宝珠の姫と仏頂面魔法士

瑞原チヒロ

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本編

8:北の魔法士 5 ★

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 こんな女、存分に犯してしまえばいい。
 そんな囁き声が脳の片隅から聞こえてくる。
 どうせ喜ぶのだ。何を遠慮することがある?
 リュウとて若い欲求は持っている。そのはけ口にしてやればいいのだ――

 リュウはリラの秘裂から指を引き抜いた。そして彼女を寝台に押し倒した。
 両足を開こうとすると、この期に及んで膝を閉じようとするから、苛立ちのままに強引に開かせる。

「下着をつけていないだと。お前、そんなに淫乱女だったのか」
「ああリュウ様。ファンが、そのほうがリュウ様がお喜びになると」
「喜ぶわけがあるか。そんなに犯してほしいなら犯してやる――」

 猛る肉棒をしとどに濡れた秘所にこすりつける。
 ぬるぬると、蜜がからみついてくる。「ああ」とリラが甘い息を吐く。
 明らかに嫌がっていない――
 本当に訳が分からない。せめてここで嫌がってくれれば理解できようものを。
 リラはリュウを見上げて、濡れた目で言うのだ。

「リラはリュウ様のものです。どうかリュウ様のお好きになさいませ」
「―――っ」

 腰を思い切り送り込んだ。ずん、と重い衝撃がリュウの腰に伝わった。

「ああああっ」

 リラはのけぞって声を放つ。リュウは容赦しなかった。両足を固定し、何度も何度も奥を突き上げる。

「お前はっ、この国の至宝の姫だと言うのに、俺のはけ口になどなると言うのか!」

 自分でも訳の分からぬ怒りのままに声を放つと、リラは身をよじって応えた。

「はけ口になされませ、リュウ様。リラは嬉しゅうございます。リュウ様のはけ口ならば、喜んでなりまする」

 リラの中はまるで魔性のもののようにリュウの猛り狂ったものを掴んで放さない。
 しぼりあげ、まるで精を出せと促すように。
 ――魔法力を望んでいるのか。姫ならば体がそのようにできていてもおかしくはない。
 宝珠の姫は、魔法力を転化する能力がある代わりに妊娠能力がない。だから出してほしがっているのはあくまで魔法力で、精液ではないのだ。
 昨日注いだばかりだというのに。今日は宝珠の儀式を行っていなかったはずなのに。まだ魔法力が満杯じゃないのか。この姫のキャパシティはどれほどなのだ。リュウは空恐ろしくなる。
 だが――
 魔法力を欲しがっているのなら、理解できる。リラは宝珠の姫なのだから。

 ようやく、納得のできる答を見つけた。リュウは心が凪いでいくのを感じる。
 リラの言葉の意味は分からないままだが、夜伽をしたがる理由なら分かった。それで十分だ。
 腰を断続的に打ち付けていく。固く熱いものが、女の肉壁を抉って擦り立てる。

「ああっ、ああっ、リュウ様ぁ」

 リラは腰を自ら持ち上げて、ねだるように動かす。本当に、体だけなら成熟した女の動きである。
 その腰をしっかり掴み、リュウはさらに奥まで先端を押し込んでいく。
 繋がった場所からじゅぷじゅぷと卑猥な音がしている。前戯などないに等しかったのにこの濡れようだ。呆れるしかない。
 だがそれもこれも魔法力を得るためだとしたら――宝珠の姫も楽ではないのだろう。
 いきり立つものを奥に押し込んだまま、リュウは腰を回す。リラの感じる一番奥を、先端でぐにゅりとかき回す。

「ひんっ!」

 一声鳴いて、リラはのけぞった。どうやら達したらしい。
 その直後を狙って、リュウは腰の動きを速めた。イッた直後が彼女の一番『いい時間』だ。容赦なく責め立て、「ああっ、ああっ、ああっ!」リラががくがくと体を震わせる。何度も何度も連続の絶頂に入る。
 彼女が達すれば達するほど、中のしめつけは強くなった。擦れる刺激が大きくなる。それはリュウにとっても、快楽が巨大になるということだ。おまけにぬるぬるの彼女の中は、痛みを発しさせない。

「イくぞ……」
「ああっ! お願いリュウ様、どうかリラの中に……ああああっ!」

 魔法力が充填されていく。限界が近くなり、思考がひとつのことしか考えられなくなる。
 彼女の奥に注ぐこと。それしか考えられなくなる。
 それが魔法力なのかそれとも精なのか、それは彼にも分からない。分かる必要もない。同じことだからだ。

