宝珠の姫と仏頂面魔法士

瑞原チヒロ

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本編

7:北の魔法士 4 ★

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「灰色熊の活動は夜に限られますぞ、リュウ殿。夜まで神殿にいていただくほうが効率がよろしいでしょう」
「………」

 袖で口元を隠してほっほと笑うファンの笑みに、リュウはてこでも動かなそうな決意の色を見る。
 ――ファンはどうも、リラのためならどんな手段でも使うようなところがあるのだ。

(そこまでして俺を引き留めたいか)

 リュウはため息をついた。そして、

「分かった。泊まろう」

 瞬間輝いたリラの顔を見て思う。北のダリアンの言う『美しいかんばせ』――それにはまあ、同意する、と。



 この神殿には客室などない。客は普通来ないし、来たとしても泊めないからである。
 従って――リュウは自ずとリラと同室になった。
 リュウはとぎの者だから、それも当然と言えば当然なのだが……

「今夜はしないぞ。昨日したばかりだろう」

 そう宣言すると、リラはぽっと頬を染めながら、

「それでも、嬉しゅうございます、リュウ様」
「……俺は床にでも寝ることにする。どうせ灰色熊が出たら起きて外に出て行くのだからな」
「………っ!」

 するとリラはリュウの袖にすがりついて、必死のていで首を振った。

「床などいけません。体が冷えまする。どうか寝台に、寝台にお上がりください」
「それは添い寝がしたいということか」

 リラが言葉を失った。真っ赤に染まった頬はもはや薔薇色だ。
 ……意地悪を言うつもりはなかった。リュウにはどうしても解せないのである。リラが自分と同衾どうきんしたがるその理由が。

(まあ、抱かれても平気な男相手だ。同衾ぐらい大したことはないのだろうが……)

 だからと言って嘘を言ってまで泊めて添い寝をしたい相手だろうか。そこのところがどうしても分からない。

(……ダリアンに知られたらどうなることやら)

 何となく、あの大男を思い出す。一途にリラを想うあの男なら、今のリラの気持ちもおもんぱかってやれるかもしれない。
 リュウは何度目か分からぬため息をついた。



 リラの夜着は薄く白いレースだ。宝珠の儀式を行うときとほぼ変わらない。
 寝台の端に腰かけ中央に来ないリラに「何をしている」と問うと、

「は……恥ずかしゅうございます」

 ――何を今さら。
 呆れてリュウは先にさっさと横になる。リラに声をかけるのはどうも虚しい。
 リュウが寝台に身を沈めると、ようやくリラはこっそりとそばに寄ってきた。

「リュウ様……最近、お怪我はございませんか?」
「昨夜たしかめただろうが。怪我をしていたか?」

 そう言うとリラは袖で顔を隠すようなしぐさをして、

「リ……リラはいつも夢中で。恥ずかしくて。リュウ様のお体を見ている余裕がございませぬ」
「……そんなに余裕をなくす行為ではないと思うのだがな」

 いったいこの娘は何を考えていつも抱かれているのだ。いつだって冴え渡って冷静な頭でリラを抱いているリュウにしてみれば、リラの言葉がかけらも理解できない。
 いや――しかしリラはたしかに、いつも本気で感じているようだった。となると、思考が飛ぶのも仕方がないのだろうか。
 そんなに没頭するほどに夜伽が好きなのか。意外と好色なのかもしれない。
 ダリアンが知ったら「そんなことはありえぬ!」とかなんとか憤激しそうだが……

「ダリアンがな、お前を恋しがっていたぞ」

 リュウは寝台に肘をつき、手に頭をのせて自分を見下ろすリラを見上げた。

「お前、なぜ伽にダリアンを選んでやらなかった」

 リラは途端に悲しげに目を伏せた。長いまつげが、ふるりと震える。

「ダリアン兄様は……兄様です。伽など想像もできませぬ」
「ダリアンなら喜んでお前を抱いただろう。俺などとは比べものにならぬほどに大切にしたはずだ。なぜだ」
「そんなこと……」

 泣きそうな声が返った。気がつけばリラは、目の縁に涙をためていた。
 リュウは起き上がった。まったく、女はよく分からん。

「なぜ泣く。俺はそんなにひどいことを言ったか」
「……リュウ様は意地悪でございます。リラは、リュウ様を選んだのでございます。その気持ちを、どうぞお察しくださいませ」
「それが理解できんと言ってる」

