道を開く鍵は、君の胸の中

虹奏りお

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「こよりー、起きなさーい」
 部屋のノックが何度も鳴る音と、お母さんの大きな声で、目を覚ました。
 スッキリしない気持ちのまま目を開けると、部屋の白い天井が目に入り、そのまま何も考えずにぼーっと見つめる。
 何か夢を見ていた気がしたが、どんなだったか憶えていない。最近、よく見る夢だが、目が覚めた時には忘れている。今日もまた思い出せない。
 思い出そうとしてみたが、ゆっくりするわけにもいかず、眠気がまだ何処にも行かないまま、上半身だけを起こした。半分閉じた、重い瞼を手で擦る。
 かけていたはずのアラームは、いつの間にかスヌーズまでも停止されていた。寝ぼけた状態で、“また”止めてしまったのだろう。もはや、朝の恒例行事となってしまっている。
 わたしの寝起きの悪さは、気付かぬうちにアラームのスヌーズさえも停止させてしまうほどらしい。
 なかなか吹っ飛ばない眠気を、両方の頬を手で強く叩いて、痛みで誤魔化した。頬にヒリヒリと熱が集まる。それでもまだ、眠気は覚めない。
 ベッドからおりて、パジャマから服に着替えようと、タンスを漁り始める。
 小学六年生にもなると、みんなお洒落に気を遣うようになってくるため、わたしは毎朝服選びに悩んでいた。
 タンスから、とりあえず目に入った二枚のスカートを手に取る。右手にはデニムのスカート、左手には赤のミニのフレアスカートを持って、鏡の前に立った。
 今日は、デニムするか、赤のフレアにするか。上は、黒のTシャツでいいよね。んー、どっちにしようかな。
 それをやっているうちに時間はどんどん過ぎていく。友達と遊ぶ時は早く時間が過ぎるのに、朝の時間だけは、妙に進むのが早い。
「こよりー! 起きてるのー?」
 服をあーだ、こーだ悩みながら選んでいると、二回目のお母さんの怒鳴り声がドアの隙間を通って、入ってきた。わたしの部屋が二階にあるため、今度は下から聞こえてくる。お母さんの声は、少し怒り気味だ。
 返事をしないとマズいと思い、わたしも負けずと声を張る。
「起きてるってば!」
 選び途中の二枚のスカートから、左手に持っていた赤のフレアスカートを選び、急いで着替え始める。
 もっと早く起きれば良かった、なんて思うのもこれで何回目だろう。
 朝から服選びに戸惑ったせいで、部屋中は服が散乱している。
 片手に持っていたデニムのスカートは、ベッドに放り投げてあるし、パジャマは脱いでそのままだ。散らかりすぎて、足の踏み場が無い。家に帰ったら、片付けよう。
 着替え終えると、髪の毛は手ぐしで整えた。
 急いで、部屋から出ようとする。が、靴下を履いていなかったことに気づき、タンスから雑に靴下を取り出した。
 あまりにも乱暴に取り出したため、一緒に入っていた他の靴下も、二、三個ほどタンスから飛び出て、地面に転がる。
 拾おうかと少し迷ったが、面倒臭くなって、再び部屋から出ようとした。
 お母さんの三回目の怒鳴り声を、朝から聞きたくなかったからだ。
「いたっ!」
 早歩きで部屋を出ようとすると、左足の小指に何か硬いものが当たり、あまりの痛さにしゃがみこむ。
 注意力が無かったわたしが悪いのだが、硬いものが知らぬ間に、下にあるというのも問題だ。自分で置いた記憶が無いから、お母さんが掃除機でも置いたのだろう。
 地味だけれど、じわじわとツーンとした痛みが襲ってくる。
 おかげで目にはうっすら涙が溜まっていて、朝から気分はダダ下がりだ。
(朝から、運悪いなぁ)
 こうやって、いつも私は運のせいにしてしまう。運が悪いから、嫌なことが起こる。そう、思うようにしていた。
 朝から時間が無いのも、服選びに時間がかかっちゃうのも、足の小指が痛いのも、すべて運のせいだと決めつけてしまう。そうすれば、気持ちが楽になれたから。
 わたしは、硬いものの正体が何なのか見向きもせずに、部屋から出た。
 時間は、あと十五分で準備をしないと、間に合わないくらいの時間になっていた。
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