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恋じゃない①
しおりを挟む「それで!」
「一体!」
「「グリニエル様とはどこまでいってるの⁈」ですの⁈」
「え、ええっ?」
私が連れてこられたのはミレンネの部屋。
ここに着いて早々、彼女たちに迫られるようにグリニエル様との関係を聞かれている。
「ど、どこまで…とはどういうことなのか…。」
さっぱり分からない。
そう伝えるように眉を下げると、ミレンネが口を開いた。
「だって2人は恋人同士なのでしょう?
そうでなくてはあれほど魔力石が光るなんて、あり得ないわ!」
「え!待ちなさい、ミレンネ。
わたくしは2人は主従関係だと聞いております!2人が恋人同士だなんて知りませんでしたわよ!」
「え!セレイン従姉様、ちょっと観察力が鈍くなったんじゃありませんか?
2人は紛れもない恋人です!
何度も抱き合っているところをこの目で見ているのですから!」
「な、何ですって!
それは本当ですの⁈エミリー!
白状なさい!」
2人は私を置き去りにして、どんどん話を進めていく。しかし、グリニエル様と恋人だなどという話は、私には身に覚えがないのだ。
「お、落ち着いてくださいませ。
まず、私とグリニエル様は恋人同士ではありません。義理の兄妹でございます。
家族愛として何度か抱き合ったことがありますから、ミレンネがいうのはそのことかと思います。」
「なっ!エミリー!
年頃の令嬢が殿方と抱き合うなんて、そもそもあり得ないことなのよ!」
「え…ええっ?そ、そうなの?」
それは初耳。
しかし、咎められたことなど1度もない。
「でも、誰にも咎められたことはなかったから…それが普通なのかと思っていたわ。
ミレンネはロレンザ様と抱き合ったりしないの?」
「えー。しないわよ~。」
ケラケラと子どもじゃないんだからという彼女は、なんだか私を小馬鹿にしているようだ。
「何を仰い。ミレンネは雷が怖くて、雷のなる夜は1人で寝れないのよ。つい最近までロレンザ従兄様にベッド脇についていて貰っていたんだから、人のこと言えた物じゃないわ。」
「なっ!セレイン従姉様!それは秘密にしていてほしいことだったのに…っ。」
顔を赤らめ、抗議するミレンネのその姿は可愛らしい。
そしてそれを聞いた私は、大しておかしなことでは無かったと自分の行いを正当化していた。
「…恋人でないことは分かったわ。
それならば、エミリーはグリニエル様をどう思っているのかが聞きたいわ!」
「え…まだこの話続けるのですか?」
「当たり前じゃない!
人の恋話ほど心が高鳴るものなどないわ!
さあ、聞かせて頂戴!」
「…はあ…。」
恋ですらない私の話など聞いて何か面白いだろうか。そう思ったが、とりあえず2人と話をするためにとみんなでソファへと腰を下ろした。
「私は、一生、グリニエル様のお側にいたいと思っています。しかしそれは兄妹、そして主従関係からなるものの気持ちであって、恋ではないのです。」
「え~…。」
ガックリと項垂れるセレイン様を他所に、今度はミレンネが口を開いた。
「そんなに恋ではないとはっきり言っているけど、エミリーは恋をしたことがあるの?
恋を分っていて、そう断言しているのかしら?」
「え?…。」
そんなことわからない。
私は生きてきて1度も恋をしたことはなく、ただ、グリニエル様のお側にいたいという献身的な気持ちは持ち合わせている。
そして、隊長に憧れる気持ちくらいは自分自身でも理解はできているのだ。
「恋って、凄くドキドキするのよね?
