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第一章:廃工場の謎
修に黙秘権無し
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買い物リストを手にした修は、逃げるようにして軽トラまで走っていった。すると、運転席のドアの前、重が手を差し出した状態で修を待っていた。
修「ん? あ、なに、大先生が運転すんの?」
重「うん」
修「そうか、それじゃ頼むわ」
修は重にキーを渡すと助手席に乗り込み、重はミラーについていたゴミを取ってから運転席に乗り込んだ。
重「それじゃ、シートベルトして…… 準備いいかい?」
修「おう」
重「じゃあ、しゅっぱーつ」
ゆっくりと走り出した軽トラは、商業車らしい音を立てていた。
修「ふぃー、一服…… つっても大先生が横にいるから……」
タバコを吸わない重の横で、修はカーラジオをつけた。一服代わりの一曲というやつだった。が、
先ほどラジカセから流れていた流行りの曲が聞こえてきた。
修「……まーた流れてるよ」
重「嫌いじゃないけど、好きでもないんだよねぇ……」
ため息を吐きながら外を見つめる修。半分だけ開けた両側の窓から入る風が、重いため息を外へと運び出していく。
修「皆シャレた服着て歩いてんなぁ」
重「確かにねぇ」
修「でもやっぱあれだな、女の人の方がこう…… オシャレつーか、なんか色んな服があって…… 大人っぽいのも出来るし、なんかあれだよな?」
何を言いたいのかわからない修の言葉に、重は呆れて笑い出す。
重「もう黙ってなさいよ!」
修「なんでだよ?」
重「もっと言いようがあるでしょ?」
修「だって詳しくねぇもん、しょうがないだろ」
重「それにしたってもう少し何かあるでしょ?」
修「だからあれだよ…… あ、これはわかりやすいぞ」
重「なに?」
修「結婚式。結婚式の男女の服装の差だよ。野郎はスーツかタキシード、あと袴。白か黒だ。でも女性陣はもう、二つ三つじゃきかないし、色だって、なんつーか多彩だろ」
重「あぁ、言われてみればね。小物とかアクセサリー入れたら……」
修「もう無限だもの」
重「そりゃ無限だけどさ……」
修「男なんか『もう無限だもの』Tシャツとか着てるからな?」
重「いないよ! 修だけだろ着てるのは!?」
修「俺はホラ、デザインとかじゃなく、綿100パーセントとかを考えてるから」
重「あぁ」
修「意外と肌弱いからさぁ、俺なんか。汗を吸ったり、通気性が良いのじゃないとさ」
重「機能性重視ってことだね?」
修「そうそう。つーか大先生さぁ」
重「ん? なに?」
修「そのシャツの下に着てるTシャツ何柄なの? 朝からチラチラ見えてて気になってたんだけどよ」
重「これはあれですよアナタ、このあいだ買った『妖怪ポストはこちら』Tシャツ……」
修「もう無限だものTシャツと変わんねぇだろ!」
重「ダサ坊にはわかんないかぁ」
修「うるせぇよ!」
そのころ、倉庫の二階では、渡と知哉が蛍光灯交換に悪戦苦闘していた。
渡「やっぱダメ? 外れない?」
知哉「いや…… 外れるとは思うんだけど、なんか力入れたら割れそうで怖い」
渡「別に怪我するのは俺じゃないし……」
知哉「ずいぶん薄れちまったなぁ! 友情がよぉ!」
渡「わかったから、ちょっとやってみてよ。脚立はしっかり押さえてるから」
知哉「はいよ。じゃあ……」
ピキッ!
