【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)

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第二章

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「どうしてくれるのですか!? あんな騒ぎになって、あれだけのことを言ったのに婚約破棄をしなくちゃいけないんですよ!?」

 王宮に戻ったフリードリヒは応接室で叫んでいた。

「もう、こうなったら結婚すれば?」

 ヴィルヘルムの軽口に、クリスチナは首を傾げた。

「せっかく認められたのに、婚約破棄をなさるのですか? 何故?」

「あれは、エミリーとの婚約を宣言した訳ではないのです。近々、婚約者を決めたいと言っただけなんです。ですから、あの後、新たな婚約希望者を募る予定だったのです」

 クリスチナは青ざめた。

「では、ワタクシの勘違いの所為で、とんでもないことに!?」

「いえ、クリスチナ様の所為ではありません! エミリーの暴走の所為です! エミリー! どう、責任を取るつもりですか!?」

「責任を取って結婚しまぁ~す!」

「今は冗談を言ってる場合じゃないのですよ!? 罰金を支払って頂きますからね!?」

「でもさぁ~、目的は達成されたんじゃない?」

「どこがです!?」

「だって、目的は一番の女性を見つけることでしょ? 私よりも素晴らしい女性がいるか問いかけたとき、誰も名乗り出なかったじゃない! つまりは私が一番って事でしょう?」

「あそこで名乗り出られるのは、自意識過剰なイカれた女性だけです!」

 そうは言ったものの、フリードリヒはその言葉に自信が持てなかった。

 はたして、本当にエミリー以上の女性があの場にいただろうか? エミリーの様に貧乏な平民に生まれて、(良くも悪くも)こんなに頑張れる女性が?

「じゃあ、婚約破棄しますかぁ~? でも、慰謝料は下さいね?」

 フリードリヒは改めてエミリアをマジマジと眺めた。

 好みのタイプではないから気が付かなかったが、エミリーは実は凄い美人なのではないだろうか?

 馬鹿だが勤勉だ。

 丈夫で健康。

 自信に満ち溢れている。

 肝が据わっていて物怖しない。

 人々に分け隔てがない。

 とにかく逞しい!

 そして、誰よりも気軽に話せる。

 クリスチナ様よりも...


「な、なによ? 何で睨みながら黙ってるの!? がめついこと言うなって言いたいの!? でも、私はちゃんと働いたし罰金なんて払わないし、謝礼も貰いますからね! 私だって婚約破棄なんて不名誉、困っちゃうんだから、慰謝料も貰いますからね!?」

「それに、金をせびって来る弟もいるんだろ?」

 ヴィルヘルムは心配そうに聞いた。

「あ、それは大丈夫! もう、更生して、私の結婚・恋愛相談所で働いてるの」

「なら、問題ないか?」

「問題大有りよ! 婚約破棄された女に、結婚の相談をしたい人がいると思う? せっかく繁盛してきた店なのに潰れちゃうわ! 店が潰れたらどうやって生きていけばいいの!?」

「それは困るな」

「『困るな』じゃないのよヴィル! このままじゃ死ぬしかなくなるでしょ! 弟の生活だってかかってるのよ!?」

「では、お店が潰れてしまったら、ワタクシの下女になりますか?」

 クリスチナの提案にエミリアの目は輝いた。

「いいの!?」

「未来の女王の下女ってことは貴族になれるってこと!?」

「それは侍女だな。下女は下働きの召使い。侍女はエミリアには無理だ。」

「何でよ!? ヴィルまで差別する気!?」

「侍女の仕事は、下女達の管理、クリスチナの生活に必要なものを手配したり、贈り物の選別、お礼状などの手紙の代筆。社交界で王室の味方を作る駆け引きをしたり、その他、複雑な業務が必要なんだ。子供の頃から貴族としての教育を受けていなければ出来ない様な事ばっかりだぞ? 完璧にこなしても、それ以上の手柄を上げなければ男爵の爵位など与えられない」

「教育してくれれば覚えるわ!」

「レッスン費なんかエミリアには払えないだろ?」

「確かに、払えないかも...じゃあ、下女のお給料はいくらなの?」

「雇用形態にもよりますが下女の月給は金貨2枚からスタートとなります」

「嘘でしょ!? 王宮の女中は金貨10枚は貰えるって聞いたけど!?」

「それは侍女の給与でございます。それでも平均的な庶民よりはずっと高給なはず」

「まぁ、私の実家は金貨1枚で一月5人暮らしてたけどさ...」

「凄いな...それ、どうやって生活するんだ?」

「貧民は死なないだけで精一杯なのよ! それでも収入があっただけマシなの!」

「じゃあ、一人暮らしで金貨2枚ならいいじゃないか?」

「今はもっと稼いでるの! 一度、贅沢に暮らしちゃうと、人は貧乏生活には戻れないのよ! ...でも、家賃なし?」

「家賃はあります。部屋にもよりますが銀貨30枚から50枚程度です」

「本当だ! 高くない! 安定収入で王宮暮らしか...悪くないけど、今更、下働きなんて出来るかしら...」

「昇給もありますよ」

「弟も下男で雇ってくれる?」

「いいですよ」

「いいわ! 結婚・恋愛相談所は売っ払って、下女になってやろうじゃないの!」

 エミリアが啖呵を切った途端、それまで黙っていたフリードリヒが口を挟んだ。

「その必要はありません」
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