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5.実力を示してからそれぞれの事情を知るまで③
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ルディオたちが王宮に戻ると、ちょっとした騒ぎになった。
事前に怪我をした子供がいること、魔物たちと交戦したことを伝令に出していたのに、『怪我をしたのは平民の子ども』と勝手に思っていたのだろう。
治癒術でも完治不可能な怪我を負った貴族高官の子弟が多くいたことに、『証』持ちを担当している官吏たちが騒いでいた。
それぞれに実家から賂を受け取って、不自由のない生活をさせると約束していたであろうに、泥だらけにさせ、怪我をさせ、さらに治らない怪我どころか四肢を欠損した子どももいる。
偵察といっても、ほんの散歩のつもりで送り出したのに。
怪我をするとしても、盾となるべき平民たちは多少の怪我を負おうが、一袋の金で片がつく。
その程度のつもりで外に出したのに。
その親や親族たちから自分たちがどんな責めを負わされ、報復を受けるのか。
誰か代わりに責を受ける者はいないのか。
血走った目で探すと、王宮を出た時とほとんど変わらない姿で、平民の子らと戯れている男がいた。
確か平民に出てしまった『英雄の証』の子どもの同行者だったはずだ。
「おい。そこのっ」
高官がわざわざ声をかけても、無礼なことにその男は振り向き向きもしない。
高官が声を荒げる。
「聞こえないのかっ。そこの男っ、話があると申しておるっ」
再び声をかけると、その平民はようやく高官の方を向いた。
すぐに自分の傍に駆け寄り用を承るべきなのに、平民は愚鈍だから困ったものだ。
「なにか、俺に用でも?」
言葉使いもなっていない。
『私めに御用でございましょうか、なんなりと仰せつけくださいませ』だろうが。
緊急な事態ゆえ、寛大な心で許してやる。
「此度は偵察だと聞き及んだおったのに、斯様に被害が出た理由を申してみよ」
「それは、偵察だと思ってるのはこっちだけで、魔物からすればエサが自分から来れば襲うでしょうよ」
「なっ、では、事前の調べが不十分であったと申すのかっ」
「でしょうね」
高官たる自分に臆することなく、平民の男は答える。
後ろで調査の任を任されていたが青ざめているようだが、とりあえず責を問う者をひとり見つけた。
しかし、それだけでは足りない。
「たとえ事前の調べに不足があろうとも、いざというときには『証』を持つ子らを守るもが護衛に務めではないかっ。それを」
「いや。俺、護衛じゃないんで」
「はっ?」
まさか自分の言葉を遮り、あまつさえ反論する平民がいようとは。
ここは自分に責を詰められ、青ざめて震えながら許しを乞う以外の選択肢は許していないというのに。
「なにを馬鹿な」
「多分アンタが心配している『ご子息、ご息女がた』の護衛はあいつらでしょ」
男は肩越しに指をさす。
荷馬車からそれなりに怪我をしている様子の者たちが降ろされている。
中には大怪我の者もいるようだが、生きてい入るようだ。
これでは何のために、わざわざ金を払って雇ったのかわからないではないか。
「それでも、貴様は『証』の子らとともにいたのであろう。そこ子らが魔物に襲われているというのに、貴様はなにもせなんだというのかっ」
「いいぇ? 訓練の一環っていわれてたんで、それなりに戦わせましたけど。再起不能になるような怪我はさせないように見てましたけど」
「なにをいうかっ。レジル子爵のご子息は、足がもがれておるではないかっ。他にもほどんどの方が怪我をされておる。それを貴様はどう責任を取るつもりかっ」
一喝して、高官は安堵した。
これで子らの怪我はこの男の責になる。
とりあえず衆人の前で詰めてしまえば、人は道義や良心でつい自分の責と抱え込んでしまうものだ。
それで今まで他のものに責をおしつけ、今の地位まで登ってきた高官は内心安堵していた。
しかし、目の前の平民は、高官たる自分の思惑を汲むことなく、あまつさえ反論をしてきた。
「いやぁ。自分たちの準備不足や想像力のなさを俺のせいにされてもねぇ。だいたい俺はルカのつきそいで一緒に行っただけだし。そちらさんには一応、いいましたよ。『偵察と思ってるのはこっちだけじゃないでしょうかねぇ』って。それを真に受けなかったのはそっちでしょう」
「で、では、貴様の言を受けなかった者たちに責があるというのだな」
「どうでしょうね。その場にアンタがいたのも覚えてますけど」
いらぬことをいう平民だ。
対面していると、まったく力の抜けた立ち方をしているのに、熱を感じてる。
それは筋肉であり、自信であり、存在としての熱だ。
その熱に押されずに高官が辛うじて対面できている理由は、男が高官に対して興味を持っていないからだ。
「ではっ、貴様は目の間で子どもらが魔物に傷つけられてるのを見て、なにもせなんだということかっ」
それでもいい募る高官に、男が初めて意識を向けた。
好意とは逆の意を含んだ視線に、高官が後ずさる。
「俺の良心まで勝手に決めつけられても困るな。
大体今回の偵察だって、そちらの『ご子息、ご息女がた』には護衛やら身の回りの世話係やらひとり当たりに何人もワサワサつけといて、こっちは子どもより少ない数の大人しかつけてない。
しかも『勝手についてきた』扱いで、なにからなにまで持ち出しだ。
移動手段だってわざと差をつけたんだろ?