 だが、泣かれるのは苦手だ。リュウはそっとリラの銀の髪を撫でてやる。それ以上どうしていいのかさえ分からなかったが、ひたすら頭を撫でた。
 さらさらとした美しい銀髪だった。毎日世話係が梳いてやっているのだろう、それは絹糸よりも貴重なものに見えた。

「美しい髪だな」

 何気なく褒めると、リラの涙が止まった。
 リラはそろそろとこちらをうかがうように小首をかしげて、リュウを見た。

「リュウ様は、おぐしは長いほうがお好きですか? 短いほうがお好きですか?」
「髪など長くても邪魔なだけだ。東のカッツェじゃあるまいし――」
「いえ、あの、……女のお髪でございます」

 ああ、とリュウは自分の勘違いに気づく。女の好みを聞きたいのか、この姫は。

「別にどちらでも構わん。本人の装いだ、本人が好きなようにすればいい」

 それを聞いて、リラはふわりと柔らかく微笑んだ。一瞬目を奪われるほどにまばゆい笑顔。

「リュウ様。リラはそんなリュウ様が好きでございまする」

 そう言って、そっと顔を近づけリュウの頬に口づける。
 全くもって意味が分からなかった。
 ただ――にこにこと幸せそうに笑うリラの顔を見るのは、悪い気分ではなかった。
 ――今夜はしないと決めていたが、覆してやってもいいか。
 好き好んでやりたい行為ではないが、忌み嫌っているわけでもない。リュウにとってそれは、あってもなくても同じものなのだ。
 ダリアンならどうするか。当然のごとく、リラを抱いてやるのだろう。
 リュウは男女の機微きびなど知らないが、そうするのが当然なのかもしれない。こんな女を目の前にした男の義務、とでも言うのだろうか。
 だからリュウはリラの細腰を抱き寄せた。

「リュウ様?」

 怪訝な顔をするリラの唇を唇でふさぐ。「あ……」リラはあえかな声をこぼした。
 舌をからめると、リラの整った目元がとろりととろける。

「リュウ……様……」

 夜着の上から胸を揉む。豊満な胸は幾度もリュウの手の中で形を変え、その柔らかさを主張する。
 その頂が固くなってきたことを感じ、リュウはそこをつまんでやった。

「ああっ」

 夜着が乱れ、肩があらわになる。リュウはそこに唇を這わせる。吸い上げてやると赤く染まった。リラが、嬉しげな声を上げた。

「リュウ様」

 リラの、リュウの胸元に触れていた手がするりと下へ向かい、リュウの股間に到達する。
 そこはまだ反応していなかった。リラは切なげな顔をした。そしてあろうことか自ら顔を下に下ろし、リュウの股間に埋めたのである。
 リュウは眉をしかめたが、好きなようにさせておいた。
 前を開き、いまだ眠ったままのリュウのものを取り出す。そして小さな舌でぺろぺろと熱心に愛撫を始める。
 直接刺激をすれば、若いリュウも反応が早かった。見る間に雄々しく猛り始めるそれを、リラは口の中に含んで口淫する。
 ――国の誇る姫が、これほどいやらしくていいものなのか。
 リラの口での行為はあくまで控えめだ。舌でちろちろ舐め、軽く吸い、そして一生懸命に顔を上下に動かす。
 やり方を教えた覚えはなかった。だからこれは世話係の誰かが教えたのだろう。歴代の姫たちもこうして、夜伽の方法を学んできたのだろうか――
 問題は、リラは喜んでそれをやっているように見えることだ。
 口淫なんてものは、勃たせるためだけにやるものだと、リュウは思っていたのだが。

「――リラ。顔を上げろ」

 命じると、リラは大人しく口を離した。リュウに見せた目は、まるで媚薬でも飲まされたように淫靡いんびに濡れていた。
 その唇に噛みつくようにキスをする。リラの口の中に残った自分の味が少々邪魔だったが、まあリラも一生懸命だったのだからここは許すところだろう。
 キスをしながら、夜着の中に手をしのばせ内股に触れる。
 あろうことか、リラは下着をつけていなかった。何だこれは。ファンの入れ知恵か。
 入れ知恵だとして、リラはそれに従ったというのか。
 ――この淫乱女め。リュウの中に意味もない憤りが湧き上がる。
 ダリアンが、あの一途な男が知ったら、きっと失望する――

 濡れた割れ目に乱暴に指を埋没させる。リラが、陶然とした吐息をこぼす。いきなり指を入れても痛みを感じないほどに、そこはすでに濡れそぼっていた。
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