知哉「うおい! ピキッていったぞ!?」
渡「聞こえない聞こえない」
知哉「聞こえたろ!」
渡「大丈夫だって、俺がついてんだから」
知哉「教授さんがついてるからって……」
渡「インシュランス・ワン!」
知哉「インシュランス・ツー!」
渡「トライ・アゲイン!」
知哉「イエス! アイ・キャン・ドゥーイット! じゃねぇよ! なに勢いでやらせようとしてんだ!」
渡「やりなさいよ早く! 進まないでしょ作業が!」
知哉「しょうがね‥ あ、取れた」
渡「え?」
知哉「ほら、取れたよ」
渡「じゃ、早く俺にお礼の一言ぐらい言いなさ‥」
知哉「何もしてねぇだろ!」
二人が『あーだこーだ』と言っているとき、修と重はホームセンターの中をぐるぐると周っていた。
修「いやだからさ、売り場を考えて動けばいいだろ」
重「教授さんの書いたとおりに周ってるだけでしょ?」
修「書いたとおりに周る必要はないだろって言ってんだよ! 書いた通りの物を買っていけばいいんだからよ」
重「次からそうするから! はい、次は…… 資材館」
修「またかよ! さっき行ったろ!」
重「ベニヤがもう一枚必要だったんだねぇ」
修「だったんだねぇ、じゃねぇよ」
修は大型のカートの向きを面倒くさそうに変えた。
修「俺が紙を見るから、シゲがカート押せよ?」
重「えぇ? あっ、ちょっと待った!」
修「なんだよ?」
重「これこれ、ニトリルの手袋のセットのやつ……」
修「……ん? さっき入れたのは違うの?」
重「さっき入れたのはアレだよ! あの……」
重は手に取ったニトリルの手袋を静かに棚へ戻した。
重「よし、じゃあ資材館に‥」
修「入れてたんだろ!? なぁ!? これだろ、さっき入れたの!」
重「修が横でうるさいから訳わからなくなっちゃうんでしょ!?」
修「だから、俺が見るって言ってんだろ?」
重「先を急ぎましょうか?」
修「なんで頑なにカートの事は断るんだよ!」
重のせいで買い物がはかどらなくなってる頃、倉庫での作業に一区切りついた知哉と渡は、小休止を取っていた。というより、ホームセンター組が帰ってこないと作業を進められないのであった。
知哉「ったくよ……」
知哉はホームセンター組が遅いと、軒先に出て待っていた。
知哉「はぁ…… にしてもいい天気だなぁ……」
午後の二時をまわり、何ともゆったりとした時間が流れていた。プールの授業が終わり、着替えを済ませ、濡れたままの髪で受ける次の授業のような感じである。プールで体が冷えて、本来暑い夏の日差しが心地よく感じられ、ついつい眠ってしまうのだ。
知哉「ふぅー、風が出てきて気持ちがいいな」
風が吹いてくる大通り方面に体の向きを変えた知哉の視界に、曲がり角の電柱付近で話し込む三人組のおばちゃん達が映りこんできた。口元を手で隠し、眉をひそめながら何やらヒソヒソと話している。
知哉「………な、何だ?」
そのおばちゃん三人組の名前が内海洋子、猿渡綱子、倉科可奈子といい、井戸端三人衆として名を馳せていることを、知哉は知る由もなかった。というか別に知らなくていい。
内海「あっ、誰か出てきたわよ?」
倉科「本当だわ。大きい子ねぇ」
猿渡「やだわ、目つきの悪い……」
倉科「前園精密さんを追いやった人たちかしら?」
内海「静かでいい街なのに、ああいうのが来ると困るわよね」
猿渡「本当だわ。この道も通りづらくなっちゃうわ」
何度も瞬きをした友哉は井戸端三人衆から目をそらした。大きなヒソヒソ声が知哉の耳に届いていたのだ。
知哉「お、俺ってそんなに目つき悪いかな……」
落ち込む知哉はもう一度、井戸端三人衆へと視線を向けた。
渡「本当に目つき悪いですよねぇ」
内海「あら、あなたもそう思う?」
渡「思います、思います。まーた髪型やら服装やらが、ねぇ?」
