脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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黒幕③

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バタン。



なんの確認もなしに扉が開いたことに、ロレンザ様もグリニエル様もそちらを見ると、入ってきたのはイザベラと隊長だった。



「ロレンザ様…。」

「イザベラ…。」


まだ腕に巻かれたハンカチが赤く染まっているところを見ると、ミレンネのところへは向かっていないことが分かる。


「イザベラッ。どうしてこんな…。
…君が怪我を負うだなんて無茶でもしたのか?」


ロレンザ様はグリニエル様の手を払い除け、そのままイザベラに駆け寄ると、イザベラは少し微笑みながら口を開いた。











「……心配要りませんわ。
わざとでございます。」


「え?」




その場にいた誰もが固まる中、イザベラはそのまま続けた。


「…次に貴方様が同じ様に意図的にこの様なことを考える時が来たならば、私はかすり傷ではすみません。
丸呑み…または粉々に食いちぎられて魔物の腹の中で収まるつもりです。」


「ど、どういうことだ…。」


「そのままの意味でございます。」

イザベラが何を言っているのか、ロレンザ様は理解できないのか、それを受け入れたくないのか、瞳を揺らしていた。



「ベラは、貴方が仕組んだことだと知っていた。それを防ごうと幾度も魔物と戦い、いつの間にか黒の乙女と呼ばれるようになり、ついに本当の企みに気付いたのです…。」


イザベラの隣にいた隊長は、イザベラの頭に手を乗せ、妹の決心に眉を下げながらも納得していることを漂わせている。


「……ロレンザ様、貴方は、私が国民を守ることで、国民から支持されるように計画を練ったのですね…。
貴方から愛され、国民を守るほどの力があれば王妃に就けると御思いになられたのでしょう…。
だから守るべき方々を危険に晒してまで…っ…。」


喋っていたイザベラは、涙がこみ上げ、途切れながらも話を続ける。



「私は、国民を守るために最善を尽くす貴方を愛した。それなのに、今の貴方はそうではない…っ。
ただの私欲にまみれた、力のある狂気です…っ。」


「…っ。」



「私は、国民を守るべき立場の貴方が、自ら国民を危険に晒すのは間違っているのだと気付いて欲しかったのです…。
だから今回、わざと腕に傷を負いました。
次はこんなものでは済みません。
次にそんなこととなれば、命を賭けて、貴方の考えを覆してみせます。」


イザベラの決意にロレンザ様が後ずさる。

愛する者と一緒になりたいがために、国民に力を見せつけてきた。しかしそれが、大切にしているイザベラに怪我を負わせる事態になり、命を張られてまで止められるとは、想像することが出来なかったのだろう。

彼女から流れるその滴は、グリニエル様の忠告よりも確実に彼の中に響いた。




「だ、だが、それでは私との婚姻はどうなる…。
それしかないのだ。それなのにそれができないとなれば、私はイザベラの側にいられなくなってしまう…。」











「そうですね。…今の私では、あなた様の隣に立つことは難しい。」


「…っ。」



「しかし、いくら私が成果を上げようと、それは大したものにはなりません。今と同じままでしょう。
私に無いものはその地位です。
私の力を国民に知ってもらうことではありません。

……だから、私との正式な婚姻は……



半年程お待ち下さい。」


「え?」





「私は勇者であるケインシュア・カイル様の正式な妹であるという書類を作成してもらい、その名を正式に頂戴することのできた半年後に、またその役の審議を受けさせていただきたいのです。」



きっとそれは隊長から出された提案だろう。
イザベラは実の妹ではあるが、5年も消息が分からずにいたために、ジョルジュワーンではその存在はもうないものとされている。
だから、妹であるとの申請を通すためには半年程時間がいるのだ。


一応カイルは公爵家。
成り上がりではあるが、成果を上げてきた隊長がまだ名を上げ続けている今、その地位は上級公爵家と同等の価値あるものだ。

その妹だと正式に認められれば、反対していた貴族達も認めざる負えないこととなるだろう。





「っ。まだ、私を愛してくれるのか…?」






「…….…当たり前です。
妻が夫の暴走を止められないでどうしますか。
貴方が考えを改めることができるのであれば、私はもう貴方を嫌う理由がなくなります。
今回の傷は、貴方を止めるためにできた勲章。これを治すつもりはありません。
私を見て、戒めにしてください。」


「…っ。
私のせいだ…。
私が君を危険に晒したから…。
綺麗な腕にこんな傷を…。
すまなかった。もうこんな危ないことなど考えないよ。
だから一緒に、国を守って行って欲しい。
私の隣で……。」

「…ええ。」





愛する女性の前では、時期皇帝であろうが1人の男に過ぎない。
誰かを愛するということは、以前の考えをも変え、それを成すためならばどんなに危険なことでもさせてしまう。それと同時に、それを解くのも同じだろう。