胸が張り裂けそうで、辛くて。
でも幸せで…。
って聞いたことがあるわ。」
「それは人それぞれよ。
彼を見ていてドキッとしたり、
カッコいいと思ったり、
守りたいと思ったり、
側にいるだけで安心できて
居心地がよくて…。
他の人に触れられることは嫌でも、
その人であれば触れられたいと思ったり。
どこからが恋かと聞かれれば確かに難しいわ。
だから、私達が判断してあ・げ・る。
ほら、エミリーがグリニエル様に抱いている気持ちを教えなさい。」
「えー…。」
どうやってでも恋として処理されてしまうのではないだろうか。そう思ったが、違うと分かれば解放してくれるだろうと思ってくちを開いた。
「ほらほら、まずはドキッとしたりカッコいいと思うか、からよ。」
「んー。ごく稀にあります。
そもそも綺麗な顔立ちだから、カッコいいとは思いますよ?」
「ええ~。何よその答えは!」
プクッと頬を膨らませたミレンネは、クッションを抱いてなんだか面白くなさそうな顔をしている。
「まあまあ、ミレンネ。落ち着きなさい。
一応当てはまっているんだから良いじゃないの。」
「うぐっ…。まあ、確かに…。
それで、後は守りたいと思ったり、側にいたいとか、居心地がいいとかは?」
「あ、それは当てはまるわね。
命に変えても私は彼を守りたいし、側にいられないなんて耐えられないわ。
私にもし縁談が来て、彼の側で仕事ができなくなったらと思うと怖いもの…。」
「まあ、仕事を失う怖さはわたくしにも分かりますけど、エミリーが言うのはグリニエル様のお側にいられないこと自体が嫌なのでしょう?当てはまるわよ。」
「え、ええ?」
「それじゃ、最後よ!
グリニエル様に触れられて嫌だと思う?」
「んー。………っ!」
急に思い出してしまったのは、ルピエパールでのこと。
散々脚を堪能されて恥ずかしかったものの、結局は嫌では無かった。
そう思い出す。
「…カァァァ。」
それを思い出した途端、顔が赤らんでいくのを感じるが、止めることはできず、私はそのまま視線を逸らした。
「なっ…なんなんですの?その反応は!」
「そ、そうよ!まるでもう身体を重ねているような…」
2人までどんどん顔を赤らめていくと、このままではまずいと思って口を開く。
「そ、その…交わることはしたことはありませんけど…。嫌じゃないというか…。嫌悪感はありませんでした…。」
「…っ!」「え!」
2人は驚いた後、コソコソと小さな声で確認し合う。
「聞きまして?ミレンネ。」
「ええ、従姉様。
あんなに顔を赤らめるほどの何かがあり、それでも嫌じゃなかったと言うのですから、私はクロだと思います。」
「そ、そうよね…。
なぜあんなに頑ななのかしら。」
ジッと2人に見つめられ、私は少し背中を逸らすように後退りをした。
「…まぁ、まぁ、良いではありませんか。
エミレィナ様は主従関係が壊れて側にいられなくなることが怖いのでございますよ。」
「あ、ステファニー。」
「お着替えのお手伝いをさせていただきたく、参りました。」
私達のその会話に入ってきたのはステファニーだった。先程のドレスはもう脱いでおり、いつもと変わらない彼女の姿でこの場に立っていた。
「それじゃ、従姉様のからお願い。」
「かしこまりました。」
「この場で構わないわ。少しも話を聞き逃したくないもの。」
「承知いたしました。」
シュルシュルとドレスが脱がされ、コルセットを緩められたセレイン様は、聞く。
「関係を壊すために想いを告げる必要もあるのではなくて?」
「まあ、そうですけど、もし拒絶されれば側にすらいられなくなってしまいます。だから受け入れられないということもあり得るかと思います…。」
私にはまだ疑問が残る。
これは果たして本当に恋なのだろうか。
「なあに。ステファニー。
随分知っているような口振りだけど、あなたも恋をしているというのかしら?」
「っ。そ、そういうことでは…!」
「白状なさい。エミリーに恋を教えるには貴方の話も必要よ!」
「っ…。」
ミレンネとセレイン従姉様に迫られたステファニーは冷や汗が流れている。
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