倉科「そうそう、少しだらしがないのよ」
渡「ドラマで出てくるチンピラみたいな?」
猿渡「わかるわぁ、因縁つけてきて」
いつの間にか渡が加わり、三人衆は四人衆になっていた。そして四人衆は時折、知哉を指差して笑っていた。知哉はムスッとした表情で四人衆へ近づく。
知哉「お前は何をやってんだ?」
渡「まぁ、見ず知らずのお姉さんたちの前で、はしたない口の利き方をして」
三人衆の年長者、内海さんが渡の肩をポンッと叩いた。
内海「まぁ! お姉さんだなんて! 褒めてもお饅頭ぐらいしか出ないわよ!」
そういってカバンから取り出したものを渡に差し出した。
渡「あの、これ大福ですけど?」
倉科「やだ、内海さんたら!」
内海「やだ、もう恥ずかしいわぁ」
猿渡「おほほほほほほほっ!!」
内海「おほほほほほほほっ!!」
倉科「おほほほほほほほっ!!」
三人衆の高笑いは大通りからの風に乗り、遠くまで運ばれていった。
知哉「……………」
知哉はあきれた表情のまま、四人衆の前で立ちつくしていた。
渡「おほほほほほほほっ…… 冗談だよ知ちゃん」
知哉「何が冗談なんだよ」
渡「あっ皆さん、こいつは見た目で損してるだけで、なかなかいい奴なんですよ」
猿渡「あら、お知り合いなの?」
渡「えぇ、幼い頃からの友人で、今度この廃工場で一緒に何でも屋をやるんです」
内海「何でも屋?」
その疑問符には知哉が説明役をかって出た。
知哉「ええ、何でも屋です。法律に触れないこと、自分たちができる範囲内のことなら何でもやるんです」
倉科「例えば…… 何かしらねぇ?」
知哉「例えばですね、犬の散歩に買い物、庭の掃除に部屋の掃除、ちょっとした修理や仕事のお手伝い、つまりは雑用全般です。あっ、あとですね、子供たちに勉強も教えてあげられると思うんですよ。何たってこの渡はですね、大学はあの国立の千葉新国際フレキシブル大学ですからね。略してチン……」
知哉は言い終える前に渡の左のスマッシュを受けて吹き飛ばされた。
渡「そう略してるのはお前だけだろ! さぁ皆さん、中でも見ていってください」
渡は三人衆を倉庫のほうへと案内した。起き上がった知哉はため息をしながらそのあとをついていく。
渡「まだ少しゴチャついていますが……」
内海「あらー、でもお店っぽくなってるんじゃないの?」
猿渡「そうね、いい感じじゃない」
三人衆の最年少、倉科さんは倉庫の中を見ていたが、ふと何かに気付いて外へと出た。
倉科「それにしても、もう少し外の壁も綺麗にしたほうがいいわねぇ」
その指摘には知哉が答えた。
知哉「そう思いましてね、俺の塗装業やってる仲間に塗り直してもらうんですよ」
倉科「あら、そうなの? 何色にするの?」
知哉「えぇ、話し合ったんですけど、周りの景観を壊さないような控えめの色にしようということになって、萌葱色に決まりました」
倉科「あら萌葱色? いいじゃないの!」
その時、倉庫見学を終えた内海さんと猿渡さんが外に出てきた。二人ともどこか楽しげな表情している。
内海「面白いのね倉庫って」
猿渡「そうね、こんなに面白いとは思わなかったわ」
渡「楽しんでいただけてよかったですよ」
三人衆はそのあとも話し合いながら倉庫をいろいろな角度から見ていた。そして時折、指をさしながら笑うのである。
知哉「何か、あのお三方は若いねぇ」
その言葉に『へっ?』と渡は知哉を見る。
渡「知ちゃんって熟女好きだっけ?」
知哉「……ちげーよ。つーか熟女好きだったら若いねぇとか言わねぇだろ。わかんねぇけど」
渡「あっそうか。よくわかんないけど」
三人衆は渡と知哉に近づいてきた。
猿渡「いやね、ちょっと前から気になってたのよ」
内海「そうそう、4人の若い男の子が前園精密跡地で何かやってるって」