 リュウの腰が、ずくんと震えた。
 どくどくと、魔法力をのせた白濁がリラの中に注ぎ込まれていく。
 リラの中は最後までリュウのものを放さない。一滴残らず吸い取ってしまうまで。

「リラ……」

 リュウは汗まみれになったリラの額の髪をどかした。汗に濡れても美しい髪だ。額をそっと手の甲で撫でてやる。なぜそうしたかは分からない。気まぐれだ。
 しかしリラは嬉しそうに目を細めた。目の縁が赤く、欲情の名残を残していたが――それでもリラは美しかった。

 ――リュウ様のお好きになされませ。リラはリュウ様のものでございます――

 今まで幾度となく聞いた言葉。リュウの、一番理解できない言葉。
 むしろ姫のために伽の魔法士がいるのであって、その逆などありえない。それなのに。

(リラ……俺はお前が理解できない)

 ただ、これだけは言える。リラの前では決して口にはできないけれど。
 昔……北の山で、ふいに出会った。あのとき以来変わらず。

(お前のことは、嫌いではないんだ――リラ)



「リュウ様! リュウ様! このような時刻に恐縮ながら、お願いがございます!」

 ファンの慌てた声がドアの外から飛び跳ねるように飛び込んできたのは、その直後のこと。
 もう深夜だった。まだリュウとリラは繋がったままで、後始末もしていない。

「そのまま話せファン! 何事が起こった!」

 リラの中から離れながらリュウは大声で返す。
 ファンは珍しく慌てふためいた声で、

「灰色熊でございます!」
「灰色熊? あれは嘘だったのだろう?」
「本物が現われました、この中央に! こちらに向かってきております!」
「何だと?」

 ぐったりとしているリラの秘所を布で拭ってやりながら、リュウは舌打ちした。嘘から出たまことというやつか。
 しかし――このタイミングはまずい。リュウは今、魔法力の一部をリラに渡したばかりだ。
 リュウたち魔法士の魔法力回復方法はたったひとつ、眠ることである。それ以外では何をしようと消耗以外にない。

「灰色熊は何体だ?」
「判別できるだけで三体でございます! それ以上いる可能性も……!」
「ちっ」

 十体までなら何とかなるか。リュウは布で体を拭き服を整える。

「リュウ様」

 リラが心配そうに、夜着で体の前を隠しながら声をかけてくる。
 リュウはリラを一瞥いちべつした。

「問題ない。俺が倒してくる」
「……お気をつけて……」

 リラが深くこうべを垂れる。何となくその頭を撫でてやってから、リュウは部屋を出た。



「世話係は何人が魔法使いだ?」
「三人でございます。先ほど出向きました。ですが灰色熊に対抗できるほどかどうかは」
「分かった」

 リュウはファンに見送られながら、神殿の外へと向かう。
 外は銀の月の美しい夜だった。何千何億という星のまたたきが、降ってきそうなほど近い。

(灰色熊は北北東――)

 リュウは空を飛んだ。一刻も早くたどり着かなくては。
 そして――

「!?」

 突然飛んできた巨大な火炎球に、即座に反応して身をかわす。
 ――なんだ今のは。
 灰色熊の攻撃に炎はない。神殿の魔法使い連中だろうか。しかしそれにしては威力が大きい。
 まさか。
 嫌な予感がしていた。そのまま飛び続けると、赤々と燃えている場所があった。
 ひいいと悲鳴が聞こえる。女たちの声だ。神殿の魔法使いせわがかりたちか。
 そして――熊の咆哮のような声が、ひとつ。

「リラのところに行かせてなるものか! ここで一匹残らず倒す!」

 リュウは眉間に手を当てた。そこにできたしわをもみほぐした。
 そして、まず逃げ惑っている神殿の魔法使いたち三人に結界を張った。さっきから乱打されている魔法から護ってやるために。

「今すぐ神殿に戻れ。あとは俺に任せろ」
「は、はい~リュウ殿」

 女たちは半泣きで手を取り合って帰って行く。
 間違いなく神殿の方向へ行くのを見送ったあと、

「さて……」

 リュウは地面に立ち、腰に手を当てる。
 魔法の乱打は続いている。火炎、氷柱、竜巻……種類は豊富だが、どうにも命中力が足りない。
 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法に出たのか。それとも、乱心しているだけなのか。

「――いい加減にしろ、北の!」
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