13 / 13
春 3/3
しおりを挟む
ハイスペックな恋人が欲しい、って思う人もいると思う。
収入、社会的地位、フォロアーの数とか。ぶっちゃげ、見た目とか。
でもさ。
実際その人が自分の横にいてくれるようになったとしたら、どうだろう。
相手の、魅力的なところが好きになったわけで。
たまたま、相手も自分を好きになってくれたわけだけど。
いつまで、隣にいてくれるかなぁ、とか。
他の人を好きになったり、逆に好かれちゃったりするんじゃないかなぁ、とか。
不安は尽きないわけで。
これが。
これがあるから、僕は片恋でいたかったのに。
『ねぇねぇ。この間、蓮見君と歩いてた人、誰? かっこよくない?』
なんてのは、遠回しな方で。
『えーっ、制服着てるの見たよーっ。もしかして年下? 全然オッケー』
『女子大生、興味あるんじゃない? 今度連れて来てよー。一緒に遊ぼう?』
なんて、あからさまにご指名が入ったりする。
でもっ。
優一朗が好きっていったのは、僕だしっ。
だから、一応、カレカレってことだから。
独占欲? とか出しても、怒られる筋合いないと思うっ。
という強い意志でもって、僕から優一朗の紹介はしていない。
わざわざライバル増やす必要ないし。
それでも、地元からそんなに離れてない大学なんで、後輩や、弟妹から情報が入ってくるらしくて、優一朗の名前やスペックなんて、知られちゃう。
ついでに、最近は某超有名国立大のA判定もらってることとか。
将来に備えてフィンテックで資金をゴロゴロ転がしてるらしいとか。
とにかく『一般的に』ウケるスペックがゴロゴロでてきて、僕はちょっと、気が気じゃないわけで。
でもっ。
これはみんなも知らない(と思うっ。)
優一朗ってば、家事出来ないからっ。
(気持ち的には、握りこぶしを作って叫びたい。)
これ、片桐母子の基本スペックで。
お金を払って解決、ってとこはするんだけど、二人とも基本、他人を自分のスペースに入れたがらない。
だから片桐家では玄関、リビング、水回り(お風呂と、もともと使ってない台所)はハウスキーパーさんを入れているそうだけど(会ったことないので、伝聞)、優一朗の個人の部屋は。
うん。まぁ。
掃除なんてなるべくしたくない → 物がなければいいだろう。
って思考がわかるくらい、なぁんにもない。
逆に夕夏さんの部屋は、ものに溢れまくってる。生モノがないからかろうじて腐臭がしないってくらい。
そこで僕が、母さん仕込みの家事(主に料理)なんてすると、二人がひれ伏さんばかりに感謝感動してくれる。
どうやら母さん仕込みの家事能力は、結構使えるらしい。
自分でも結構好きだし。
ぱしっと片付いたときの爽快感とか、ぴかっとなった掃除後とか、箸を伸ばしてくれる料理とか、ぴたっと原状復帰した後片付けとか。
そういう系の会社に就職してもいいし、修行(?)を積んだ後独立したり、アプリ登録とかしてもいいし。
うん。
なんか将来の方向性、見えてきたかも。
そんな話をすると、優一朗は賛成してくれた。
「そうだね。さわちゃんの技術と気遣いは、充分、商品としての価値があると思う。それなら」
の後に続いた言葉で、僕は優一朗に惚れ直したりした。
「家での家事は、一緒にしようね。俺もできるようになるから、教えて」
うん。満点回答。
ここで『それなら、家でもよろしく』とか、『それなら、いつでも専業主夫になれるよね』なんていってたら、動画サイトの離婚ざまぁ案件まっしぐらだ。
「優一朗は、どうするの?」
「うん。コンサルティング会社でも作ろうかと思ってる」
だそうだ。
いや。起業はわかるけど、いきなりコンサルティング会社って。
夕夏さんいわく、優一朗の資産額は結構ガチめらしい。
『息子が、私の会社の大株主になっちゃうかもねー』なんていってた。
なんでそんなにお金を稼いでるのか聞いてみた。
「ん? いろいろ、変えようと思って」
いろいろ?
「うん。今の法律だと、俺とさわちゃんが生活するのに、不便なこととかあるだろ? 例えば養子縁組をしないと、家族になれないし。手術の同意だってできないし。なによりパートナーとして受け取れる権利を、お互い受け取れないし」
まぁ、それはそうだけど。
「俺はさわちゃんを離す気なんてないし。だったら法律的にも縛っ…………じゃなくて、さわちゃんと俺で、家族を作りたいな、って」
なんてイケメンなんだっ。片桐優一朗っってばっ。
僕がかなり感動してると、優一朗の手が、僕の腰に回ってきた。
僕が大学に入ってから、優一朗との物理的身体的距離って、なんかかなり近づいてる。
いや、いいんだけど。というか、うん。
耳が赤くなってるって、自分でもわかる。
「それは、うん。嬉しい。だけど、どうしてそれにお金が必要?」
まぁ、世間のムーヴ的には、デモしたり、裁判起こしたりって感じかな?
