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ヴィサレンスと同盟2
しおりを挟む「揃ったようだね。」
ブルレギアス様の応接室では、人数的に狭くなってしまうため、王宮の謁見の間にテーブルと椅子が用意され、そこで報告会が催された。
部屋にはディストネイルの皇子であるロレンザ様、皇女であるミレンネ。騎士のトロア。
そしてジョルジュワーンの王太子であるブルレギアス様に、私の主人であるグリニエル様、隊長、そして私が座った。
ヴィサレンスとジョルジュワーンでテーブル越しに並ぶ。ただ1人ブルレギアス様は向かい合う場所ではなく、上座へと座っていた。
「まずはディストネイルについてだ。ケインシュア簡単に頼むよ。」
「…ああ。簡潔に言えば、ディストネイルの制圧は済んだ。王、そして変な思想を持つ従者達は残すことなく吊し上げ、姫がジョルジュワーンの付随国となることを認めると国民に発表した。
特に異論を持つものはなく、むしろ国民は豊かに暮らせると喜んでいるほどだった。」
「そして、ニーヴローズだが、テテの研究である無害のニーヴローズを育てる計画を始める。
1度ディストネイルのニーヴローズを全て刈り取り、もう1度花を咲かせる前に薬を振って毒気を消すそうだ。
もしそれが失敗となればこの世からニーヴローズを消すこととなっている。」
ニーヴローズは毒を除けばとてもいいものだ。加工をしてしまえば消えるそれは、毒だけが問題なのだ。香水やお香としての人気が高く、ディストネイルの経済には欠かせないものだろう。そのため、できるなら残しておきたいものだ。
「それと、すでにニーヴローズの影響を受けている者の件だが、テテが責任を持って国を回り、対応することとなる。」
それを聞いたロレンザ様が反応を示した。
「国民を1人で診るだって?そんなことができると思っているのか?」
「テテならやる。そうでなければあいつの命はディストネイルの王と共に葬られるだけですから。」
責任を持ってニーヴローズの対処をする。それは彼が隊長と交わした約束だ。
少し無謀に思えるが、テテも納得してのことなのだろうと思った。
「ディストネイルの報告は以上。」
「ああ、ありがとう、ケインシュア。
…次は私とエミリーの仮の婚約についてだ。
…本来ならこの場でするようなことではないのだがね。ロレンザ殿と話をして事情が変わった。だから、私とエミリーの婚約は正式に取りやめにすることとなったよ。」
「…。」
私と彼の婚約は国王陛下が決められたことで、害がなければそのまま行うものだった。
それがなくなったとは、きっと私のヴィサレンス行きが関係しているのだろう。
「父上の目論見は危険なものではなかったからね、私としてはこのままエミリーと婚約を結んでも良かったのだけれど、私は第一王子として政略結婚をすることに決めたよ。
相手はディストネイルのリンマナだ。
そうすれば支配下にも置きやすいし、援助だって厚くできる。政治的に動きやすいんだ。」
そういうことか。
私との婚約は損もしなければ得もしない。
ならば得のあるリンマナとの婚約を進めたのだろう。
ブルレギアス様らしい選択だと思った。
するとロレンザ様が口を開いた。
「そもそもエミレィナに対して誠意というものが感じられないのだから、私が許すと思うか?仮だとしても、恋心の感じられない貴殿との婚約は何をしてでも破棄しなければと思ったよ。
丁度ディストネイルに姫がいてよかった。
勝手に収まるところに収まってくれればいいさ。」
確かにブルレギアス様は私に恋心など微塵も抱いてはおられなかった。私も同様にそうだった。しかし、そうと決まればお互いに受け入れるようにしていたもの。
だが、ヴィサレンスへと行くことが決まった私に、ジョルジュワーン第一王子の婚約者という肩書きは邪魔だということだろう。そう思った。
「それと、オークションに出されかけたヴィサレンス帝国、ミレンネ皇女への償いとして、エミリーがヴィサレンスへと出向くこととなった件についてだが…」
私はその言葉に少し俯く。
これは覆すことができないものだと昨夜グリニエル様が言っていた。
だから受け入れるしか道はないと、膝の上で拳を握りしめた。
「エミリーのヴィサレンス帝国行きは
白紙とする。」
「っ!」
ブルレギアス様とロレンザ様以外は、みんなが驚きの色を見せる。
「兄上。どういうことですか。
私は何も聞かされてはいないのですが。」
「ああ。私とロレンザ殿の間で決めたことだ。」
「っお兄様、宜しいのですか?
お父様にはエミリーを連れて帰るとお約束してしまいましたよね?」
「ああ、まあ、大丈夫だろう。」
私の前では、グリニエル様とブルレギアス様が。そしてミレンネとロレンザ様が話をしている。
どういうことだろうか。
覆るはずのないそれは、何の理由があって白紙となったというのだろう。
「……ジョルジュワーンにある聖女の力を、ミレンネ殿にお渡しすることに決めた。その代わりとして、エミリーのヴィサレンス行きは無しということにしてもらったよ。」
「っ!」
「なっ……せ、聖女の力がジョルジュワーンにあるというのですか?」
「ええ。私が保証致します。杖もそこにありますから、間違いないでしょう…。」
「…ぁぁ…それは、…よかった……。」
ミレンネはホッとしたように胸を撫で下ろす。彼女が探し求めていたものがこの国にあり、更にはそれが手に入るということで安心したようだ。
「その力を得るには些か問題があってね。
それはまあ、午後にでもその場所に行って説明するよ。」
聖女の力などいつの間に見つけていたのだろうか。そう思っているとロレンザ様が私に話しかけた。
「…エミレィナ。悪かったね。
この国で君が暮らすのは、難しいんじゃないかと思って提案したことだったんだが、どうやら君は、この国を離れることを望んではいないようだからね。
でも、父に顔だけでも見せてやって欲しいと思うんだ。だから、2週間ほど、ヴィサレンスに観光をしに来ないか?」
その言葉に、私は何と返事をすればいいのだろうか。するとロレンザ様の向こうにいるブルレギアス様が頷いた。
「……分かりました。お受け致します。
2週間の間、お世話になりますが、よろしくお願いしますわ。」
私がそういうとロレンザ様はホッとしてくれた。
あれほど強くヴィサレンスへ出向くことが決められていた為、彼がそんなに優しい顔をするのは不思議だった。
「私にとってヴィサレンスの民は全て家族のようなものなんだ。それに君は私にとって従兄妹、そして妹を助けてくれた恩人だ。
力になりたいと思っていた。
しかしそれが裏目に出ていたとは…。
気付くのが遅くなって申し訳ないよ。」
「そ、そんなことありません。
お気遣い感謝致します。」
私はグリニエル様の顔を伺う。
すると彼は、安心したように眉を下げ、柔らかく笑ってくれた。
それにつられて私も笑みを返す。
これで私はなんの肩書きもなく、彼の騎士として彼の側にいることができる。
それが堪らなく嬉しかった。
「それで、聖女の力はどちらに?」
「…移転魔法で動いても良いのですが、私の移転では2人が限界ですから、ロレンザ殿のお力をお借りしたく思います。」
行ったことのない場所には移転することはできないが、移転魔法を使うことのできる者が行ったことのある場所であれば、力を貸し借りして動くことができる。
それもヴィサレンス王家の血筋であるロレンザ様の強大な力があるからだ。力の貸し借りなんて普通はできやしない。
そして私たちは椅子から立ち上がり、ロレンザ様が部屋の空きスペースに描いた陣の中に入った。
「…移転魔法。」
その魔法が発動すると、私達は見たことのある建物の前に立っていた。
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