それなのに、『子ども』だから助けろって?
死なせずに連れ帰ってやっただけで、御の字だろ。
あんたらが困っている子どもを助けたいんだったら、今すぐ王宮から出て、身に着けてるものすべて売っぱらって、腹を空かせてることもたちに食べ物配りにいけばいい。
立場も権限も与えてないのに、自分たちが期待する責任だけ果たせなんて、図々しい話だな」
男の『不快』の表明に、高官の血の気が引いていく。
今もの時、地位や立場が危うくなるよりも生物として原始的な危機を感じていた。
この男があともうほんの少し気分を害せば、自分は目障りな羽虫のように、まったく罪悪感もなく消されてしまうという恐怖。
高官は初めて命の恐怖を感じた。
「う、…………いや、…………」
男から距離を取ろうと後ずさる。
それを男の一瞥が止めた。
「俺にいいがかり付けてるより、やることがあるんじゃないか? 切られた足だって、拾ってある程度は持って帰ってきてるんだ。お高い治療師やら祈祷師に頼めば、元通りとはいかなくても、なんとか恰好はつくだろ?」
男にいわれて高官はハッとする。
周囲は慌ただしいものの、ただ右往左往しているだけの者もいる。
少しでも取り繕って、『証』の子どもの出た高位の貴族やら富裕な商人たちからの追及をかわさなくては。
自分の仕事がわからない愚か者どもに、命を下すのは最も得意なところだ。
「なにをしているっ。早く治癒師、祈祷師どもを呼んでくるのだっ。傷の軽いものは薬師に任せよ。 無事な者は休ませるよう風呂や食事の準備をせよ。 そのうえで聞けるようならば、聞き取りをせよ」
いい慣れている調子で命令を下していく。
わかりやすい言葉で単純にするのがコツだ。
下々の者には考える必要はなく、ただ命を実行すればいい。
それでも単純な命令すら理解できない愚か者もいる。
「あ、あの……」
「なんだ」
高官の一瞥に、下官が委縮して上目遣いになる。
これこそが正しい対応なのだ。
「用意はどの範囲まですればよろしいのでしょうか……」
「それはもちろん、」
高官は言葉を切った。
男はまだ高官の隣に立っている。
威を押さえているのは、男がそうしているからだ。
少しの興味を持って、高官を見下ろしている。
それは猛獣が小動物の反応を見ているようだ。
いつでも仕留められるが、今ではなくていい、と思っている。
ほんの気まぐれに与えられた猶予だ。
次に口に出す言葉で、自分の生命が左右される。
「ぜ、全員だ。偵察に出ていた全員に決まっているだろうっ。 申し出た者には、全員、しかるべき対応をするようにっ。 全員だっ」
「はっ」
わずかに裏返った声を指摘することなく、下官は高官の命令を実行するべく足早に離れていった。
高官は横目使いに男を見た。
男は僅かに唇の端を上げると、高官に背を向けて去っていった。
危機を脱した安堵に、高官のこめかみから汗が伝った。
地位も立場も脅かされることなく、命の危機は脱した。
あとは受け取った賂を返せといわれないよう、それなりの働きを見せなくては。
一度懐に入れた金を吐き出すなど、もっての外だ。
高官は声を張り上げた。
「なにをもたもたしておるのだっ。治療師はまだかっ。迎えはやったのかっ。治療を終えて、話せる者がいたら、なにがあったのかの聞き取りを…………」
ルカスたちの元に戻ってきたルディオが口を開いた。