時間はかかるかもしれないけど、そこは長期的視野で。うん。
「あぁ、政治家動かして、さっさと法律作らせようと思ってるんだ」
…………イケメン笑顔で、なんか想定外の回答来た。
「法律『作らせる』?」
法律はそんな、クッキーみたいに作れるもんじゃない気がするんだけど。
優一朗は、イケメン笑顔のままいった。
「子供の頃は、自分が政治家になって変えようかと思ってたんだけど、俺が政治家になっても、国会での一票は一票だろ? だったら資金援助でもなんでもして、子飼いの政治家を作ったほうが、票数が稼げるな、って。もちろん、社会的価値観も変えていくから、そこにも活動資金回して。別にずっと、政治家をどうこうしたいってわけじゃないから、この法律と関連法案が決まれば、あとはさわちゃんとの生活資金さえあればいいしね」
え?
高校三年生に、将来の希望を聞いただけだよね?
なんでフィクサー宣言?
え? いや? あれ? と僕の頭が過熱して煙を噴いてる間に、なんだか優一朗の部屋に誘導されて。
その日は夕夏さんは帰ってこない日で。
まぁ、その。
…………お泊り会でした。(以上黙秘っ。)
まぁ、そんなこんなで。
楽な片恋は終わってしまった。
僕の中だけで完結していた、僕一人だけが満足していた思い。
隣の優一朗を見上げる。
(座ってると、立っているときより見上げる角度が低い気がするのは、まぁ、そういうことで。)
たかだか十何年の付き合いじゃわからなかったことも、これから出てくるんだろうな。
僕も、優一朗も。
でも今は。
小首をかしげて僕を見つめ返してくる優一朗。
「どうしたの? さわちゃん?」
…………可愛い。
イケメンじゃだけじゃなくて、可愛いのスペックも持っているとは、どんだけなんだ。
片桐優一朗。
これからの嬉しいことや、悲しくなることや、苦しくなることは、『楽な片恋』をあきらめた代償として、受け止めていく。
それは、『愛おしい両想い』ってことで。
ーー終わりーー
収入、社会的地位、フォロアーの数とか。ぶっちゃげ、見た目とか。
でもさ。
実際その人が自分の横にいてくれるようになったとしたら、どうだろう。
相手の、魅力的なところが好きになったわけで。
たまたま、相手も自分を好きになってくれたわけだけど。
いつまで、隣にいてくれるかなぁ、とか。
他の人を好きになったり、逆に好かれちゃったりするんじゃないかなぁ、とか。
不安は尽きないわけで。
これが。
これがあるから、僕は片恋でいたかったのに。
『ねぇねぇ。この間、蓮見君と歩いてた人、誰? かっこよくない?』
なんてのは、遠回しな方で。
『えーっ、制服着てるの見たよーっ。もしかして年下? 全然オッケー』
『女子大生、興味あるんじゃない? 今度連れて来てよー。一緒に遊ぼう?』
なんて、あからさまにご指名が入ったりする。
でもっ。
優一朗が好きっていったのは、僕だしっ。
だから、一応、カレカレってことだから。
独占欲? とか出しても、怒られる筋合いないと思うっ。
という強い意志でもって、僕から優一朗の紹介はしていない。
わざわざライバル増やす必要ないし。
それでも、地元からそんなに離れてない大学なんで、後輩や、弟妹から情報が入ってくるらしくて、優一朗の名前やスペックなんて、知られちゃう。
ついでに、最近は某超有名国立大のA判定もらってることとか。
将来に備えてフィンテックで資金をゴロゴロ転がしてるらしいとか。
とにかく『一般的に』ウケるスペックがゴロゴロでてきて、僕はちょっと、気が気じゃないわけで。
でもっ。
これはみんなも知らない(と思うっ。)
優一朗ってば、家事出来ないからっ。
(気持ち的には、握りこぶしを作って叫びたい。)
これ、片桐母子の基本スペックで。
お金を払って解決、ってとこはするんだけど、二人とも基本、他人を自分のスペースに入れたがらない。
だから片桐家では玄関、リビング、水回り(お風呂と、もともと使ってない台所)はハウスキーパーさんを入れているそうだけど(会ったことないので、伝聞)、優一朗の個人の部屋は。
うん。まぁ。
掃除なんてなるべくしたくない → 物がなければいいだろう。
って思考がわかるくらい、なぁんにもない。
逆に夕夏さんの部屋は、ものに溢れまくってる。生モノがないからかろうじて腐臭がしないってくらい。
そこで僕が、母さん仕込みの家事(主に料理)なんてすると、二人がひれ伏さんばかりに感謝感動してくれる。
どうやら母さん仕込みの家事能力は、結構使えるらしい。
