殿下は出ずに、彼らに任せた方がヴァイオレット嬢のためです」

 お気持ちはわかりますが、というユリシーズの忠告を聞きながら、ジェラルドは目の前で起きた事から目を逸らさず見つめ続けた。
 何故ヴァイオレットが叩かれるのか。彼女が一体何をしたというのか……その理不尽さに、抱えていた怒りが急速に膨れ上がった。

「ちっ……またあの人は!」

 思わず、といった体で舌打ちをしたユリシーズの声は、既にジェラルドには届いていなかった。
 ジャンに拘束されたエミリアの脇を素通りして、今まで散々放置していたヴァイオレットに駆け寄る弟の婚約者面に、プツン、と、何かが音を立ててブチ切れた。

「あっコラ!! 殿下!!」

 ユリシーズの制止を振り切って、移転魔法で現場に向かう。

 青い瞳に己を写すために、ジェラルドは彼女の下に降り立った。

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