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梅雨が明けて、本格的に夏に入ろうとしてきた頃。
わたし達がいる六年二組では、六年生だけで行く、臨海学校の準備を始めていた。しおりが配られ、あとは宿泊部屋とバスの席決めだけ。行く日は、七月の上旬、夏休みに入る少し手前くらいだ。
そして、今日やることはバスの席決め。わたしは誰と組むかは、もう決まっている。毎日一緒に下校をしている人だ。その友達と、とっくに約束をしていたため、わたしは特になんとも思っていなかった。
だから、油断をしていたのかもしれない。
「じゃあ、バスの席決めするから二人組になって下さい」
担任の、河北先生が気だるげにそう言った。
河北先生は、常にやる気が無い先生で、今年で五十二歳になる男の先生だ。頭のてっぺんは、髪の毛が薄くなりつつある。なのに、腕と脚だけは体毛が濃い。
先生の言葉で、クラスの全員が席から立ち上がり、みんなペアになりたい人を探して集まった。机や椅子が動かされて、ガタガタと音が鳴り響く。
わたしもゆっくりとだが、ペアになる予定の友達のところに行った。
教室内は、授業中であるというのにもかかわらず、みんなの話し声は徐々に大きくなっていく。
「茉那・・・・・・って、え?」
ペアになろうと約束していた茉那のところに行くと、隣には同じクラスの莉沙ちゃん。二人は楽しげに、笑いながら話している。そこには、誰かが入る隙がない。
わたしは取り残された状態で、どう声をかけたらいいのか分からず、その場に立ち止まった。
最近、二人が仲良くしているのは知っていた。だからか、人見知りのわたしでも、莉沙ちゃんとは話す機会が多かった。けれど、自分から話しかけにいくことはあまりしなかった。率直に言うと、好きではなかったからだ。
莉沙ちゃんは、わりと性格がキツい方で、わたしにとって苦手なタイプの女の子だった。
「あ、こより。どうしたの?」
茉那が、わたしに気づいてそう言った。話していた莉沙ちゃんも、わたしを見る。
どうしたの、って・・・・・・。
言い方からして、約束のことを忘れているのか、茉那はケロッとした顔をしている。莉沙ちゃんは、最初から何のことか分かっていなかったため、茉那とわたしを交互に見ていた。
本当に忘れているのかな。けど、約束したのは一昨日だし。
決まった人からその場に座っていくスタイルだったため、周りの人達も座っていないわたし達を見ていた。視線が、“早く決めろよ”と言っているようで、胸辺りが針で刺されたように痛くなる。
「どうしたのって、一緒に座るって約束したじゃん」
下唇を噛んで言った。茉那はそれでも、何も知らないというような顔。
もしかして、約束なんてしてなかったのかな。現実に似た夢でも見たのかな。
「えー? してないよ?」
「でも、一昨日・・・・・・」
これ以上言うと、わたしが作り話をしたとみんなに思われてしまう。そうなるのは絶対に嫌だ。喉元まででかかった言葉を、唾で飲み込む。
喉の近くと目頭が熱い。メンタルが弱いわたしには、これ以上の言葉は出なかった。
なにより、他の女子の視線が痛い。
「女子だけ決まってねぇのか」
頬杖をつきながら見ていた河北先生が、立っていたわたし達を見て言った。
この状況、前にもあった気がする。
その時は席替えの時で、自由に決めた時だ。他の女子のグループが揉めて、結局くじ引きになった。今回もまたそうなってしまうのか。
わたしも、約束なんて忘れてしまえば良かったのかな。
先生は、溜め息を吐いて、口を開いて言った。
「くじ引きだな」
女子全員の顔が歪むのが分かる。みんな、私を見た。
梅雨が明けて、本格的に夏に入ろうとしてきた頃。
わたし達がいる六年二組では、六年生だけで行く、臨海学校の準備を始めていた。しおりが配られ、あとは宿泊部屋とバスの席決めだけ。行く日は、七月の上旬、夏休みに入る少し手前くらいだ。
そして、今日やることはバスの席決め。わたしは誰と組むかは、もう決まっている。毎日一緒に下校をしている人だ。その友達と、とっくに約束をしていたため、わたしは特になんとも思っていなかった。
だから、油断をしていたのかもしれない。
「じゃあ、バスの席決めするから二人組になって下さい」
担任の、河北先生が気だるげにそう言った。
河北先生は、常にやる気が無い先生で、今年で五十二歳になる男の先生だ。頭のてっぺんは、髪の毛が薄くなりつつある。なのに、腕と脚だけは体毛が濃い。
先生の言葉で、クラスの全員が席から立ち上がり、みんなペアになりたい人を探して集まった。机や椅子が動かされて、ガタガタと音が鳴り響く。
わたしもゆっくりとだが、ペアになる予定の友達のところに行った。
教室内は、授業中であるというのにもかかわらず、みんなの話し声は徐々に大きくなっていく。
「茉那・・・・・・って、え?」
ペアになろうと約束していた茉那のところに行くと、隣には同じクラスの莉沙ちゃん。二人は楽しげに、笑いながら話している。そこには、誰かが入る隙がない。
わたしは取り残された状態で、どう声をかけたらいいのか分からず、その場に立ち止まった。
最近、二人が仲良くしているのは知っていた。だからか、人見知りのわたしでも、莉沙ちゃんとは話す機会が多かった。けれど、自分から話しかけにいくことはあまりしなかった。率直に言うと、好きではなかったからだ。
莉沙ちゃんは、わりと性格がキツい方で、わたしにとって苦手なタイプの女の子だった。
「あ、こより。どうしたの?」
茉那が、わたしに気づいてそう言った。話していた莉沙ちゃんも、わたしを見る。
どうしたの、って・・・・・・。
言い方からして、約束のことを忘れているのか、茉那はケロッとした顔をしている。莉沙ちゃんは、最初から何のことか分かっていなかったため、茉那とわたしを交互に見ていた。
本当に忘れているのかな。けど、約束したのは一昨日だし。
決まった人からその場に座っていくスタイルだったため、周りの人達も座っていないわたし達を見ていた。視線が、“早く決めろよ”と言っているようで、胸辺りが針で刺されたように痛くなる。
「どうしたのって、一緒に座るって約束したじゃん」
下唇を噛んで言った。茉那はそれでも、何も知らないというような顔。
もしかして、約束なんてしてなかったのかな。現実に似た夢でも見たのかな。
「えー? してないよ?」
「でも、一昨日・・・・・・」
これ以上言うと、わたしが作り話をしたとみんなに思われてしまう。そうなるのは絶対に嫌だ。喉元まででかかった言葉を、唾で飲み込む。
喉の近くと目頭が熱い。メンタルが弱いわたしには、これ以上の言葉は出なかった。
なにより、他の女子の視線が痛い。
「女子だけ決まってねぇのか」
頬杖をつきながら見ていた河北先生が、立っていたわたし達を見て言った。
この状況、前にもあった気がする。
その時は席替えの時で、自由に決めた時だ。他の女子のグループが揉めて、結局くじ引きになった。今回もまたそうなってしまうのか。
わたしも、約束なんて忘れてしまえば良かったのかな。
先生は、溜め息を吐いて、口を開いて言った。
「くじ引きだな」
女子全員の顔が歪むのが分かる。みんな、私を見た。
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