倉科「変なことやってたらどうしようかしらって言ってたの」
内海「でも、安心したわ」
猿渡「そうね、何でも屋ってなんか面白そうだし」
倉科「機会があったら使わせてもらうかも」
渡と知哉は満面の笑みを見せ、きちっと頭を下げた。
渡「ぜひ、お願いします!」
知哉「ぜひ、お願いします!」
三人衆もそのお辞儀と笑顔でより安心感を覚えた。二人も近所の人たちとは上手くやっていけそうだと内心喜んでいた。だがそのあとの内海さんの言葉で、二人は不安になった。
内海「それにしても開店するのはやっぱり大変なのね。昨日も夜遅くまで準備してたでしょ?」
昨日は夕方には全員帰っている。
内海「私の家の窓から、ここの工場の二階部分が見えるのよ。それで昨日ね、夜中にお手洗いに起きたの、そしたらこの工場の二階の奥の部屋に人影が見えて……」
渡「人影?」
内海「そうよ、黒っぽい服着た人影が工場の窓から見えたの。そうそう、ダンスが得意な人いる?」
渡「えっ、どうしてですか?」
内海「歩き方が『むーんうぉーく』みたいだったから」
知哉と渡は呆然としたままの表情して固まっていた。
内海「前に歩いているように見えて後ろに下がるのよね? あの人は前向きにもやってたけど……」
知哉「あ、あの、それってどこの窓ですか?」
内海「えっ? こっちの右側の奥。つまり裏側ってことかしら」
知哉「う、裏側ですか!?」
倉科「内海さん! そろそろ特売の時間よ!」
内海「あら、もうそんな時間? じゃ、あたしたちこれで」
猿渡「頑張ってね、応援してあげるから!」
三人衆は苦笑いで応える二人に微笑むと、大通りのほうへと歩き出した。二人は三人衆の姿が見えなくなると、倉庫の裏口へ急いだ。内海さんの言った窓を確認するためだ。
渡「うーわ…… 窓がある……」
知哉「……さっき電球を替えてた部屋だろ? 窓無かったよな?」
渡「無かった」
二人はおぼつかない足取りで倉庫の前まで戻ってくると、事務所の駐車スペースから訳のわからないエンジン音が聞こえてきた。
修「……やっぱり修理出したほうがいいな」
重「ホームセンターからここまで持たないと思ったもん」
ホームセンターから戻った二人が荷物を抱えて歩いてきた。
修「後で修理会社に電話して引き取りに来てもらうわ……」
重「そうしたほうがいいね」
修「んっ?」
修は倉庫の前で立ちすくむ二人を見つけた。何かしらのことを視線で訴えているのはわかったが、それ以上はわからなかった。二人を見つめ立ち止まった修を追い抜かした重は、すっとんきょな声を出して手に持っていた袋を突き出した。
重「買ってきたよ。ん、どうかしたの二人とも?」
すぐに知哉が反応した。
知哉「……大先生、倉庫の二階の部屋あるだろ?」
重「ん? それがどうかしたの?」
知哉「右の壁に窓はあるけど、奥の壁にはないよな?」
重「えっ? ちょっと何よ? 気になるじゃない」
重は荷物を倉庫内に置き、階段を上がると問題の部屋の中に入っていった。
重「うーん、奥の壁には窓はないよ!」
部屋から出てきた重は階段を下りながら声を出した。
重「ねぇ、窓が無いのが何なの!?」
知哉「裏口からまわって見てみな……」
遠まわしな物の言い方に、重は急いで裏に回った。そして新事実を知るや否や、興奮した様子で戻ってきた。
重「あるよ! 中にないのに、外に窓があるよ! なにあれ!?」
渡「さぁ、なんだろうねぇ?」
渡の鋭い視線が修を貫く。
修「い、いやぁ……………」
知哉「昨日の夜中、その窓から人影を見たっていう人がいるんだけど?」
井戸端三人衆お墨付きの目つきの悪い知哉が修を睨み付ける。
重「えぇっ!? なにそれ!?」
重は信じられない様子で修を見つめた。
修「さよなら」
