隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034

文字の大きさ
33 / 47
1年生編:夏休み編

第33話 夏のステージ最終日

しおりを挟む
ライブ最終日の朝。
会場の裏口から一歩足を踏み入れた瞬間、晴は思わず背筋を伸ばした。

今日はいつもより空気が違う。
前日までと同じホール、同じ導線、同じ時間帯のはずなのに、肌にまとわりつく緊張感が明らかに濃かった。
警備員の人数は増え、無線のやり取りが短く、無駄がない。
誰もが「今日が最後だ」と理解して動いている。

(今日さえ、無事に終われば.....)

晴はそう自分に言い聞かせながら、スタッフ用の入館証を指で確かめ、控室へ向かった。

控室では、すでに紗耶が鏡の前に立っていた。
白を基調とした最終日用の衣装に身を包み、髪を整えながら、メンバーやスタッフと軽い雑談を交わしている。

「最終日だねー」「あっという間だったよね」
そんな何気ない会話に、笑顔と笑い声が混じる。

表情は、いつも通り完璧だった。
明るくて、柔らかくて、ステージに立つ人間の顔。

けれど晴は、その笑顔の裏に、ほんのわずかな違和感を感じ取っていた。
指先の動きが、少しだけ硬い。無意識に肩に力が入っている。

「最終日だな。この三日間、ほんと早かったよ」
晴がそう声をかけると、紗耶は鏡越しに目を合わせて微笑んだ。

「うん。でも、今日が一番大事!」
少し間を置いて、続ける。
「ちゃんと、最後までやり切りたいから。」

その声には、アイドルとしての責任と覚悟が滲んでいた。
晴は何も言わず、静かに頷く。

そこへ、スーツ姿の警備責任者が控室に入ってきた。
一瞬で空気が引き締まる。

「本日は、昨日以上に警備を強化しています。」
落ち着いた、しかし重みのある声。
「会場内外ともに増員し、握手会とサイン会エリアの配置も変更しました。何かあれば、すぐに対応しますので!」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
紗耶は深く頭を下げた。

晴はそのやり取りを聞きながら、胸の奥で小さく息を吐いた。
昨日までの緊張が、まだ完全に抜けていない。
それでも、今日が最後だという事実が、逆に気持ちを前に向かせていた。

やがて、開演時間が近づく。

照明が落ち、会場が暗転する。
次の瞬間、歓声が弾けるように響き渡った。

ステージに立った紗耶は、まるで別人のようだった。
不安も迷いも影を潜め、全身から放たれるのは自信と輝き。

歌声は力強く、ダンスはしなやかで、観客の視線を一瞬も逃さない。
笑顔一つ、指先の動き一つが、完璧だった。

(……すごい)

晴はステージ袖から、その姿を見つめていた。
守る立場で来たはずなのに、いつの間にか、一人の観客として心を奪われている自分に気づく。

ライブは大きなトラブルもなく進み、クライマックスを迎えた。
最後の曲が終わり、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。

「ありがとうございましたー!」

紗耶が深く頭を下げると、さらに大きな声援が返ってきた。

そして、握手会とサイン会。
最も神経を使う時間だった。

晴は警備員と一緒に紗耶のすぐ近くに立ち、列の流れ、客の表情、距離感を一人ひとり確認していく。
熱気は、これまで以上に高い。

「ありがとう」
紗耶は疲れを感じさせない笑顔で、一人ひとりと向き合っていた。

そのときだった。

列の中程で、ほんの一瞬、空気が歪んだ気がした。
晴の視線が、反射的にそこへ向く。

帽子を深くかぶった男。
距離が、近すぎる。

(……おかしい)

次の瞬間、男の手が服の内側へ伸びる。
刃物が、照明を反射して光った。

「――紗耶!!」

晴は考えるより先に体が動いていた。
足元のスニーカーを脱ぎ、全力で男に向かって投げつける。

鈍い音。
靴は男の顔面に直撃し、体勢を崩して前のめりに倒れ込む。

「確保!」

警備員が一斉に飛びかかり、男を取り押さえた。
会場は一瞬で騒然となり、悲鳴とどよめきが広がる。

「皆さん、落ち着いてください!」
スタッフの声が響き、イベントは即座に中止となった。

紗耶が控室に戻ると、椅子に座り込み、深く息を吐く。
手が、はっきりと震えている。

「……大丈夫?」
晴が、静かに声をかけた。

紗耶は顔を上げ、しばらく何も言わずに彼を見つめたあと、かすかに笑った。

「うん……怖かったけど」
小さく息を吸い、
「晴くんが、靴を投げて助けてくれたから大丈夫だよ(笑)」

「とっさに体が動いただけだよ」
照れたように、晴は頭をかく。

「それでも」
紗耶は立ち上がり、真剣な眼差しで彼を見つめる。
「本当に、そばにいてくれてよかった。」

胸の奥が、強く鳴る。
それは、ただの感謝ではなかった。

(……あ)

紗耶は、その感情の正体に、気づいてしまう。

ステージでどんなに輝いても、
ファンに囲まれても、
あの瞬間、守ってくれたのは――晴だった。

「……好き、なのかも」

小さな呟きは、誰にも届かない。

最終日のファンサ-ビスは中止になったが、それ以外の予定は無事に終了した。
事件は大きく表に出ることなく、ライブは成功として幕を閉じる。

会場を後にすると、夜風が静かに二人の間を通り抜けた。

「本当に、お疲れ様!」
晴が言うと、紗耶は少し照れたように笑う。

「うん。ありがとう、晴くん」

その笑顔は、これまでとは少し違って見えた。

この日を境に紗耶の中で確かに何かが変わった。

それはまだ言葉にならない、
でも確かな――恋の始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【朗報】俺をこっぴどく振った幼馴染がレンカノしてたので2時間15,000円でレンタルしてみました

田中又雄
恋愛
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいた。 しかし、高校進学にあたり、別々の高校に行くことになったため、中学卒業のタイミングで思い切って告白してみた。 だが、返ってきたのは…「はぁ!?誰があんたみたいなのと付き合うのよ!」という酷い言葉だった。 それからは家は近所だったが、それからは一度も話をすることもなく、高校を卒業して、俺たちは同じ大学に行くことになった。 そんなある日、とある噂を聞いた。 どうやら、あいつがレンタル彼女なるものを始めたとか…。 気持ち悪いと思いながらも俺は予約を入れるのであった。 そうして、デート当日。 待ち合わせ場所に着くと、後ろから彼女がやってきた。 「あ、ごめんね!待たせちゃっ…た…よ…ね」と、どんどんと顔が青ざめる。 「…待ってないよ。マイハニー」 「なっ…!?なんであんたが…!ばっかじゃないの!?」 「あんた…?何を言っているんだい?彼女が彼氏にあんたとか言わないよね?」 「頭おかしいんじゃないの…」 そうして、ドン引きする幼馴染と俺は初デートをするのだった。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

処理中です...