悪役令嬢の婚約者はニヒルな笑みが様になる

小春日和

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ゲーム前

心の要

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「ヴィルフェルム殿下、御母君もあなた様も守れず申し訳ありませんでした」

深く頭を下げる私に、殿下がはっと息を詰める気配がする。
ユリアーナは既に退室している。
今は殿下と2人きりだ。

カルマ様が身罷れてからずっと、こうしたいと願っていた。
自己満足かもしれないが、娘の婚約者となった今、何も知らないふりをして関わることなど到底できなかった。
だから、ユリアーナが殿下の境遇を知りたいと話を聞きに来たのは渡りに船であったのだ。

「…顔を、上げてください」

静かにヴィルフェルム殿下が告げる。
その言葉に従って顔を上げると、ヴィルフェルム殿下は感情の読めない表情で私を見つめていた。
その視線にやや居心地の悪い思いをしながらも、居ずまいを正す。

「私はどうもアナのこと以外では感情が動かないようで。
先程の話でも、アナが自分のために怒ってくれていることが嬉しいということしか感じなかったので」

惚気か?
ユリアーナの父を前にして惚気るのか?

ヴィルフェルム殿下の意図が読みきれず、思わずはぁ、という惚けた返事が口から出る。
それを大して気にも止めずに、ヴィルフェルム殿下は言葉を続けた。

「謝られても、許すとか許さないとかそれ以前の問題ですね」

その言葉にハッとする。
ユリアーナと出会うまで、ほとんど人との関わりがなく、関わりがあるとしたら悪意や畏怖といった録でもないものばかりだったであろうヴィルフェルム殿下。
感情を封印しなければ、とてもではないが生きてこられなかったに違いない。
体はカルマ様の加護で守られていても、心までは護れない。

ーーー生きてはいたが、心は死んでいた。

そう、突き付けられた気がした。

ユリアーナと出会ったことで少しは息を吹き返せたようだが、ここでもやはり私は無力だった。

情けない。

「だから、私とアナを引き離そうなどと考えないで下さいね?そうなったら、自分でも何をするか分かりませんから」

「…」

爽やかに物騒なことを口にする殿下に、そんなことなど考えてもいなかったが、頷くことしかできなかった。

その只人ではないオーラと威圧感に、もしかしたらこの人ほど王位に相応しい人はいないのではないかと、頭を垂れながらふと思う。

今は予言のせいで忌避されているが、それが解消されればもしや、と考えたところで、殿下からそうそう、と言葉が紡がれる。

「それから、まかり間違っても私を王位になんてふざけたことを考えるのも止めてくださいね。
考えただけでも反吐が出る」

ヒヤリとした空気に、ギクリと身が凍る。

「何のためにこれまで力を使わずに粛々と過ごしてきたか分からなくなるので。
頼みましたよ、義父上?」

「………御意」

まだ15歳とは思えぬほどの威圧感と貫録に、自然と頭が下がる。
もし国が違えば名君として名を馳せたのではとさえ思える威厳に、純粋に惜しいなと思う。
そして、ヴィルフェルム殿下の言い方だとそれを意図的に隠していたということだろう。
確かに、その身を虐げていた国のために、己を捧げるなどしたいはずもない。
我らは、自ら次代の君主を失ったのだ。
このことが後の世にどう影響するのか、恐ろしくて考えたくもない。

殿下の心はユリアーナ次第だという。
我が娘の重要な立ち位置に、気が遠くなる思いがした。

ーーー

「お、お母様」

目の前にはニコニコ上機嫌な笑顔を浮かべるお母様。
そして、両脇には狙った獲物を見つけたかのように爛々と目を光らせるお母様付きの侍女。

「お、お母様?お茶会はそんなに気合いが必要なものなのですか?」

引きつりそうになる顔に、私は何とか笑顔を貼り付ける。

そう、只今絶賛社交を身に付けよう週間に突入したところである。

お父様の話の後、感傷に浸る間もなくお母様からのレッスンならぬお茶会への参加の計画が嵐のように立てられていく。

そして、思い立ったが吉日とばかりに、その日のうちに開催されるお茶会へと連行されることになったのだが。

眩しい笑顔でじりじりと距離を詰めてくる3人に、顔が引きつるのはどうしようもないことだった。
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