隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

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1年生編:夏休み編

第32話 夏のステージ2日目

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会場入りした朝の空気は、前日とは少し違って感じられた。
同じホール、同じ楽屋、同じ時間帯。それなのに、胸の奥に触れる感覚がどこか硬い。

晴はスタッフ用の入館証を首に下げ、バックヤードを歩きながら周囲を見渡した。
昨日は初日特有の慌ただしさが支配していたが、今日はそれとは別の、張りつめた静けさが漂っている。
スタッフたちの足取りも、どこか慎重だった。

控室の前で立ち止まり、晴は一度深呼吸をする。
昨日を無事に終えたという事実が、多少の自信を与えてくれているはずだった。
それでも、胸の奥には理由のはっきりしないざわつきが残っていた。

(……気のせい、だよな)

そう自分に言い聞かせてから、扉をノックする。

「おはよう、晴くん」

中に入ると、紗耶はすでに来ていて、椅子に腰かけたまま軽く手を振った。
今日は白を基調にしたステージ衣装のリハーサル用ジャージ姿で、髪は高めのポニーテールにまとめられている。
メイク前の素顔は、ステージ上よりもずっと幼く、高校生らしさがそのまま残っていた。

「おはよう。今日の調子はどう?」

晴が声をかけると、紗耶は少し肩をすくめて答える。

「うーん、昨日よりは落ち着いてるかな。でも……やっぱり少し緊張するな。」

そう言って小さく笑うが、その目の奥には微かな硬さがあった。
晴はそれに気づきながらも、あえて深くは触れない。

「大丈夫だよ。昨日ちゃんとやれたんだから、今日も頑張ろう」

「……そうだね」

短い会話の中で、互いに気持ちを整えるような時間が流れる。

控室には次々とスタッフが入り、メイクの準備や進行確認が始まった。
いつも通りの光景。
しかし、その空気を破るように、控室の扉がノックされる。

「……少しいいですか」

顔を出した制作スタッフの表情は、明らかに硬かった。
その一瞬で、晴は胸騒ぎの正体を悟る。

「どうしました?」

晴が立ち上がると、スタッフは小さく声を落とす。

「実は……昨夜、事務所に匿名の脅迫状が届きまして」

言葉が空気の中に落ちた瞬間、控室の音が一斉に消えたように感じられた。

「脅迫状!?」

紗耶が思わず声を落とす。
指先が、無意識にジャージの裾を掴んでいた。

「内容は、ライブとファンサービスに関するものです。具体的な日時や場所も書かれていて……念のため、本日と明日は警備を大幅に増やします。」

晴は無意識に拳を握りしめていた。
頭の中に、最悪の想像が一瞬だけよぎる。

(もし、紗耶に何かあったら――)

だが、すぐにそれを振り払う。

「紗耶、大丈夫だから」

晴は意識して声を落ち着かせ、紗耶の方を見た。

「警備も増えるし、俺もずっと近くにいるから!」

その言葉に、紗耶は一度目を伏せ、ゆっくりと頷いた。

「……うん。ありがとう」

その短い返事だけで、晴は自分がここにいる意味を強く感じた。

本番が近づくにつれ、会場の外からファンの声がはっきりと聞こえてくる。
通路には警備員が増え、いつもよりも張りつめた空気が流れていた。

そして、ライブが始まる。

照明が落ち、歓声が一気に弾ける。
ステージに立った瞬間、紗耶の表情は完全に切り替わった。

不安も迷いも感じさせない、完璧なアイドルの笑顔。
歌声は安定していて、ダンスも一切の乱れがない。

「……すごいな」

晴は袖からその姿を見つめながら、思わず呟いた。
どんな状況でも、ファンの前に立てば全力で応える。
その強さと覚悟に、胸が締めつけられる。

ライブは滞りなく進み、無事に終演を迎えた。
だが、晴の緊張は解けなかった。

続いて行われるファンサービスの握手会とサイン会。
ファンとの距離が一気に近づく時間だ。

紗耶は一人ひとりに丁寧に声をかけ、笑顔を向け続ける。
その背後には、いつも以上に多くのスタッフと警備員が立っていた。

晴は少し離れた位置から、常に周囲を確認していた。
人の流れ、立ち止まる時間、視線の動き。
すべてに神経を尖らせる。

それでも――
紗耶の声は、最後まで揺れなかった。

すべての予定が終わり、控室に戻ったとき、紗耶は椅子に腰を下ろし、大きく息を吐いた。

「……無事、終わったぁ~」

その声には、心底の安堵がにじんでいる。

「お疲れ様。今日は昨日より疲れたな。」

晴がそう言うと、紗耶は顔を上げ、小さく笑った。

「そうだね。ちょっと怖かったけど……でも、晴くんとか警備員の人が近くにいてくれたから、頑張れた!」

その言葉は、静かだけれど、まっすぐだった。
晴の胸の奥が、じんわりと熱くなる。

「俺は、当たり前のことをしただけだよ」

そう答えながらも、心の中では違う思いが広がっていた。

守りたいと思った。
ただの役目じゃなく、自然にそう思ってしまった。

控室の外では、まだライブの余韻を語る声が聞こえている。
夏の夜は、静かに更けていく。

二日目のライブは、緊張を抱えたまま幕を下ろした。
けれど晴は嫌な予感だけが、消えずに胸に残っていた。
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