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黒の乙女3
しおりを挟むまた、シュンッという音が耳に届くと、私達は城の門の前に立っていた。
白をベースにして、所々に青色が施された立派な城は、ヴィサレンス帝国の大きさを表しているようだ。
「悪いな。念のために客人としての顔を知られておいた方がいいと思ってね。
一応騎士達にも君たちが来ることは伝えてあるから、大丈夫だとは思うが…。
城の客人という証として、このブローチだけ付けておいてもらえるといいだろう。
これさえあれば、正式な国賓であることが認められていることとなるからね。」
ロレンザ様に手渡されたのは雪花と呼ばれる花がモチーフにされているブローチで、銀色に青色が少し混ざっているものだ。
ヴィサレンス帝国は、色で表せば銀青。
このブローチのイメージ通りだ。
ちなみに、ジョルジュワーンは赤のイメージが強い。それはきっと、王家である殿下達の髪色がそうであるからだろう。
「さあ、行こうか。」
私達はロレンザ様の後に続く。
流石は皇太子殿下御一行というところだろうか。衛兵達の視線は彼らに向けられていた。
「あっ…。エミレィナ、忘れるところだった。
国王陛下の前では、本来の姿でいてもらえるだろうか。」
そう聞くのはロレンザ様だ。
確かにこの国ではその方が良いのかもしれない。
それに偽りのままでは失礼だと思い、私は容姿魔法を解いた。
「「っ!」」
周りにいた衛兵達は先程よりも私達に視線を注ぐ。それもそうだろう。
容姿魔法ではヴィサレンスの王家の髪色にすることはできない。それなのに私の髪色はシャンパンゴールドなのだ。
王家との関わりがあるということが一目瞭然だ。
「エミレィナ。
君はそちらの姿の方が似合っているよ。」
私の本来の姿を褒めてくれる人は数少ない。
それはジョルジュワーンでのことだけで、ここにいる間は好奇の目で見られることはない。
ここにいる間はそのままの姿で過ごそうかと思った。
まあ、彼の言い方的には、一生をそのままで過ごせと言われているようにも聞こえるが、私はそこには触れない。
「ロレンザ殿。それは否定はしないが、国では彼女のしたいようにさせたいのだ。
無理強いはしないでもらいたい。」
「…そうか。そうだね。
エミレィナの騎士様は手厳しいな。」
ロレンザ様はグリニエル様の意見を聞き、先程の深い意味を訂正してくれた。しかし、私からも訂正しなければならないことが一つあり、私は口にした。
「ロレンザ様。それは違います。
殿下は私のナイトではありません。
私の主人であり、私の義兄です。
どちらかといえば私が彼を守る立場にあります。」
私がそういうと、ロレンザ様ははははと笑っていた。
「いや、まあ、仮にそうだとしても、ここでは対等に扱ってもらい、護衛にケインシュアが付いているように見せるのがいいだろう。
ヴィサレンスの王族の1人を従わせているように見えかねないからね。
腕でも組んでいてくれるのが1番良いかと思うよ。」
私はその助言を受けてグリニエル様を見る。
私如きが彼と腕を組んでもいいのだろうか。
そう思ったが、これは外交であって仕事。
私が彼の腕を組まなければ彼はこの国の人に良いようには映らないかもしれないと悩んで、そっと彼の腕に手を添えた。
「…失礼致します。」
「っ。」
彼のエスコートを受けることなど久方ぶりで、私は少し頬を染めながらも彼に言うと、グリニエル様は胸の辺りをグッと掴んでいた。
「……いいからとっとと進め。」
隊長の言葉に私もグリニエル様も歩き出す。
するとしばらく歩いて謁見の間に着いた。
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