サムライ×ドール

多晴

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第一夜『星巡りの夜』

其之六:サムライ、お預かりします②

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「さて、おサムライのお人形くん」

クロ兄さんは今度はお人形に視線を合わせて尋ねた。

「君をうちで引き受けるにあたって、いくつか確認させてくれるかい?まずこの右腕なんだけど…この破損はこちらの過失によるものかな?」
「…いや。これはそなた達には関係ない。この状態で配送を依頼したのだ」
「そうかい!いやぁ、もしこっちの所為なら補償しなきゃならないからねぇ。君、お高そうだから限度額ギリギリまで持ってかれそうだ」

井戸端会議でもするかのようにハハハと笑いながら、それでいて着々と引き受け確認を進めるクロ兄さんに、あたしと蒼太は感心しきりだ。

「動いて喋ってるのに完全に荷物扱いね…我が兄ながら流石プロだわ」
「見習おうね、姉ちゃん!」
「…伝票が付いてたってだけで、アレを荷物認定して持って帰ってきた小紅もなかなかの社畜だと思うぞ…俺は」

ハク兄さんのツッコミをスルーして、あたしは改めてお人形さんをじっくり観察してみた。


──実に出来の良いお人形だ。街中で、いかにもセレブ風の人達が連れ歩いているサイボドールを何度か見かけたことがあるけれど、明らかに質が違う。もし右腕の傷口が見えていなかったら間違いなく人間だと、いや見えていたとしても機械化した人間サイボーグだと普通は思うだろう。あたしだって、伝票に気付かなかったら救急車を呼んでいたところだ。

見た目は十五・六歳くらい。あたしよりちょっと年上に見えるけど、多分背丈はあまり高くはない。おサムライの格好はしているものの武士らしい雰囲気はなく、いかにも男の子のお人形といった感じの細身のスタイルだ。
衣装は全身黒尽くめで、宗十郎頭巾をぶかぶかにしたような変わった形のフードと短いマントが付いたコートを袴の上に着込んでいる。いわゆるインバネスコートのように見えたが、ウエストがきゅっと締まっているため、どちらかと言うと女物のケープコートの様なシルエットだ。袴も黒かと思ったけど、よく見ると菫色と濃い紫のバイカラーで案外洒落っ気がある。それに全体的にお高そうな生地で、素人目にも良い服なのが分かる。

そしてお人形なだけあって、流石に顔立ちが整っている。顔色が少々悪いというか青白いというか、血の気が全く無いものの…うんうん、イケメンさんだ。いや、イケメンと言うよりは美少年と言った方がしっくりくるタイプだろう。
ショートの黒髪は艶やかで、まさに烏の濡れ羽色。ちょっと癖っ毛なようで、ところどころで毛先がクロスしている。特に目を引くのは、天使の輪の部分にラメ入りのワックスの様なものが塗られていてキラキラ光ってるところだ。ちょうど夜空の天の河のようで、とても綺麗。

(惜しむらくは、目付きかしらねぇ…)

──伏し目がちで何やら眠そうな目をしている上、若干眉間に皺まで寄っている。ぱっちりと開けばさぞ大きくて印象的な目だろうと予想できるだけに、なんだか物凄く……惜しい。
それに、よくよく見れば左右の目の色が違う。右目は濃い茶色で、左は濃い藍色だ。この配色も、正直地味と言わざるを得ない。折角のオッドアイ美少年ドールだというのに、何かが惜しい。色々と勿体ない。


そんなあたしの遺憾の意など露知らず、クロ兄さんとお人形さんのやり取りは続いていた。

「…それと、その刀。大小の打刀の方が亡失しているようだけど?」
「………これも…こちらの過失によるものだ」

膝の上に左だけ置かれた白い拳が、ぎゅっと握りしめられたのが見えた。何か悔しさを押し殺すようなそんな仕草だ。その時、伏し目がちで暗い色の瞳に小さな光が点り、一瞬涙のように見えた。
さっきから気になっていたけれど、お人形の左目のあたりで時々光が点滅するのだ。藍色の瞳の中、目尻側の下方の位置に、白くて丸い光が小さく灯っている。それが、クロ兄さんの質問に答える時にチカチカッと光るのだ。その様子はちょうど、うちで現役で使っている年代物のパソコンのアクセスランプの点滅に似ている。