自分でも結構好きだし。
ぱしっと片付いたときの爽快感とか、ぴかっとなった掃除後とか、箸を伸ばしてくれる料理とか、ぴたっと原状復帰した後片付けとか。
そういう系の会社に就職してもいいし、修行(?)を積んだ後独立したり、アプリ登録とかしてもいいし。
うん。
なんか将来の方向性、見えてきたかも。
そんな話をすると、優一朗は賛成してくれた。
「そうだね。さわちゃんの技術と気遣いは、充分、商品としての価値があると思う。それなら」
の後に続いた言葉で、僕は優一朗に惚れ直したりした。
「家での家事は、一緒にしようね。俺もできるようになるから、教えて」
うん。満点回答。
ここで『それなら、家でもよろしく』とか、『それなら、いつでも専業主夫になれるよね』なんていってたら、動画サイトの離婚ざまぁ案件まっしぐらだ。
「優一朗は、どうするの?」
「うん。コンサルティング会社でも作ろうかと思ってる」
だそうだ。
いや。起業はわかるけど、いきなりコンサルティング会社って。
夕夏さんいわく、優一朗の資産額は結構ガチめらしい。
『息子が、私の会社の大株主になっちゃうかもねー』なんていってた。
なんでそんなにお金を稼いでるのか聞いてみた。
「ん? いろいろ、変えようと思って」
いろいろ?
「うん。今の法律だと、俺とさわちゃんが生活するのに、不便なこととかあるだろ? 例えば養子縁組をしないと、家族になれないし。手術の同意だってできないし。なによりパートナーとして受け取れる権利を、お互い受け取れないし」
まぁ、それはそうだけど。
「俺はさわちゃんを離す気なんてないし。だったら法律的にも縛っ…………じゃなくて、さわちゃんと俺で、家族を作りたいな、って」
なんてイケメンなんだっ。片桐優一朗っってばっ。
僕がかなり感動してると、優一朗の手が、僕の腰に回ってきた。
僕が大学に入ってから、優一朗との物理的身体的距離って、なんかかなり近づいてる。
いや、いいんだけど。というか、うん。
耳が赤くなってるって、自分でもわかる。
「それは、うん。嬉しい。だけど、どうしてそれにお金が必要?」
まぁ、世間のムーヴ的には、デモしたり、裁判起こしたりって感じかな?
時間はかかるかもしれないけど、そこは長期的視野で。うん。
「あぁ、政治家動かして、さっさと法律作らせようと思ってるんだ」
…………イケメン笑顔で、なんか想定外の回答来た。
「法律『作らせる』?」
法律はそんな、クッキーみたいに作れるもんじゃない気がするんだけど。
優一朗は、イケメン笑顔のままいった。
「子供の頃は、自分が政治家になって変えようかと思ってたんだけど、俺が政治家になっても、国会での一票は一票だろ? だったら資金援助でもなんでもして、子飼いの政治家を作ったほうが、票数が稼げるな、って。もちろん、社会的価値観も変えていくから、そこにも活動資金回して。別にずっと、政治家をどうこうしたいってわけじゃないから、この法律と関連法案が決まれば、あとはさわちゃんとの生活資金さえあればいいしね」
え?
高校三年生に、将来の希望を聞いただけだよね?
なんでフィクサー宣言?
え? いや? あれ? と僕の頭が過熱して煙を噴いてる間に、なんだか優一朗の部屋に誘導されて。
その日は夕夏さんは帰ってこない日で。
まぁ、その。
…………お泊り会でした。(以上黙秘っ。)
まぁ、そんなこんなで。
楽な片恋は終わってしまった。
僕の中だけで完結していた、僕一人だけが満足していた思い。
隣の優一朗を見上げる。
(座ってると、立っているときより見上げる角度が低い気がするのは、まぁ、そういうことで。)
たかだか十何年の付き合いじゃわからなかったことも、これから出てくるんだろうな。
僕も、優一朗も。
でも今は。
小首をかしげて僕を見つめ返してくる優一朗。
「どうしたの? さわちゃん?」
…………可愛い。
イケメンじゃだけじゃなくて、可愛いのスペックも持っているとは、どんだけなんだ。
片桐優一朗。
これからの嬉しいことや、悲しくなることや、苦しくなることは、『楽な片恋』をあきらめた代償として、受け止めていく。
それは、『愛おしい両想い』ってことで。
ーー終わりーー
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
17
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる