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第一章 呪いのはじまり
2:謎の魔術師 1
しおりを挟む『エルミラ、いい加減わたしの苦労もわかっておくれ。今まで何度縁談を断られたことか……』
それはもはや、父の口癖だった。
父は為政者としては申し分のない人で、気候温暖で緑は豊かだが土地は小さいこの国を立派に護ってきた。
国民を無下にすることも、決してない。国には住む人間が必要だ。この国を美しいと感じ、愛してくれる国民こそがいなくてはなにも意味がない。そのことを教えてくれたのは、他ならぬ父だ。
だからこそ、王女の嫁ぎ先は自然と政略結婚以外なくなる。
理由はただひとつ、国を護るために。
『おまえのことはもっと早く嫁にやっておきたかったのだ。だというのに、おまえは』
ごめんなさい、お父様。エルミラはそのたびに神妙に謝ってきた。
王族に生まれた子となれば、極端な話、生まれたそのときにはもう結婚相手が決まっていることもある。
父がそれをしなかったのは、ある程度の教養をちゃんと仕込んで、『この子なら大丈夫』と確信を持ってから外国へ送り出したいという矜持があるかららしい。
それは何も国の体面のためだけではない。とりわけ娘――王女の場合、嫁ぎ先の言葉も文化もわからないまま放り込むことは、何より姫自身があまりにもかわいそうだと考えてのことなのだ。
……と、そんなことを教えてくれたのは、エルミラの母――第一王妃クレイラだったのだが。
『おまえはじゅうぶんに賢い。わたしはそこは誇らしく思っておるのだ。だというのに肝心なところがだな』
エルミラが何度謝ろうと、父の嘆きは止まらなかった。
こんこんと説教されるエルミラを、最終的に助けてくれたのはいつも母クレイラや、弟のティオ、妹のクレアだった。
『まあまああなた。心配しなくても必ず良い縁談が決まりますわ。エルミラは少し活発すぎるだけで、とても好い子ですもの』
『そうですよ父上。姉上が城内や城下の人々にどれほど好かれているかご存知でしょう?』
『わたし、エルミラねえさまにすてきなことたくさんおそわったわ、とうさま!』
そう言って、彼らはエルミラを救い出してくれた。父も愛する家族たちに一致団結されると弱く、短いあごひげを撫でて黙りこむ。
それは降参の合図で、エルミラはそれを見ては、ようやく今日の分のお説教も終わりだとほっと安堵の息をつく。
そんなことをくり返し続け。
やがてやってきた、成人を祝う大きなパーティ。
――エルミラも必死に『成功させなくては』と苦慮していた大切な宴。
その日までもう一ヶ月を切ろうという、まさにそんな夜だったのだ。
エルミラを喚び出した父が、いつになく誇らしげな顔をして彼女にひとつの決定を言い渡した。あまりに予想外の、事態の急変を。
『おまえの夫となる人物が決まったぞ、エルミラ。驚け、あの大国シファイスの王子殿だ』
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