脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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目を覚ました私の前にいたのはサターシャだった。

「エミリー、起きたのネ。ああ、心配したのよ。」

私が今いる場所は研究室の仮眠室のようで、見慣れた景色が広がっていた。

「サ、ターシャ…。」
まだ痺れ薬の効果が切れていないのか、舌がビリビリとする。そのせいで上手く言葉が出てこなかった。

「解毒剤は飲ませたと聞いたけど、足らなかったみたいね。今用意するワ。」

そう言って立ち上がるサターシャを見送り、私はゆっくりとベッドから起き上がった。


どうやら体は動く。あとは舌だけなのだと分かった。

「っ~。いたっ…」

不意に背中に激痛が走りら私が悶えると、サターシャがコップを片手に駆け寄ってきた。

「エミリー。どうしたの!」

ドレスに擦れるだけで痛いそこは、ピリピリとした痛みを帯びている。

「…まずこれだけ飲んで頂戴。」

そう言われてコップに入っているものを飲み込むと、サターシャが私の顔を覗いてきた。

「背中、見てもいい?誰か別の人の方が良いかしら。」

今更何を気にかけてくれるのだろうか。サターシャは男でも心は乙女。気にする必要は私には無いのだが、不安そうにする彼女に大丈夫だと伝えたくて首を振った。

すると彼女は出来る限り私の肌に負担がかからないようにと肩のストラップ部分を切り、背中の様子を伺った。

はらりと落ちたドレスの代わりに、私は目の前にあったタオルケットで胸元を押さえる。そして彼女の方を振り返ると、彼女の顔は強張っていた。

「っエミリー。ごめんね…。
私が解毒剤を持たせていればこんなことされずに澄んだかもしれないのに…。」

正直言って、そんなことはない。
私は痺れ薬を浴びたことにすら気付いていなかったのだから、きっと薬を持たされていてもこうなっていただろうと思うのだ。

私がフルフルと首をすると、サターシャは塗り薬を用意してくれた。







「…いい?ぬ、塗るわよ?」

「ええ。」

このやりとりは既に3度目だ。
もう私の舌の痺れは抜け、後は背中に薬を塗ってもらうだけなのだが、人の傷に触れる機会のないサターシャは少し震えていた。


すると扉が開かれ、隊長と殿下が入ってきた。
ノックをしなかったのはきっと私がまだ眠っているのだと思っていたからだろう。




「なんだその傷は!」


仕事でもないのに背中を晒す恥ずかしみなど気付くことのない隊長は、そう口にしてズカズカと近くへと寄ってきた。

横目で見ると、殿下も私の背中の鞭傷に気付いていなかったらしく、驚きを隠せていないようだった。

「あ、その…昨日やられてしまって。
今サターシャに薬を塗ってもらうところだったんです。」

私がそう言うと、隊長はすぐにサターシャが手に持つ薬を掬って私の背中へと塗った。

「んぐっ…ぅぅぅ…。」

急な痛みに私は目を瞑り痛みに耐えると、隊長はすぐに塗り終えて包帯を取り出した。

「少し手を退けろ。」

私も胸元を隠すタオルケットが邪魔なようで、隊長がそう言うと、殿下が待ったをかけた。

「ケイン!いくらなんでもそれはお前がやることじゃない。」

そう言って近づいてこようとする殿下を、私が止めた。

「で、殿下!私は大丈夫ですからそこにいてください!」

その言葉を聞いた隊長は慣れた手つきで私の胸元と背中を隠していく。そうして私の胸元も綺麗に覆われた。

「エミリー。暫くここの部屋に寝泊りするといい、俺も泊まってお前の世話を見てやる。
生活はできても、シャワーや薬は1人じゃ大変だろう。」


「で、でも、それじゃ隊長に迷惑が…」


背中に薬を塗るのは確かに1人では難しい。しかし彼の世話になるにはなんだか申し訳なかった。



「っ。それじゃ私のところにおいで。」

急に話に入ってきたのは殿下だ。

「いくらケインでもエミリーの世話を許すつもりはないよ、ケインは仕事があるし、ずっと近くには居てやれないじゃないか。
その点、王宮には君の世話をしていた侍女のローザがいる。ローザなら口も固いし情報が漏れる心配などないだろう?
だから私のところにおいで。」

