りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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138話 甘い宝石

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人だかりの中心は、やはり屋台のよう。
リトはじりじり進みながら、何の屋台なのか、周囲の声に耳を澄ませてみる。

「なんか、見たことねえスイーツだとか」
「食える宝石だって聞いたぞ」
「そんなもん、屋台で売ってても手が出ねえよ」

スイーツ? 宝石? 食べ物なのか、そうでないのかすら曖昧で首を傾げる。
しかし、取り越し苦労だったか。屋台ならば、リュウが関係しているわけではないだろう。
まあ、土産話として見ておくか、と切り替えたリトの耳に、やがて聞こえてきた覚えのある声。

「きらっきらきら~見よこの輝き! 宝石ひとついかがかね~っ!」
「きやきやの、きえいな飴! おひとちゅろうぞ~!」
「並べ並べぇ! いいか、これっきりだからな! 買い逃しても知らねえぜぇ?」

思わず膝から崩れ落ちそうになる。
……何をやってるんだ何を。
またしてもラザクか、と額に青筋を浮かべて人混みをかき分けた。

「おお……綺麗だな」
「だろぉ? このラザク様のつくるものに間違いはないぜ!」
「こちや、注意点をよくごやんの上、おたもしみくらさい」

大分滑舌の妖しくなっているセリフを、でれっとした男たたちが適当に頷いて聞いている。小さな手が示す注意書きの看板と、棒に刺さった何か。
なるほど、ランプの灯りにきらりと光る、まるで大きな宝石のようなそれ。
看板には、『フルーツ飴』と書いてある。

むくつけき男共が、きらきらの瞳で飴を眺めている光景が異様だ。

「お前ら……何やってんだよ?!」
「げっ?! リト?!」

途端に逃げ腰になったラザクに、リトの視線が険しくなる。
やはり……。ラザクとリュウに接点が生まれないよう考慮する必要があるかもしれない。
しかし、ずいともう一歩踏み出したところで、ぱふっと軽い衝撃があった。

「りと、おかえり」
「……おう、ただいま。お前、一体何させられてんだよ」

疲れから頬を紅潮させたリュウが、宝石よりもきらきら透き通る瞳でリトを見上げた。

「させらえてない。りゅーが、らざく雇った」
「は?!」
「そうだぜ! 俺様はただの雇われ人! 何一つ責められることなんかないからなぁ!」

今にも駆け出しそうだったラザクが、ふんぞり返って腕組みしている。
責められるところがないと思える、その完全他責寄りの思考回路が不思議だ。

「どういうことだ……」
「りゅー、ふるーちゅ飴屋さんで、お金稼ぐ。そえで、らざく雇った」
「雇われたぜ!!」
「我も!」

お前もかよ。
何の抑止力にもならなかったファエルをじろりと見て、ちっとも状況のつかめないリトが唸った。

「おいおい兄さん、買わねえならどいてくんないか?」
「そうだそうだ、ずっと並んでんだぞ!」

見れば、まだ長蛇の列が続いている。

「りと、こっち」
「お、おい……」

店舗側へ引っ張り込まれ、難しい顔をしたリュウがリトを見上げた。

「お金、いっぱいになったらあむない。リュー、りとも雇いたい」
「そこはこの魔法の権化ルミナスプたる我がいるから、心配いらないのでは?!」
「俺様だっているだろがよぉ! そんなんで取り分減らされちゃたまんねえぞ?!」

来て良かった、とリトはしみじみ思った。
このメンツで、それなりのまとまった金を持って夜分に移動など……下手すれば命ごと取られかねない。
しかし、リュウは少し視線を伏せて首を振った。

「でもりゅー、りとを雇えない……」

無表情で悲し気なリュウに苦笑して、リトは手触りの良い髪をわさわさと撫でた。

「雇わなくて大丈夫だ。俺は、ここでお前を待っているだけだからな。それよりも、事情を聞きてえが」
「さすが過保護者ぁ! そうでなくてはな! さ、存分に無賃労働するがよい!」
「そえは、労基案件のぶやっく企業……」

ぶつぶつ言うリュウを抱き上げ、リトはほのかに甘く香る幼児に顔を寄せた。

「なら、お前も俺に労働で払えばいい」
「りゅーの、できること?」
「ああ」

咄嗟にそう返したものの、さて何をしてもらおうか。
あまり適当なことだと、この生真面目な幼児は納得しないだろうから。

「チョットチョットぉ! そこ、手ぇ休めんじゃねえよ! 幼児の緩衝材がねえと当たりがキツイんですけどぉ!!」

遅い、早くしろ、と突き上げられていたラザクが悲鳴を上げ、手足をばたつかせたリュウがそそくさと業務に戻った。
ついでのようにリュウを撫でていく客たちを見て、リトが店頭に顔を出す。

「りと?」
「気にすんな。抑止力だ」

リュウの背後に陣取って座ったリトが、じっと銀の双眸で客のひとりひとりを睨めつけている。
おかげで、各段に回転率が良くなった。
飴を受け取った客が、そそくさと離れていくのを見て、リュウが感心したようにリトを見上げた。

「りと、あげる」
「ありが……いや、これは売り物だろ」
「おいしい」

小さなベリーを3つまとめて串に刺したしそれは、ガラスのようなベールをまとって本当に宝石のよう。
小さな口で齧ってから、ビチッとリトの唇へ押し当てられる。

「…………ありがとよ」

できれば、食わない状態で欲しかったが。
リュウの唾液でべたつく飴を口へ入れ、リトが少々引きつった笑みを浮かべる。
……甘いな。
ころりと転がした飴が、随分な甘さをもって主張する。
歯を立てた途端、甘酸っぱい果汁が溢れだした。
甘ったるくなった口内が爽やかに塗り替えられて、思わずおお、と声を漏らす。

「結構、美味いな」
「だろうがよぉ! 俺様の腕による甘さと酸味のバランス! 飴の被膜のほどよい厚み! ベストバランスだろがよぉ!」

ラザクを褒めたつもりはなかったが。
どうせ、リュウの知識から作ったレシピだろう。
カリリと小気味よい歯ざわりの奥に、じゅわっと柔らかな果肉。そのアンバランスな食感が、奇妙な中毒性をもって食うのが止まらない。

じっとリトを見上げるミントグリーンの瞳が、むふ、と嬉し気に笑った。
ランプの光に透ける瞳は宝石のようで、そして飴のようで。
きっと、舐めたら甘いに違いない、とリトは笑ったのだった。

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