「じゃ、次は既定の確認ね。小柄だからサイズは大丈夫そうだけど、問題は重量だなぁ。飛脚問屋で預かれるのは最大で30㎏までなんだけど…」
「…俺の初期状態での全重量はおよそ47㎏だ。現在は右の前腕と手、全身の約4%が失われているため、およそ45㎏強と推測できる」

──お、今度は結構長文を喋った。うん、声もいい。声変わりの済んだ年相応(と言って良いのか?)の少年らしいテノールだけど、見た目の割には案外低めだ。それでいて平坦で癖のない、いかにも機械然とした口調なものだから、随分と落ち着いている印象を受ける。

「え、じゃあダメだよ。悪いけどうちでは引き受けられない…」
「計算では、全身のあと約32%を斬り離せば15㎏分は削ぎ落せる。右の上腕と、両足を斬り落としてくれ。さすれば30㎏未満に収まる」
「ちょ、ちょっとちょっと」
「これを使ってくれて構わん。電脳と片腕さえ動けばそれでいい」
「いやいやいや、待って待って待って」

──とか何とか考えているうちに、何やら話が物騒な方向に進んでいる。
お人形が脇差をクロ兄さんに差し出し、自分の手足を切り落とせと迫り始めた。これには流石のクロ兄さんも狼狽を隠せない。

「第一、ドールの刀なんてオモチャだろ?斬れる訳が…」
「……そうでもねえみたいだぜ」

二人のやり取りに言葉を挟んだのは、ハク兄さんだった。
ハク兄さんはカウンターに手を伸ばすと、積み上げ展示してあるポスト型の貯金箱を手に取った。陶器製でそこそこ大きさがあるそれを、掌の上で二三度ポンポンと弾ませると。

「おらよ人形。

いきなり、お人形に向かって投げつけた。

──次の瞬間。白い光が、あたし達の間をすり抜けるように一閃した。

あ、と声を発するために口を開く間すら無かった。
ゴト、と畳を打つくぐもった音を視線で追いかけると、貯金箱が真っ二つになった哀れな姿で足元に転がっていた。
いつの間に動いたのだろう。いつの間に抜いたのだろう。気付けば正座していた筈のお人形が片膝立ちで、左手で脇差を逆手に構えている。
あたし達が唖然としたままピクリとも動けずにいる中、ハク兄さんの低い声が止まった空気を静かに揺らした。

「…さっき弄繰り回した時に確認した。ただの夜伽人形セクサドールにこんなもん持たせるかよ。どこの好事家か知らねぇが、人形に刀持たすなんざ悪趣味の極みだぜ」

セク以下略というド直球の単語を聞いて、さっきのやり取りの妙な気まずさの理由を確信した。
──でも、今はそれどころじゃない!

「ちょっとハク兄さん何てことすんのよ!その貯金箱、保険に新規契約してくれたお客様へのノベルティなのに!!」
「「「そっちかよ!!?」」」

思わず叫ぶと、三兄弟に一斉に突っ込まれた。

「い、いやいや、そっちも大事だけど……真剣!これ真剣なのかい!?…うーん、真剣だと専用の特別便になるから、だいぶ送料が嵩むことになるけど…着払いで引き受けちゃっていいのかな…」
「あと、コンポウはお客様の方でやっていただかないとだよね、クロ兄ちゃん!」
「いや、お前らもそうじゃねぇだろ。…何だこれ、俺だけノリ違くね?すげぇ恥ずかしいんだけど!?」

お人形はそんなボケとツッコミが入り混じる家族漫才を笑うでもなく呆れるでもなく、立膝に挟んだ鞘に脇差を片手で器用に納めると、相変わらずの無表情と平坦な口調でぼそりと言った。


「…俺は愛玩人形ではない。『サムライドール』だ」



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