Lara

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月は昇っていませんが、

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そうグダグダと言い合っているとまた新しく来たのか扉が開いた。

「こんにちはー」
「こんに、ちは」

やって来たのは二人、片方はワンコ書記もとい狼鴉である。ちょっとつっかかっちゃったけどちゃんと言えて可愛い。もう片方はというと…

「いやー涼しい。あ、まくり!お前ここにいたのかよ!ってBloodsadyもいるじゃないか、お前またBloodsadyに迷惑かけてないよな!ほんとすみません」

俺に向けて謝ってくる。こいつは霞城 与一かじょう よいち
駄犬の相棒で、飼い主的な男である。なお、手綱は握り切れていないもよう。握れていたら会うたび俺を誘っていない。苦労人。

「俺が何かやらかしているのは確定っすか…いやまあ、やったっすけど」
「マジか!?本当にすみませんこの万年発情期が…」
「…相変わラず、大変ダァナぁ…お疲れェ」
「うっ…そうなんですよ……はぁ、泣けてくる」
「まあ、そんな泣くなっすよ」
「「お前が言うんじゃねぇ!!!」」
「ぶー」
「そもそもなぁ、前から言っているだろ会う人を毎回口説いて―…」

今度ォよく効ィク胃薬渡ァしてヤァロォ……そのまま説教に入った霞城と受けている駄犬をほおっておいて真正ワンコを見る。

「くろ……」
「ン~?どぉしタンだァイ?」
「久しぶり、元気してた?」
「ん~!してタァヨ?…ソォいえバァキレイににィ話せるようにィナッタンダナぁ?オメぇデトぅ」
「ん!ありがとう」

知ってたけどな。だけど今の俺は神崎 椿とは別人ということになっているので指摘しなければおかしい。

「……」
「…ナァんだァイ?」

じっと見つめてくる狼鴉に俺は居心地悪く身動ぎする。俺はいまフードを被っているがその下から覗き込むようにして見るとともに俺の奥深くまで見透かされているような気がしてくる。そんなことはないはずだけど色々と隠してしまっている俺にとって少し

……怖い、ナァ

ワンコ、じゃなかった狼鴉には聡いところがあるから、いつ暴かれてしまうのか常々気を張ってしまう。

「ぎゅ…」
「…ギュ????」
「する」
「???」

腕を広げてぎゅと言ってくる狼鴉。なんだ、ハグをしろと言っているのか?え?いや落ち着け、いつも一緒にいる椿としてならともかく、そこまでの頻度では会っていないBloodsadyにむけてならいくらなんでも…

「ハグする、ほら」
「―――」

頭が停止した。

目の前には腕を大きく広げて来い!と言っているかのように待ち続けている狼鴉。ワンコの異名に適うようにピンと立つ耳とブンブン振られている尾がそこにあるように見える。だが固まっていると時間がたつにつれて目が潤み、しゅんとした表情に…

「アア!もうワカッたかラぁ!」

俺はその表情にあっけなく敗北してしまった。
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