「まともな飯と風呂が用意されるみたいだぞー。あと、怪我してるなら薬師に見てもらえよー」
『受け持ち』の子どもたちから、治療が必要な子どもを選んで、薬師の元に送る。
祈祷師に係るほどの怪我を負った子どもは、ルディオの『受け持ち』の中にはいない。
喜ぶ子どもたちの中から、ルカスが近づいてきた。
「先生ってば、優しすぎだと思うー」
ルカスがルディオを見上げながらいってきた。
「そうか?」
「そうだよー。全員生かして連れ帰ってきてあげたのにー。あいつらちゃんとお礼もいわないし」
ルカスの視線の先には、ルディオの『受け持ち』外の『証』持ちの子どもたちがいる。
初めて自分の命が危険にされたことに呆然としている子ども。
緊張の糸が切れて泣きわめいている子ども。
自分の力を思い知って、ただ地面を見つめている子ども。
様々いるが、失意の中であることは間違いない。
「…………あいつら、嫌いかも」
ルカスの言葉に、温度がなかった。
ルディオは天を仰いでうなじを掻いた。
ルカスがルディオ以外に感情を向けるのは珍しいが、それが負の感情であるのは、ルカスにとっていいことではない。
「ま、一回くらいは機会をやってもいいだろ。 これで改善しないようなら、それはそれってことさ。 それよりも」
ルディオはルカスの気を逸らすように、その体を抱え上げた。
「風呂だ、風呂。 今日はがんばったからな。 特別に先生が髪を洗ってやるぞ」
「えっ。ホント? やったー」
途端に上機嫌になるルカスに一抹の不安を感じたもののルディオは『受け持ちの』子どもたちを促し、その場を後にした。
事前に怪我をした子供がいること、魔物たちと交戦したことを伝令に出していたのに、『怪我をしたのは平民の子ども』と勝手に思っていたのだろう。
治癒術でも完治不可能な怪我を負った貴族高官の子弟が多くいたことに、『証』持ちを担当している官吏たちが騒いでいた。
それぞれに実家から賂を受け取って、不自由のない生活をさせると約束していたであろうに、泥だらけにさせ、怪我をさせ、さらに治らない怪我どころか四肢を欠損した子どももいる。
偵察といっても、ほんの散歩のつもりで送り出したのに。
怪我をするとしても、盾となるべき平民たちは多少の怪我を負おうが、一袋の金で片がつく。
その程度のつもりで外に出したのに。
その親や親族たちから自分たちがどんな責めを負わされ、報復を受けるのか。
誰か代わりに責を受ける者はいないのか。
血走った目で探すと、王宮を出た時とほとんど変わらない姿で、平民の子らと戯れている男がいた。
確か平民に出てしまった『英雄の証』の子どもの同行者だったはずだ。
「おい。そこのっ」
高官がわざわざ声をかけても、無礼なことにその男は振り向き向きもしない。
高官が声を荒げる。
「聞こえないのかっ。そこの男っ、話があると申しておるっ」
再び声をかけると、その平民はようやく高官の方を向いた。
すぐに自分の傍に駆け寄り用を承るべきなのに、平民は愚鈍だから困ったものだ。
「なにか、俺に用でも?」
言葉使いもなっていない。
『私めに御用でございましょうか、なんなりと仰せつけくださいませ』だろうが。
緊急な事態ゆえ、寛大な心で許してやる。
「此度は偵察だと聞き及んだおったのに、斯様に被害が出た理由を申してみよ」
「それは、偵察だと思ってるのはこっちだけで、魔物からすればエサが自分から来れば襲うでしょうよ」
