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案内②
しおりを挟むコツコツと鳴り響くその足音に後ろを振り返ると、シルバー色の髪をした綺麗な顔立ちの男性が立っていた。
「エミリー…あなた様の手を取れるこの日を、私はとても楽しみにしておりました。」
私の右側にしゃがみ、その手の甲にキスを落とした彼は、私のことを見上げたままジッと見ている。
とても綺麗な顔立ち。
しかし、こんな綺麗な知り合いなどいない。
「分からないかい?彼はルキアだよ。」
「えっ…ルキア⁈
ルキアって猫の…?」
ブルレギアス様の説明に、私は驚きのあまり声を大きくし、どう言うことかと考えさせられた。
「…彼はそもそも猫じゃない。…魔族だよ。」
「え?魔族…?」
キョトンとする私の前で、彼はずっとニコニコと笑っている。
「どういうことです。ブルレギアス殿。私は何も知らされてはおりませんよ。」
「そうです、兄上。エミリーが男と…しかも魔族と共に暮らしていたならもっと早く教えておいてもらわないと…。」
「ほう。魔族は初めて見るが、人そのものだな…。」
各々不満やら感心やらで場が騒がしくなると、ブルレギアス様が左手を上げた。
「っ。」
「気付かないのが悪いでしょう。
彼はただ彼女に付き従っているだけ。
何も害などありません。
彼女のためなら手を貸してくれると私に約束したのです。」
「しかし…、魔族を信用できるのですか?
連れ去ったのは同じ魔族です。
共謀している可能性だって…っ。」
「…静かに。
…と伝えたはずです。ゾゼダイル殿。
魔族は1度忠誠を誓った者に忠実に従う種族。それを信じるしかありません。
さあ、ルキア…君の手を借りたいのだ。
返事を聞かせてくれるかい?」
「…。エミリーのお言葉を頂ければ従いましょう。」
「え?」
「エミリー。私はあなたの手となり足となります。盾だろうと剣だろうとあなたのお役に立てるのであれば何でもいたします。
さあ、私に命じてくださいませ。」
「っ…。」
どうしてそこまで…。
私は怪我をしていた彼を保護して少しの間共に過ごしただけ。
そんなに大それたことなどした覚えはないのだ。
「何かが不満、という顔だね。
エミリー。話してご覧。」
「い、いえ…ただ、私に付くのではなく、もっと強くて先陣を切るような方に仕える方が良いのではないかと思っただけです…。」
「…私はあなた様に命を救われた。
だからここにおります。
私が他に仕える者などおりません。
それは覆ることはなく、誰にも覆す事のできない事実でございます。
…改めて忠誠を誓いましょう。
私、ルキア・ロードはエミレィナ様の下僕となり、あなた様の一部となることを誓います。
…さあ、命を下してください。」
「っ………ルキア…。
私は、下僕は要らないわ…
だから従者としてお願いします。
私たちをソリシエールへ案内して、みんなを助ける手助けをして頂戴。」
「…。仰せのままに主人様。」
もう1度私の手にキスを落とす彼に、先程まで静かだった人がもう1度騒ぎはじめた。
「わざわざ手の甲にキスする必要などないだろう!今すぐ拭け!
それと、今まで猫だと偽ってエミリーと共に過ごしたことを謝れ!」
こちらを指差ししている手が震えるほどに怒っているのはグリニエル様だ。
今まで私はそれがただ妹を想う兄心からくるものだと思っていたが、先ほどもしかしたら恋心を持たれているのかもと期待してしまっているため、その反応をされたのは少しばかり嬉しかった。
「…何か問題でもありますか?
仮に目の前で着替えが行われようと、一緒に湯船に浸かろうと、一緒の布団で眠ろうと、それは猫の姿なのですから、問題はありません。」
「~~っ。問題だらけじゃないかぁぁっ!」
ルキアは猫の姿の頃からあまりグリニエル様とは折が合わなかったため、2人の言い合いは勝手にさせておく。
そんな2人を尻目に、他の6人で話を進めた。
「それではブルレギアス様、場所も分かった所ですし、早く準備を致しましょう。」
「そうだな。
一刻も早く人質の解放を優先する。
もし仮に戦闘になった場合、まずは人質の安全を確保し、国へ戻ってくるのだ。
ルキアが言うには城にいる魔族は15人。
クローヴィスは転移魔法で人質の解放をし、エミリーとルキアはそれの補助。
ケインシュアとグリニエルで前線に立つ。つまり、3手に分かれて動くようにするんだ…。いいね?」
「はい。」
「もし人手が必要な場合、クローヴィスが人質を連れて帰るときに言ってくれ。
そうでなければ何かあった際、一度で戻ってくることは難しいからね。」
「十分だ…。
軍で動いても守る物が増えるだけ…
俺は身軽の方が動きやすいからな。」
「信じているよ、ケインシュア。
みんなを頼む。」
「言われなくとも分かっている。」
まだグリニエル様とルキアの言い争いが収まらないまま、その会議は終わりを迎え、遂にソリシエールへと向かうこととなった。
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