持っていた荷物を放り投げた修は、大通りに向かって走り出した。が振り返った瞬間、修は何かにぶつかり跳ね返された。
修「うごっ!」
金剛寺「おや、あの時の!」
たまたま近くを歩いていた金剛寺に跳ね返された修はその場に倒れこんだ。
修「金剛寺!? おい、倒れた相手に手も差し伸べないのか! それのどこがダンディ‥」
渡「はい、確保!」
文句をたれていた修は、知哉と重にあっさりと捕まえられてしまった。
知哉「助かりましたよ!」
金剛寺「えっ? あ、どうも…」
金剛寺はなんだかよくわからない状況に不安を覚えたのか、足早に去っていってしまった。
渡「よし、事務所の中へ連行する。修、お前には黙秘権はない。洗いざらい話してもらうからな!」
観念した修はおとなしく事務所の中に連れて行かれた。
修「ん? あ、なに、大先生が運転すんの?」
重「うん」
修「そうか、それじゃ頼むわ」
修は重にキーを渡すと助手席に乗り込み、重はミラーについていたゴミを取ってから運転席に乗り込んだ。
重「それじゃ、シートベルトして…… 準備いいかい?」
修「おう」
重「じゃあ、しゅっぱーつ」
ゆっくりと走り出した軽トラは、商業車らしい音を立てていた。
修「ふぃー、一服…… つっても大先生が横にいるから……」
タバコを吸わない重の横で、修はカーラジオをつけた。一服代わりの一曲というやつだった。が、
先ほどラジカセから流れていた流行りの曲が聞こえてきた。
修「……まーた流れてるよ」
重「嫌いじゃないけど、好きでもないんだよねぇ……」
ため息を吐きながら外を見つめる修。半分だけ開けた両側の窓から入る風が、重いため息を外へと運び出していく。
修「皆シャレた服着て歩いてんなぁ」
重「確かにねぇ」
修「でもやっぱあれだな、女の人の方がこう…… オシャレつーか、なんか色んな服があって…… 大人っぽいのも出来るし、なんかあれだよな?」
何を言いたいのかわからない修の言葉に、重は呆れて笑い出す。
重「もう黙ってなさいよ!」
修「なんでだよ?」
重「もっと言いようがあるでしょ?」
修「だって詳しくねぇもん、しょうがないだろ」
重「それにしたってもう少し何かあるでしょ?」
修「だからあれだよ…… あ、これはわかりやすいぞ」
重「なに?」
修「結婚式。結婚式の男女の服装の差だよ。野郎はスーツかタキシード、あと袴。白か黒だ。でも女性陣はもう、二つ三つじゃきかないし、色だって、なんつーか多彩だろ」
重「あぁ、言われてみればね。小物とかアクセサリー入れたら……」
修「もう無限だもの」
重「そりゃ無限だけどさ……」
修「男なんか『もう無限だもの』Tシャツとか着てるからな?」
重「いないよ! 修だけだろ着てるのは!?」
修「俺はホラ、デザインとかじゃなく、綿100パーセントとかを考えてるから」
重「あぁ」
修「意外と肌弱いからさぁ、俺なんか。汗を吸ったり、通気性が良いのじゃないとさ」
重「機能性重視ってことだね?」
修「そうそう。つーか大先生さぁ」
重「ん? なに?」
修「そのシャツの下に着てるTシャツ何柄なの? 朝からチラチラ見えてて気になってたんだけどよ」
重「これはあれですよアナタ、このあいだ買った『妖怪ポストはこちら』Tシャツ……」
修「もう無限だものTシャツと変わんねぇだろ!」
重「ダサ坊にはわかんないかぁ」
修「うるせぇよ!」
そのころ、倉庫の二階では、渡と知哉が蛍光灯交換に悪戦苦闘していた。
渡「やっぱダメ? 外れない?」
知哉「いや…… 外れるとは思うんだけど、なんか力入れたら割れそうで怖い」
渡「別に怪我するのは俺じゃないし……」
知哉「ずいぶん薄れちまったなぁ! 友情がよぉ!」
渡「わかったから、ちょっとやってみてよ。脚立はしっかり押さえてるから」
知哉「はいよ。じゃあ……」
ピキッ!
