王太子と公爵令嬢は我らがお守りします!

照山 もみじ

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18.その姿はまるで……

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 ヴァイオレットを初めて見たその日から二ヶ月後、彼女はクリフトフの婚約者と決まった。
 今までとは違い、ジェラルドは本気で抵抗してきた。周囲も「ヴァイオレットはジェラルドと婚約すべきだ」という姿勢を崩さなかった。
 しかしそんな足掻きも虚しく、結果は今までと同じ、クリフトフに取られる事となった。
 幸せだ。クリフトフはヴァイオレットと一緒になれた事に浮かれた。

(これで、また少し良い方に進める)

 クリフトフのヴァイオレットへの想いは本物だった。しかし、その裏には、過去から刷り込んで来た劣等感があることも、また事実だった。

『君を、愛してる』

 その言葉に、嘘はない。今でもその想いは続いているし、その想いをヴァイオレットが目で見てわかるように、園庭の花は、彼女の青であり、彼女も好ましいと言った青色の花で統一させている。
 先日も、新しい青い花を植えた──勿論、自分の手で。
 ヴァイオレット以外は知らない。クリフトフの園庭の青い花は、彼が自らの手で植えて育てていることに……。

──だが……俺は、王族には向いていない

 認めるしかなかった。
 そして認める様になった切っ掛けは、やはりヴァイオレットだった。
 兄や妹では反抗的な思いで全てを突っぱねてしまったが、ヴァイオレットの姿勢に、持っている知性と精神力に、クリフトフは打ちのめされて、自覚した。

 そんなクリフトフが感じたのは絶望ではなく、解放感と、恐怖にも似た罪悪感だった。

(臣籍降下するなら、兄上から彼女を取った事はっ)

 その先は、たとえ心の中だけとは言えど、到底口に出来るものではなかった。
 一臣下になる自分に、王太子妃に相応しいヴァイオレットを連れて行く事など出来ない。仮にクリフトフとともに一貴族になったとしても、元々彼女は貴族であり、貴族の心得は既に身に付けている。だから何の問題もないのだが、それでは彼女の能力が死んでしまう。そんな事、クリフトフはしたくなかった。

(今更だが、彼女が……兄上と婚約出来るようにしなくては)

 一人王族を抜ける事を決意した晩のこと。兄と婚約者を一緒にさせるべく、クリフトフは悶々とその計画を企てた。

──償いも含め、今まで以上に馬鹿な王子を演じて、“婚約解消”に持って行けばいい。

 決めたその日から、クリフトフはヴァイオレットを遠ざけた。
 週に一度は必ず開いていた二人のお茶会も、今ではもうない。暴言こそなくても、顔を合わせても何も言わない。すり寄って来る令嬢にヴァイオレットへの想いを乗せて接し、それを彼女に見せ付けて、来るその日に、ヴァイオレットが受ける傷が浅いように仕向けた

「これで良い、これで良いんだ」と、彼女を慕う想いが痛むのを、必死に無視しながら……

 令嬢……エミリアには悪いが、臣下に下った時は責任を取って妻にする事を胸中で誓い、目的のために使わせてもらっていた。
 エミリアに特に何か言った訳ではなかったが、彼女はクリフトフの思う通りに良く動いた。もしかしたら、似た者同士としては相性が良いのかもしれない、と思った事もしばしばあった。

 だから、油断していた……いや、人の心を軽んじ過ぎていた。

「ヴァイオレット……」

 周囲の目も気にする余裕もなく、クリフトフはヴァイオレットに駆け寄った。
 傷付ける、とは思っていた。そしてその事実も自覚して、全て責任を取るつもりでいた……でもまさか、こんな流血事件にまで発展するとは、夢にも思っていなかった。
 ハンカチで頬を押さえ、一応止血は出来ているものの、やはりその姿は痛々しい。

「クリフトフ……さまぁ?」

 背後から、呆気に取られた様な声が聴こえた。
 振り替えれば、ピンク尽くしの令嬢が、「信じられない」とでも言うように凝視している。
 腹が立った。そんな権利はないとわかっていても、この状況を作ったのが自分自身であっても……

「……ヴァイオレットに何をした」

 思った以上に低い声が出た。
 ジャンもイライザも、弟の豹変ぶりに、僅かに目を見開いた……が、先に正気に戻ったのは、やはりというべきか、王女であるイライザだった。

「お前がっ!!」

──言えた事なのか。

 手に取るようにわかる言葉に、クリフトフは自嘲した。
 全部自分が望んだ事だ。ヴァイオレットが傷付いた事も、全部己が招いた事だ。
 そう答えようとしたクリフトフだったが、先ほどよりも驚愕を表しているイライザに、どうしたのかと首を傾げた。

 背後に現れた者に、憐れにも気付かずに……

「それは私の台詞だな。クリフトフ──ヴァイオレット嬢に、何をした?」

 バッ! と向き直れば、今来てほしくなかった人物が、ヴァイオレットの肩を抱き、ハンカチを押さえる華奢な手の上から、己の手を重ね合わせていた。

「兄……上……」

 怒りに燃えた赤い瞳に射抜かれて、クリフトフは恐怖に声が出なくなった。

 突如園庭に降臨したその姿は、まるで怒りに満ちた魔王の様だった。

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