楽な片恋

藍川 東

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春 1/3

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 ーーー3月。

 春は別れの季節でもあるらしいんだけど、とりあえず、別れなくてよくなった。
 よくなりました。
 ってだれに敬語?だけど、ホントに、どうしたらいいんだろう?

 日本の一部が、ほんのり浮かれる日(バレンタイン、デーとか。もう今の僕にとっては、はずかしくて禁句)に、まぁ、その。
 こじらせてた片恋が、両思いになってしまうなんて、モブとして生きている身としては申し訳ない状態になってしまって。
 で。
 で。
 ふわふわしてた時間もあるんだけど、(その、デート? とかしたし。でも、いつものお出かけと変わらないっちゃそうなんだよね。2人で街ブラとか、普通だし。荷物はいつも、優一朗が持つっていうし。僕に洋服とか見立てるの好きだし。)やっぱり考えなきゃいけないこともあるわけで。
 男同士だし。
 将来的には諸々あるんだけど、それは優一朗が『大丈夫だよ、さわちゃん。時期を見て変えから』って微笑んだんだけど、なんだろう?
 まぁ、いまどき同性同士だからって、騒ぐほどのことじゃないかもだけど、その、一応。
 親にはいっておかないとかなぁ、なんて僕がつぶやいた(口に出して)ら、あっという間に優一朗がセッティングてくれた。
 というか、された。
 蓮見家、片桐家揃っての、食事会という名の、息子たち両思いになりました報告会。

 え、ホントに?
 って優一朗には何回も確認したよ。
 何回もっ。
 でも、優一朗は、『楽しみだね』ってイケメンの笑みを浮かべるだけで。
 それを向けられちゃうと、僕としては体温上昇、硬直、思考ストップ、の3連コンボで。
 そのまま口に出しにくい、というか口の主導権を奪われちゃうようなことになるわけで。

 3月某日土曜日。
 某いい感じのレストランの個室を(優一朗が)おさえて。
 テーブルのこっち側は、優一朗と僕。
 向かい合って、僕の側から父さん、真ん中が母さん、その隣が夕夏さん。
 壁一面がガラス張りで、うららかな日差しを浴びた、レストラン自慢の庭が臨めちゃうようなシチュエーションで。
 
 いや、もなんなんだよ、これ。
 本当にいたたまれないんだけどっ。

 僕は三人の顔が見られなくて、下を向いてる。でも、テーブルの下では、優一朗と手をつないだりしてる自分がいるわけで。
 耳とか首筋とか。
 見なくても赤くなってるのわかるし。

 なんかもっと、さらっと済ませられなかったのかなぁ。
 それこそお互いが、親とご飯食べてるときとかさ、居間でテレビとか見ながらさ、さらっと『優一朗と(さわちゃんと)つきあうことになったんだけど、さ』とかさ。
 こう、さらーっとしてみたかったんだけど。

 なにこの、結婚を控えた両家の食事会、みたいな感じ。

 いいの? 優一朗。
 こんなことしたら、もし、将来、別の人がよくなった、っていわれても、泣いてすがって、別れてあげられないかもしれないよ。
 優一朗と見上げると、満面の笑みを返された。
 すごくご機嫌。
 2月の、その、アレ以来、優一朗の機嫌は常によくって。
 アップしたイケメン度が、ついでの僕も幸せにしてくれている。

 きゅって、手を握り直されたりなんかすると、もう、どうにでもしてくれっ、っていいたくなっちゃう。
 はずかしくて、いえないけど。

 「今日は、来ていただいてありがとうございます。
  先日、無事にさわちゃんと両想い、お付き合いすることになりましたので、ご報告します」

 それはもう、イケメンご機嫌笑顔と、堂々としてた、かつ有無を言わさない優一朗の宣言だった。

 そんな確信をいきなり、って僕のビビりが入った視線を受けても、優一朗はにっこり。
 だって、仕方ないだろ。
 こっちは年季の入った、片恋だったんだから。
 ひっそりこっそり。
 日陰の道を進んでいって、いつか消えてなくさなきゃいけないと思ってのが、こんな、はっきりくっきりがっつりと、日の目を見ちゃったわけで。

 …………でも、嬉しい、わけで。

 上目遣いになって、対面に座ってる親たちの反応を、うかがってみたりしたんだけど…………。
 あれ?

 いろいろ想定して、優一朗にいろいろ相談してたんだけど、(優一朗は『大丈夫だよ(イケメン笑顔)』の一点張りだった。)、想定外?

 僕の母さんは、両手を胸の前で握りしめて、目を潤ませて僕たちを見てた。
 これは、どう見ても反対じゃない。というか、反対の反対?

 「そうなんだ。やっと両想いになれたんだね。おめでとうっ、さわちゃんっ、ゆうちゃんっ」
 目もうるんでる気がする。
 自分の母親だけど、ふわふわのイメージと童顔って、うるんだ目と相性いいらしい。
 可愛い。

 その隣で、夕夏さんが母さんを見てうるうるしてる。
 「由良っっ。可愛いっっ」
 
 え。
 『孫が欲しい』っていってたのに、ひとり息子が子供を産ませられない状況になったのに、スル―?

 「孫? 優一朗が子供作るわけないじゃない。さわちゃんいるのに。孫ができるとしたら、さわちゃんが優一朗の目をかいくぐって子供を作って(って夕夏さんがいったら、テーブルの下の手が、恋人結びに変えられた。ちょっと、かなり嬉しかったりするんだけど。)、それを優一朗があるとあらゆる手段を使ってさわちゃんごと引き取る、の一択でしょう。よかったよー、息子が犯罪者にならなくて」
 なぜか、母さんを連写しまくってる夕夏さん。

 父さんはというと…………。
 うるうるを通り越して、泣いてる。
 「そうか。いつかこの日が来ると思ってたんだ。でも、もう少し先かと思っていたよ。でもな、これから学校が分かれるっていうときに、優一朗君がなんの手立ても打たない、なんてことはないだろうからな」
 天井を仰いだ父さんの頬に、涙が流れた。
 くっ、っと力を入れると、父さんは優一朗に向き直った。
 「優一朗君、早良を頼んだよ」
 なんで、父さん一番泣いてるの。

 「はい。二人で幸せになります」
 優一朗が僕を見ていった。
 僕も、答える。
 「うん」
 僕も、優一朗の手を握り返した。
 これ、絶対二人とも、手が赤くなってると思う。
 笑っちゃうよね。

 大人三人は全員涙目。
 息子ひとりはイケメン笑顔満開。
 もうひとりの息子は、耳とか赤くなっているだろうけど、でも笑って。
 蓮見家、片桐家の食事会は、なんだかほわほわして、ちょっとセンチメンタルで、でもおいしい食事で幕を閉じた。
 (ちなみに、食事代も優一朗が出してくれた。株とかフィンテックとかなんとか。とにかくごちそうさまでした。)


 宴もたけなわになったところで聞こえた、
 「我が息子ながら、がっつり外堀埋めてきたわよねー。ま、可愛い由良がみられたから、いいけど」
という夕夏さんのひとりごとが、なんだか、ちょっとだけ、『?』だけど。

 うん。
 今年の春は僕にとって、
 結びの季節となった。わけです。
 …………誰への敬語?
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