知哉「うおい! ピキッていったぞ!?」
渡「聞こえない聞こえない」
知哉「聞こえたろ!」
渡「大丈夫だって、俺がついてんだから」
知哉「教授さんがついてるからって……」
渡「インシュランス・ワン!」
知哉「インシュランス・ツー!」
渡「トライ・アゲイン!」
知哉「イエス! アイ・キャン・ドゥーイット! じゃねぇよ! なに勢いでやらせようとしてんだ!」
渡「やりなさいよ早く! 進まないでしょ作業が!」
知哉「しょうがね‥ あ、取れた」
渡「え?」
知哉「ほら、取れたよ」
渡「じゃ、早く俺にお礼の一言ぐらい言いなさ‥」
知哉「何もしてねぇだろ!」
二人が『あーだこーだ』と言っているとき、修と重はホームセンターの中をぐるぐると周っていた。
修「いやだからさ、売り場を考えて動けばいいだろ」
重「教授さんの書いたとおりに周ってるだけでしょ?」
修「書いたとおりに周る必要はないだろって言ってんだよ! 書いた通りの物を買っていけばいいんだからよ」
重「次からそうするから! はい、次は…… 資材館」
修「またかよ! さっき行ったろ!」
重「ベニヤがもう一枚必要だったんだねぇ」
修「だったんだねぇ、じゃねぇよ」
修は大型のカートの向きを面倒くさそうに変えた。
修「俺が紙を見るから、シゲがカート押せよ?」
重「えぇ? あっ、ちょっと待った!」
修「なんだよ?」
重「これこれ、ニトリルの手袋のセットのやつ……」
修「……ん? さっき入れたのは違うの?」
重「さっき入れたのはアレだよ! あの……」
重は手に取ったニトリルの手袋を静かに棚へ戻した。
重「よし、じゃあ資材館に‥」
修「入れてたんだろ!? なぁ!? これだろ、さっき入れたの!」
重「修が横でうるさいから訳わからなくなっちゃうんでしょ!?」
修「だから、俺が見るって言ってんだろ?」
重「先を急ぎましょうか?」
修「なんで頑なにカートの事は断るんだよ!」
重のせいで買い物がはかどらなくなってる頃、倉庫での作業に一区切りついた知哉と渡は、小休止を取っていた。というより、ホームセンター組が帰ってこないと作業を進められないのであった。
知哉「ったくよ……」
知哉はホームセンター組が遅いと、軒先に出て待っていた。
知哉「はぁ…… にしてもいい天気だなぁ……」
午後の二時をまわり、何ともゆったりとした時間が流れていた。プールの授業が終わり、着替えを済ませ、濡れたままの髪で受ける次の授業のような感じである。プールで体が冷えて、本来暑い夏の日差しが心地よく感じられ、ついつい眠ってしまうのだ。
知哉「ふぅー、風が出てきて気持ちがいいな」
風が吹いてくる大通り方面に体の向きを変えた知哉の視界に、曲がり角の電柱付近で話し込む三人組のおばちゃん達が映りこんできた。口元を手で隠し、眉をひそめながら何やらヒソヒソと話している。
知哉「………な、何だ?」
そのおばちゃん三人組の名前が内海洋子、猿渡綱子、倉科可奈子といい、井戸端三人衆として名を馳せていることを、知哉は知る由もなかった。というか別に知らなくていい。
内海「あっ、誰か出てきたわよ?」
倉科「本当だわ。大きい子ねぇ」
猿渡「やだわ、目つきの悪い……」
倉科「前園精密さんを追いやった人たちかしら?」
内海「静かでいい街なのに、ああいうのが来ると困るわよね」
猿渡「本当だわ。この道も通りづらくなっちゃうわ」
何度も瞬きをした友哉は井戸端三人衆から目をそらした。大きなヒソヒソ声が知哉の耳に届いていたのだ。
知哉「お、俺ってそんなに目つき悪いかな……」
落ち込む知哉はもう一度、井戸端三人衆へと視線を向けた。
渡「本当に目つき悪いですよねぇ」
内海「あら、あなたもそう思う?」
渡「思います、思います。まーた髪型やら服装やらが、ねぇ?」
倉科「そうそう、少しだらしがないのよ」
渡「ドラマで出てくるチンピラみたいな?」
猿渡「わかるわぁ、因縁つけてきて」
いつの間にか渡が加わり、三人衆は四人衆になっていた。そして四人衆は時折、知哉を指差して笑っていた。知哉はムスッとした表情で四人衆へ近づく。
