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失うもの
しおりを挟む私は切り捨てられた。あっけなく。
本当にあっけなく、私の人生は終わった。
すべては王太子アルフレッド様の伴侶になるため、この国の王妃になるため。
『リーズ、貴方は将来王妃となり国母となるのよ。』母は言った。
『私の娘は本当に美しく生まれた。この家の宝だ。』父は言った。
学園から追放された私が家へ帰ると、玄関に両親と妹の姿があった。
2人は私が王太子に婚約破棄されたことを知ると、烈火のごとく怒りだした。
『リーズッ! わかっているのっ。貴方の行為はこの家さえ危険にさらしているのよ!』母は髪を振り乱して喚いた。
『私の娘がこんなに愚かだったとは……。お前にいくらかけてきたと思っている。』父はため息を吐き出し、黙り込んだ。
私は己の潔白を叫んだが、両親にはそんなことはどうでもよかったらしい。
私が罪を犯していようがいまいが、彼らが大切なのは家の存続、家の繁栄だった。
『……、お前には辺境の子爵家でしばらく過ごしてもらう。この地も王都から見れば辺境だが、あそこはこことはくらべものにならないほどの田舎だ。殿下もこれでわが家への制裁は考えてくださるやもしれん。』父はそう言うと家の執事を呼び、私の荷物をまとめるよう言った。父と母とはそれ以降言葉を交わすことはなかった。
『お姉さま、心配しないで。私がお姉さまの分までがんばりますから。』5つ下の妹は、私のお古のぬいぐるみをもって見上げてきた。妹がいつも大切にしていたくまのぬいぐるみ。
そうだ、妹はいつも私のお古を使っていた。
『次は私の番だから。』妹はそういうと、鼻歌を歌いながら部屋を出ていった。
私は執事から準備ができた、と声がかかるまで、窓の外をぼーっとみていた。
私がこれまで信じてきたものはこうも簡単に壊れてしまうものだったの?
家の存続、家の繁栄が大切なのは至極当たり前のこと。
だけど、だけど………、
『信じている』の一言だけでも言ってほしかったの。
ただ、信じてほしかった。
子爵領に送られるのも構わない。学園を追放されるのだって仕方がない。
でも、だけど……。
『リーズ、本当に可愛いわ。リーズは私の自慢の子。』
『リーズ、ほらこっちにおいで。この色のドレスなんかどうだ? きれいな金髪が映えるだろう。』
いままで私を形作っていたなにもかもが跡形もなく崩れ去っていくような気さえした。
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