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できること⑤
しおりを挟む朝は少し疲れた。
しかし、ルキアと本心から向き合うことができて、良かったと思っている。
私は、今日もまた同じ場所へと足を運ぶと、久しぶりに会うグリニエル様がいた。
「おはようございます。グリニエル様。
今日はとてもいい天気ですね。お散歩ですか?」
ここの中庭はとても静かで誰も来ない。
だからここへと来ていたのだが、彼が来ているならば他の場所を探さなければならないなと思いながらも、目の前にいるグリニエル様を無視することはできずにそう話しかけた。
「…。おは、よう…。」
まだ私とはあまり関わりたくないのだろうか。
体を向けることも視線を向けることもなく
挨拶する姿にそう思った。
仕方がないが今日は別の場所で日を浴びてソアレに魔力を渡そう。
場所を移動するならルキアには伝えておかないと、私がいなくなったと大騒ぎになりそうだから、まずルキアのところに行かなければならない。
「…それでは私はこれで失礼しますね。」
私はこちらを向くことのない彼に礼をし、
元来た道を戻ろうと足を返した。
「っ。ま、待てっ…。エミレィナ!」
「…。」
「…はい。どうかしましたでしょうか?」
呼ばれたことで向き直した私に、グリニエル様はグッと息を飲む。
「っ…その…、私は君を待っていたんだ。
…もし良ければ一緒に…。」
「…。」
彼が私を待っていた?
何のために。
そうは思うが、それは聞けば分かること。
彼の申し出を断ることはしたくはないと、私は頷いて彼の傍へと寄った。
「お散歩ではなかったのですか?」
「あ、ああ…。ここにいれば君に会えると思ったから来たんだ。」
「そう、ですか。
…私に何か御用でもありましたか?
呼びつけてくだされば足を煩わせることなどありませんでしたのに…。」
「いや、私が来ることに意味があるんだ…。
そうでなければ歩み寄れないだろう…?」
「…。」
彼はここ何日かで考えが変わったのだろうか。
私といると苦しいと言っていた彼が私に歩み寄ろうとするなんて何かあったに違いない。
「何かありましたか?」
「いや…っ…。」
「…。」
「……っ。
…実は、君が無理をしていると聞いて…」
ああ。なるほど。
この人は言葉は強くなったとしても根は変わらず優しいのだ。
そうホッとする気持ちと、どこから聞いたのかという気持ちになった。
そんなことを言われたのであれば、やめろと言うために来たのだろう。
私は彼に言われるがまま、彼の隣に立ち、同じ方向を見る。
日を浴び、風に吹かれ、心地いいと感じる中で、2人の間には気まずい空気が流れる。
どちらから話すのか、それを伺いながらも、互いがその時間を流した。
「エミレィナ…。その。さっきも言ったが。
私の記憶を取り戻すために、随分と無理をしているんだろう?」
真っ直ぐと前を向いたまま話す彼の横顔を見た後、私も視線を外して前を向き、彼にそれ以上を、言わせないようにと会話を続ける。
「…そんなことはありません。
私はやりたくてしているのです。
例えグリニエル様に止められたとしても、私は……っ」
「いや、違う。そうではなくて…、」
「…え?」
彼の方を向いた私に、今度は彼の方がそれ以上を言わせないようにと言葉を被せた。
「……。」
なんだろう。
久しぶりにこの距離で彼を見たからなのか、なんだか不思議な感じがする。
何かを決心したような、私の知るグリニエル様に近い顔に戻ったような、そんな気に駆られた。
「頼みたいんだ。君に、私の記憶を取り戻す手伝いを…。」
「っ…」
まさかその口からそんな言葉を聞ける日が来るとは思っておらず、私は驚きのあまりに声を詰まらせた。
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