知哉「お前は何をやってんだ?」
渡「まぁ、見ず知らずのお姉さんたちの前で、はしたない口の利き方をして」
三人衆の年長者、内海さんが渡の肩をポンッと叩いた。
内海「まぁ! お姉さんだなんて! 褒めてもお饅頭ぐらいしか出ないわよ!」
そういってカバンから取り出したものを渡に差し出した。
渡「あの、これ大福ですけど?」
倉科「やだ、内海さんたら!」
内海「やだ、もう恥ずかしいわぁ」
猿渡「おほほほほほほほっ!!」
内海「おほほほほほほほっ!!」
倉科「おほほほほほほほっ!!」
三人衆の高笑いは大通りからの風に乗り、遠くまで運ばれていった。
知哉「……………」
知哉はあきれた表情のまま、四人衆の前で立ちつくしていた。
渡「おほほほほほほほっ…… 冗談だよ知ちゃん」
知哉「何が冗談なんだよ」
渡「あっ皆さん、こいつは見た目で損してるだけで、なかなかいい奴なんですよ」
猿渡「あら、お知り合いなの?」
渡「えぇ、幼い頃からの友人で、今度この廃工場で一緒に何でも屋をやるんです」
内海「何でも屋?」
その疑問符には知哉が説明役をかって出た。
知哉「ええ、何でも屋です。法律に触れないこと、自分たちができる範囲内のことなら何でもやるんです」
倉科「例えば…… 何かしらねぇ?」
知哉「例えばですね、犬の散歩に買い物、庭の掃除に部屋の掃除、ちょっとした修理や仕事のお手伝い、つまりは雑用全般です。あっ、あとですね、子供たちに勉強も教えてあげられると思うんですよ。何たってこの渡はですね、大学はあの国立の千葉新国際フレキシブル大学ですからね。略してチン……」
知哉は言い終える前に渡の左のスマッシュを受けて吹き飛ばされた。
渡「そう略してるのはお前だけだろ! さぁ皆さん、中でも見ていってください」
渡は三人衆を倉庫のほうへと案内した。起き上がった知哉はため息をしながらそのあとをついていく。
渡「まだ少しゴチャついていますが……」
内海「あらー、でもお店っぽくなってるんじゃないの?」
猿渡「そうね、いい感じじゃない」
三人衆の最年少、倉科さんは倉庫の中を見ていたが、ふと何かに気付いて外へと出た。
倉科「それにしても、もう少し外の壁も綺麗にしたほうがいいわねぇ」
その指摘には知哉が答えた。
知哉「そう思いましてね、俺の塗装業やってる仲間に塗り直してもらうんですよ」
倉科「あら、そうなの? 何色にするの?」
知哉「えぇ、話し合ったんですけど、周りの景観を壊さないような控えめの色にしようということになって、萌葱色に決まりました」
倉科「あら萌葱色? いいじゃないの!」
その時、倉庫見学を終えた内海さんと猿渡さんが外に出てきた。二人ともどこか楽しげな表情している。
内海「面白いのね倉庫って」
猿渡「そうね、こんなに面白いとは思わなかったわ」
渡「楽しんでいただけてよかったですよ」
三人衆はそのあとも話し合いながら倉庫をいろいろな角度から見ていた。そして時折、指をさしながら笑うのである。
知哉「何か、あのお三方は若いねぇ」
その言葉に『へっ?』と渡は知哉を見る。
渡「知ちゃんって熟女好きだっけ?」
知哉「……ちげーよ。つーか熟女好きだったら若いねぇとか言わねぇだろ。わかんねぇけど」
渡「あっそうか。よくわかんないけど」
三人衆は渡と知哉に近づいてきた。
猿渡「いやね、ちょっと前から気になってたのよ」
内海「そうそう、4人の若い男の子が前園精密跡地で何かやってるって」
倉科「変なことやってたらどうしようかしらって言ってたの」
内海「でも、安心したわ」
猿渡「そうね、何でも屋ってなんか面白そうだし」
倉科「機会があったら使わせてもらうかも」
渡と知哉は満面の笑みを見せ、きちっと頭を下げた。
渡「ぜひ、お願いします!」
知哉「ぜひ、お願いします!」
三人衆もそのお辞儀と笑顔でより安心感を覚えた。二人も近所の人たちとは上手くやっていけそうだと内心喜んでいた。だがそのあとの内海さんの言葉で、二人は不安になった。
