さよならを 屋上の青に溶かして

水瀬潤

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第4章

消えゆく残像

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文化祭当日。

校内は、朝から熱を帯びていた。普段は無機質な廊下に装飾が施され、教室からは音楽や笑い声が溢れてくる。屋台の匂いが混じり合い、学校全体が一つの生き物のように脈打っていた。

陽は、その中心にいた。

正確に言えば、中心に“引き寄せられて”いた。

「これ、屋上の展示見た?」
「すごいらしいよ」

そんな声が、あちこちから聞こえてくる。

屋上への階段には、見慣れないほどの人の列ができていた。

完成した絵は、想像以上だった。

空と溶け合うほどの青を基調に、光の粒が散らばり、見る角度によって色彩が変わる。まるで、空そのものを切り取って貼り付けたかのような一枚。

誰かが息を呑み、誰かが言葉を失い、誰かがそっと写真を撮る。

陽は、その様子を少し離れた場所から見つめていた。

胸の奥に湧き上がるのは、達成感と、説明できない不安だった。

「秋穂は?」

ふと気づく。

開場時間を過ぎても、彼女の姿が見当たらない。

胸騒ぎが、現実に変わったのは、その直後だった。

昼過ぎ、騒がしい校内に、救急車のサイレンが重なった。

一瞬で空気が変わる。

担架に乗せられた秋穂の姿を見たとき、陽の時間は止まった。

名前を呼ぼうとした声は、喉で砕けた。

病院へ向かう道の記憶は、ほとんど残っていない。

白い天井。消毒液の匂い。無機質な音。

ベッドの上で、秋穂は小さく呼吸をしていた。

「……陽くん」

意識が朦朧とする中で、彼女は彼を見つけた。

陽は、必死に笑みを浮かべた。

「すごかったよ、絵」
「みんな、感動してた」

秋穂は、かすかに笑う。

「よかった……」

沈黙が落ちる。

やがて、彼女は小さく呟いた。

「ねえ……あの絵……」
「明日も、一緒に見られるかな」

返事をする時間は、与えられなかった。

その言葉は、二人の間に残された、最後の会話になった。
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