「なっ、では、事前の調べが不十分であったと申すのかっ」
「でしょうね」
高官たる自分に臆することなく、平民の男は答える。
後ろで調査の任を任されていたが青ざめているようだが、とりあえず責を問う者をひとり見つけた。
しかし、それだけでは足りない。
「たとえ事前の調べに不足があろうとも、いざというときには『証』を持つ子らを守るもが護衛に務めではないかっ。それを」
「いや。俺、護衛じゃないんで」
「はっ?」
まさか自分の言葉を遮り、あまつさえ反論する平民がいようとは。
ここは自分に責を詰められ、青ざめて震えながら許しを乞う以外の選択肢は許していないというのに。
「なにを馬鹿な」
「多分アンタが心配している『ご子息、ご息女がた』の護衛はあいつらでしょ」
男は肩越しに指をさす。
荷馬車からそれなりに怪我をしている様子の者たちが降ろされている。
中には大怪我の者もいるようだが、生きてい入るようだ。
これでは何のために、わざわざ金を払って雇ったのかわからないではないか。
「それでも、貴様は『証』の子らとともにいたのであろう。そこ子らが魔物に襲われているというのに、貴様はなにもせなんだというのかっ」
「いいぇ? 訓練の一環っていわれてたんで、それなりに戦わせましたけど。再起不能になるような怪我はさせないように見てましたけど」
「なにをいうかっ。レジル子爵のご子息は、足がもがれておるではないかっ。他にもほどんどの方が怪我をされておる。それを貴様はどう責任を取るつもりかっ」
一喝して、高官は安堵した。
これで子らの怪我はこの男の責になる。
とりあえず衆人の前で詰めてしまえば、人は道義や良心でつい自分の責と抱え込んでしまうものだ。
それで今まで他のものに責をおしつけ、今の地位まで登ってきた高官は内心安堵していた。
しかし、目の前の平民は、高官たる自分の思惑を汲むことなく、あまつさえ反論をしてきた。
「いやぁ。自分たちの準備不足や想像力のなさを俺のせいにされてもねぇ。だいたい俺はルカのつきそいで一緒に行っただけだし。そちらさんには一応、いいましたよ。『偵察と思ってるのはこっちだけじゃないでしょうかねぇ』って。それを真に受けなかったのはそっちでしょう」
「で、では、貴様の言を受けなかった者たちに責があるというのだな」
「どうでしょうね。その場にアンタがいたのも覚えてますけど」
いらぬことをいう平民だ。
対面していると、まったく力の抜けた立ち方をしているのに、熱を感じてる。
それは筋肉であり、自信であり、存在としての熱だ。
その熱に押されずに高官が辛うじて対面できている理由は、男が高官に対して興味を持っていないからだ。
「ではっ、貴様は目の間で子どもらが魔物に傷つけられてるのを見て、なにもせなんだということかっ」
それでもいい募る高官に、男が初めて意識を向けた。
好意とは逆の意を含んだ視線に、高官が後ずさる。
「俺の良心まで勝手に決めつけられても困るな。
大体今回の偵察だって、そちらの『ご子息、ご息女がた』には護衛やら身の回りの世話係やらひとり当たりに何人もワサワサつけといて、こっちは子どもより少ない数の大人しかつけてない。
しかも『勝手についてきた』扱いで、なにからなにまで持ち出しだ。
移動手段だってわざと差をつけたんだろ?
それなのに、『子ども』だから助けろって?