内海「それにしても開店するのはやっぱり大変なのね。昨日も夜遅くまで準備してたでしょ?」
昨日は夕方には全員帰っている。
内海「私の家の窓から、ここの工場の二階部分が見えるのよ。それで昨日ね、夜中にお手洗いに起きたの、そしたらこの工場の二階の奥の部屋に人影が見えて……」
渡「人影?」
内海「そうよ、黒っぽい服着た人影が工場の窓から見えたの。そうそう、ダンスが得意な人いる?」
渡「えっ、どうしてですか?」
内海「歩き方が『むーんうぉーく』みたいだったから」
知哉と渡は呆然としたままの表情して固まっていた。
内海「前に歩いているように見えて後ろに下がるのよね? あの人は前向きにもやってたけど……」
知哉「あ、あの、それってどこの窓ですか?」
内海「えっ? こっちの右側の奥。つまり裏側ってことかしら」
知哉「う、裏側ですか!?」
倉科「内海さん! そろそろ特売の時間よ!」
内海「あら、もうそんな時間? じゃ、あたしたちこれで」
猿渡「頑張ってね、応援してあげるから!」
三人衆は苦笑いで応える二人に微笑むと、大通りのほうへと歩き出した。二人は三人衆の姿が見えなくなると、倉庫の裏口へ急いだ。内海さんの言った窓を確認するためだ。
渡「うーわ…… 窓がある……」
知哉「……さっき電球を替えてた部屋だろ? 窓無かったよな?」
渡「無かった」
二人はおぼつかない足取りで倉庫の前まで戻ってくると、事務所の駐車スペースから訳のわからないエンジン音が聞こえてきた。
修「……やっぱり修理出したほうがいいな」
重「ホームセンターからここまで持たないと思ったもん」
ホームセンターから戻った二人が荷物を抱えて歩いてきた。
修「後で修理会社に電話して引き取りに来てもらうわ……」
重「そうしたほうがいいね」
修「んっ?」
修は倉庫の前で立ちすくむ二人を見つけた。何かしらのことを視線で訴えているのはわかったが、それ以上はわからなかった。二人を見つめ立ち止まった修を追い抜かした重は、すっとんきょな声を出して手に持っていた袋を突き出した。
重「買ってきたよ。ん、どうかしたの二人とも?」
すぐに知哉が反応した。
知哉「……大先生、倉庫の二階の部屋あるだろ?」
重「ん? それがどうかしたの?」
知哉「右の壁に窓はあるけど、奥の壁にはないよな?」
重「えっ? ちょっと何よ? 気になるじゃない」
重は荷物を倉庫内に置き、階段を上がると問題の部屋の中に入っていった。
重「うーん、奥の壁には窓はないよ!」
部屋から出てきた重は階段を下りながら声を出した。
重「ねぇ、窓が無いのが何なの!?」
知哉「裏口からまわって見てみな……」
遠まわしな物の言い方に、重は急いで裏に回った。そして新事実を知るや否や、興奮した様子で戻ってきた。
重「あるよ! 中にないのに、外に窓があるよ! なにあれ!?」
渡「さぁ、なんだろうねぇ?」
渡の鋭い視線が修を貫く。
修「い、いやぁ……………」
知哉「昨日の夜中、その窓から人影を見たっていう人がいるんだけど?」
井戸端三人衆お墨付きの目つきの悪い知哉が修を睨み付ける。
重「えぇっ!? なにそれ!?」
重は信じられない様子で修を見つめた。
修「さよなら」
持っていた荷物を放り投げた修は、大通りに向かって走り出した。が振り返った瞬間、修は何かにぶつかり跳ね返された。
修「うごっ!」
金剛寺「おや、あの時の!」
たまたま近くを歩いていた金剛寺に跳ね返された修はその場に倒れこんだ。
修「金剛寺!? おい、倒れた相手に手も差し伸べないのか! それのどこがダンディ‥」
渡「はい、確保!」
文句をたれていた修は、知哉と重にあっさりと捕まえられてしまった。
知哉「助かりましたよ!」
金剛寺「えっ? あ、どうも…」
金剛寺はなんだかよくわからない状況に不安を覚えたのか、足早に去っていってしまった。
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