私は殿下の申し出に驚く。
それは王宮を出て以来、戻らなかった私が急に戻っていいものだろうかという不安からだ。

私が眉を下げて隊長を見ると、隊長は目を瞑って口を開いた。

「エミリー。エルがそう言うんだ、甘えればいい。分かったか?」

「…はい。

…よろしくお願いします、殿下。
それと、助けていただいて本当にありがとうございました…。」

私がそう言うと殿下の表情が曇る。

「いや、もっと早ければと今でも後悔しているよ、そんな傷を負わせるなんて、私は自分が許せない。」

「そんなことありません、そもそもの原因は私が油断していたからです。
みんなに心配や迷惑までかけて…。
どんな罰でも受けるつもりです。」


それは今回みんなに迷惑をかけてしまった私なりの反省を示す。どんな罰を言い渡されようと、私はそれを受け入れる他ない。

「分かった。…それじゃ、エミリー、傷が癒えるまでの間暫く仕事は休むんだ。いいね?」

「承知いたしました…。」



そして私は、王宮へと移され、王宮で過ごす間は、昔私が使用していた部屋を使うこととなった。










_________


「エミレィナ様。湯あみのお手伝いをします。」

私の世話役についたのは、ローザという初老の女性だ。彼女は私の母のような存在で、一緒にいると気が落ち着くのはあの頃と変わらない。

「様なんてやめて頂戴、ローザ。
私は王宮の者ではないの、ただのエミレィナよ。」

「ふふっ。それでも、グリニエル様のなのですから、そう呼ぶのですよ。」

そんな会話をしながら、私たちは湯あみへと向かう。

そこはさすが王宮。というところで、私の家にある立ったままに1人しか入れないような場所ではない。

バスタブというものにお湯が張られ、そして侍女が世話をできるようにと部屋が設けられている。

私はローザの手を借りてドレスを脱ぐ。
そしてお湯へと浸かると、案の定、傷にお湯が染みる。


「~~~っ。」

「おいたわしいです。痛いでしょうに良く声も出さずに入られましたね。
私の前では悲鳴の1つや2つ出しても宜しいのですよ。」

私はそう言われて首を振る。

「大丈夫。ローザが用意してくれた薬湯だもの。痛みよりも心に染み渡るようよ。」

にっこりと笑うとローザも笑ってくれる。しかしその顔もすぐに崩れてしまった。


「うぅぅ。でもやっぱり少し痛いわ。」

「うふふ。そりゃそうですよ。滲みないわけがないのですから、変に我慢なんてなさらないで下さい。」


「うーん……そうね。ローザには何でもお見通しだもの。」

そう言うと今度は2人とも思い切りの笑顔になった。





「さあさあ、上がったら薬を塗りますよ、宜しいですか?」

「ええ。お願いするわ。」

私は髪をサイドに纏め、拭き終わった背中に薬を塗り込んでもらう。


「グリニエル様がエミレィナ様のために医者を呼び寄せたとお聞きしましたわ。」

「ええ。腕の良い方だと聞いたわ。しかも女性なのよ。私驚いてしまったの。」

女性が医者をしているだけでも珍しいというのに、それが彼の目に止まったというのだから驚きだ。

王宮には医者が常駐しているのにわざわざ外から医者を呼んだのだからそれだけのがあるのだろう。


「ええ。グリニエル様はいつまでもエミレィナ様が大事なのですね。」


「本当、そうね。
義理でも妹の私を大切にして下さるんですもの。」

「……。」

私のその言葉を最後に、薬を塗り終わるまでは会話はなかった。


「エミレィナ様。明日からはしっかりと体をお休めくださいね。
朝食、昼食、夕飯。それと間食もコチラに運びます。何があれば私をお呼び付けください。」


「ええ。分かったわ。
何がなんでも傷を早く治したいの。
お願いした物は用意してくれたかしら?」

「…ええ。一応準備はしましたが、そこまでする必要はないかと思いますよ。
グリニエル様はゆっくり休めと仰ったのですから、ゆっくりと傷を治せば宜しいのに…。」


そう言って取り出すのは私が頼んだ寝巻き用の服だ。
前はしっかりと胸元から爪先まで隠れるのだが、後ろは首から腰の辺りまで生地がなく、背中が全て見えるようなデザインとなっている。

それは私が受けた鞭傷に空気を触れさせておきたいが為にそう作ってもらった物で、痛みはあっても包帯をしている時よりは治りが早くなる荒療治だ。


こんな姿は誰かに見られたくはないため、誰も部屋を訪れないような20時を回ってから湯あみを頼んでいる。



「そういうわけにはいかないの。私はエル兄様のお役に立ちたいの。いつまでも休んでいられないもの。」

私は一刻も早く傷を治して仕事に戻りたい。何でもいいから彼の役に立っていたいのだ。

「そうですか…。分かりました。
それと、もう一つ頼まれていたものを用意させて頂きましたよ。」

「ありがとう、ローザ。」

そう言って受け取ったのは枕だ。

「そちらのもので大丈夫でしたか?」

「ええ。大丈夫。いい抱き心地よ。」

ふわふわとした枕は握ると跳ね返りはなくただ沈む。しかしそれだけ私の思うような体勢を維持できるということ。
私はこれを今晩から抱き枕として使うことにしている。


「仰向けにはならないように気をつけてくださいね。背中には何も身につけておられないのですから。」

「ええ。気をつけるわ。」

「…それでは、私めはこれで失礼します。ゆっくりおやすみください、エミレィナ様。」

「ありがとう、ローザ。おやすみなさい。」



私はそうして背中に気を取られながらも眠りについた。
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