死なせずに連れ帰ってやっただけで、御の字だろ。
あんたらが困っている子どもを助けたいんだったら、今すぐ王宮から出て、身に着けてるものすべて売っぱらって、腹を空かせてることもたちに食べ物配りにいけばいい。
立場も権限も与えてないのに、自分たちが期待する責任だけ果たせなんて、図々しい話だな」
男の『不快』の表明に、高官の血の気が引いていく。
今もの時、地位や立場が危うくなるよりも生物として原始的な危機を感じていた。
この男があともうほんの少し気分を害せば、自分は目障りな羽虫のように、まったく罪悪感もなく消されてしまうという恐怖。
高官は初めて命の恐怖を感じた。
「う、…………いや、…………」
男から距離を取ろうと後ずさる。
それを男の一瞥が止めた。
「俺にいいがかり付けてるより、やることがあるんじゃないか? 切られた足だって、拾ってある程度は持って帰ってきてるんだ。お高い治療師やら祈祷師に頼めば、元通りとはいかなくても、なんとか恰好はつくだろ?」
男にいわれて高官はハッとする。
周囲は慌ただしいものの、ただ右往左往しているだけの者もいる。
少しでも取り繕って、『証』の子どもの出た高位の貴族やら富裕な商人たちからの追及をかわさなくては。
自分の仕事がわからない愚か者どもに、命を下すのは最も得意なところだ。
「なにをしているっ。早く治癒師、祈祷師どもを呼んでくるのだっ。傷の軽いものは薬師に任せよ。 無事な者は休ませるよう風呂や食事の準備をせよ。 そのうえで聞けるようならば、聞き取りをせよ」
いい慣れている調子で命令を下していく。
わかりやすい言葉で単純にするのがコツだ。
下々の者には考える必要はなく、ただ命を実行すればいい。
それでも単純な命令すら理解できない愚か者もいる。
「あ、あの……」
「なんだ」
高官の一瞥に、下官が委縮して上目遣いになる。
これこそが正しい対応なのだ。
「用意はどの範囲まですればよろしいのでしょうか……」
「それはもちろん、」
高官は言葉を切った。
男はまだ高官の隣に立っている。
威を押さえているのは、男がそうしているからだ。
少しの興味を持って、高官を見下ろしている。
それは猛獣が小動物の反応を見ているようだ。
いつでも仕留められるが、今ではなくていい、と思っている。
ほんの気まぐれに与えられた猶予だ。
次に口に出す言葉で、自分の生命が左右される。
「ぜ、全員だ。偵察に出ていた全員に決まっているだろうっ。 申し出た者には、全員、しかるべき対応をするようにっ。 全員だっ」
「はっ」
わずかに裏返った声を指摘することなく、下官は高官の命令を実行するべく足早に離れていった。
高官は横目使いに男を見た。
男は僅かに唇の端を上げると、高官に背を向けて去っていった。
危機を脱した安堵に、高官のこめかみから汗が伝った。
地位も立場も脅かされることなく、命の危機は脱した。
あとは受け取った賂を返せといわれないよう、それなりの働きを見せなくては。
一度懐に入れた金を吐き出すなど、もっての外だ。
高官は声を張り上げた。
「なにをもたもたしておるのだっ。治療師はまだかっ。迎えはやったのかっ。治療を終えて、話せる者がいたら、なにがあったのかの聞き取りを…………」
ルカスたちの元に戻ってきたルディオが口を開いた。
「まともな飯と風呂が用意されるみたいだぞー。あと、怪我してるなら薬師に見てもらえよー」
『受け持ち』の子どもたちから、治療が必要な子どもを選んで、薬師の元に送る。
祈祷師に係るほどの怪我を負った子どもは、ルディオの『受け持ち』の中にはいない。
喜ぶ子どもたちの中から、ルカスが近づいてきた。
「先生ってば、優しすぎだと思うー」
ルカスがルディオを見上げながらいってきた。
「そうか?」
「そうだよー。全員生かして連れ帰ってきてあげたのにー。あいつらちゃんとお礼もいわないし」
ルカスの視線の先には、ルディオの『受け持ち』外の『証』持ちの子どもたちがいる。
初めて自分の命が危険にされたことに呆然としている子ども。
緊張の糸が切れて泣きわめいている子ども。
自分の力を思い知って、ただ地面を見つめている子ども。
様々いるが、失意の中であることは間違いない。
「…………あいつら、嫌いかも」
ルカスの言葉に、温度がなかった。
ルディオは天を仰いでうなじを掻いた。
ルカスがルディオ以外に感情を向けるのは珍しいが、それが負の感情であるのは、ルカスにとっていいことではない。
「ま、一回くらいは機会をやってもいいだろ。 これで改善しないようなら、それはそれってことさ。 それよりも」
ルディオはルカスの気を逸らすように、その体を抱え上げた。
「風呂だ、風呂。 今日はがんばったからな。 特別に先生が髪を洗ってやるぞ」
「えっ。ホント? やったー」
途端に上機嫌になるルカスに一抹の不安を感じたもののルディオは『受け持ちの』子どもたちを促し、その場を後にした。
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