ロレンザ様は周りの国からは恐れられ、慕われ、憧れの存在ではあるが、イザベラの前ではとても人間らしいと感じた。


それはグリニエル様も同じように感じ取ったようで、先程の緊迫した顔はしていない。






「…それと、急ぎでお話ししなければならないことがございます。」

ロレンザ様の胸に少し寄り添っていた彼女が、彼にそう言うと、ロレンザ様は言ってみろというように視線を合わせた。



「…グリフォンの一件で、エミレィナ様の存在が公になっております。」

「…。」「っ。」「?」


イザベラの言葉に隊長は目を伏せ、グリニエル様は驚いてすぐに眉を顰めたが、当の本人である私は、何のことなのか…何が問題なのかが掴めなかった。




「……そうか…。
…それは少し面倒なことになりそうだな…。」


ふぅ。と小さく息を吐いたロレンザ様は振り返り、こちらを見る。

「グリニエル殿。すまなかった。
状況を調べさせることにするよ。
分かり次第、君にも伝えよう。」

「ええ。分かりました。
それまで私はケインと少し話を進めます。
それよりも、早く消毒の方をした方がいい。
いくら応急処置をしていても、早いことに越したことはありませんから。」





「………ああ、そうだな。すまない…。」




私たちはロレンザ様とイザベラを残し、その部屋を後にした。




「エミリーは部屋でゆっくり休むといい。
沢山歩いたから疲れただろう。
ステファニーに湯を用意させてマッサージを受ける手配をしようか?」

「い、いえ。自分でできます。
それより、イザベラ様の件は大丈夫ですか?」


「ああ。俺はベラの名をそのままに置いている。その凍結した存在を戻すだけだから問題はないだろう。まあ、書類は山のようにあるから、グリニエルも俺も執務には負われるだろうな。」



執務に負われる。そう言っているのに笑顔なのは、イザベラのためになると思っているからだ。

執務が嫌いだろうが、妹のためであるならばどうということではないのだろう。

「そうですか。…私にも手伝えることがあれば仰ってください。」

「ああ。ありがとう。」



私はグリニエル様の部屋へと消える2人を見送った後、部屋に戻り、口を開いた。








「…アネモス。ちょっといい?」






「……なんじゃ。」


「さっきはありがとう。助かったわ。」


「構わん。主の想いに応えるのが妾の役目…。気負うことなどない。」



私はベッドではなく小さなテーブルチェアへと座り、彼女と少し話をすることにした。


「それよりも魔力の使い過ぎじゃ…。
歩いているのもやっとだというのに無茶しわおってからに…。」

それは先程のロレンザ様に向けた態勢のことだろう。グリニエル様を守ろうと、咄嗟に体が動いてしまったのだ。


「あれは…体が勝手に動いてしまったの…。
本当ならただの足手纏いでしかなかっただろうけど、彼を守りたいのよ…。」

「ふん…。それほど彼奴に執着する意味は理解できんが、その気持ちは真っ直ぐで居心地がいい。…とりあえず話は聞いてやるからベッドにおれ。いつ眠りに落ちてもいいようにな。」

「…分かったわよ。」


確かにアネモスの意見は正しい。
私は仕方なく、せっかく座ったその椅子から立ち上がり、指定されたその場所へと向かい、腰を下ろすと、そのままボフンと音を立てて横になった。


「アネモス…、出来るだけ早くあなたの力を貸してもらうには、やっぱり恋をするべきなのかしら。」


「ああ。まあ、そうなるな…。
主の魔力は随分と少ない。
それで妾の力を使うのはかなり厳しいものじゃろう。
じゃが、主がヴィサレンスの血を受けていなければ、魔力が増えることも安定することもあり得なかったのじゃ。
人を愛せば力が得られる。
そんな夢のような話、羨ましいくらいじゃぞ。」


「…。」

彼女はどこにいるのか姿は見えないが、すぐ隣にいるかのように声が聞こえる。

私は横になったベッドで向きを変えながら、その声に投げかけてみた。




「でもね、アネモス…。
私恋が分からないのよ。」


「…。」

私は生まれてから1度も恋をしたことがない。


それなのに、しようと思ってできるものなのだろうか。
先程のロレンザ様とイザベラのように思い合える相手がいるなどと、想像することができないのだ。


「…妾は人間ではないから恋など分からん。それを知るものに聞くのが良いじゃろう…。」

「そっか…。」


精霊は恋をしないのだろうか。
私の気持ちに惹かれてくれたというくらいだから感情はあるとは思うが、私と同じく恋を知らないのだと理解した。


「まあ、妾から助言するならば、新しい出会いを考えずとも良いということかの。
友だったり仕事仲間だったり…。今と関係が変わることもある。誰を好きになってもおかしくはないじゃろう。
…主は少し近くを意識してみれば、早く願いのままになるやも知れんぞ。」


「…身近の人……?」


私は目を瞑り考えに耽る。

身近な人で恋になり得る相手。

それを考えているうちに、眠りへといざなわれた。


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