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自称・山のプロフェッショナル、遭難する
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「あれ、おかしいな?地図だとこっちの道だと思うが・・・」
ローランは手元のヌーミル山の地図を見ながら、そう呟いた。
その地図は、登山者用に作られた精巧なもので、紅葉が見られるシーズンなどでは、その地図は大変便利なものだったはずだ。
しかし、極寒の吹雪が吹き荒れる山はその姿形を大きく変えていた。
平時は目印となるものが、この真っ白に覆われた景色の中では埋もれてしまっていたのだ。
さらに、山道も雪で覆われて見えなくなってしまっている。
ローラン達は既に登山コースから外れていたのだ。
そんな頼りないローランの姿に、ジュリーもさすがに不安になったのか、恐る恐る訊ねた。
「ローラン様?だ、大丈夫ですわよね?私達、ちゃんと山頂に向かって歩いているのですよね?」
そんなジュリーの言葉に、余裕のないローランはムキになって答える。
「当たり前だろう!僕を何だと思ってるんだジュリー!僕は山のプロフェッショナルだぞ!君は黙って僕の後をついてくればいいんだ!」
「は・・・はい。すいません・・・」
あまりの婚約者の剣幕に、ジュリーは黙った。ここで彼を怒らせては、せっかく姉から奪った婚約者に、自分も捨てられてしまうと思ったからだ。
彼女は自分が男を捨てることはなんとも思わないが、男に捨てられることはプライドが許さなかったのだ。とりあえず今は彼に従順に従って、徐々に彼に対してもマウントを取るつもりでいた。
そんな彼女の思惑を知らずに、彼は呑気に口を開いた。
「あ!ここだ!ここに間違いないぞ!さすが僕は山のプロフェッショナルだ!さぁジュリー!山頂へ急ごう!」
「さすがローラン様ですわ!やっぱり頼りになりますわね♪」
間違いしかない自称・山のプロフェッショナル。
そして、そんな男をヨイショして機嫌をとるジュリー。
頓珍漢な2人は、こうして、更に地獄に向かって進んでしまった。
・・・
「お母様。ジュリーの姿が見えませんが、どこかに出かけているのですか?」
もう夜になろうというのに、妹の姿が見えません。私は母に尋ねてみました。
「あら、そういえば姿が見えませんね。・・・またあの子は夜遊びをしているのかもしれないわね。帰ってきたらちゃんと叱りつけなければ」
「ハハハ、ジュリーはまだ遊びたい盛りなんだろう。それでも私の娘なんだ。ちゃんと戻ってくるさ」
娘の非行に眉をしかめる母と、対照的に楽観的にのほほんとした父。
母が父に冷めた目を向けるのを見ながら、私はふと先日のローラン様と妹の会話を思い出します。
「まさか、ね」
外を見ると、チラチラと雪が降っています。
この王都でも雪が降ると言うことは、ヌーミル山は大変な状況のはず。
さすがにこんな状況で山に登ってる訳、ないわよね。
いくらあの2人の頭がアレでも、さすがにそれは無いわよね。
(はぁ、いけないわ。私ったら、さすがにいくら頭の弱いあの2人でも、そんなにおバカすぎる訳ないじゃない)
私は反省しました。
・・・
一方その頃、おバカすぎる2人は醜い言い争いをしていました。
「ちょっと!どういうことですの!遭難したかも?ですって!山のプロフェッショナルが聞いて呆れるわよ!」
自称・山のプロフェッショナルが「遭難したかも」などとふざけたことを言い出したのだ。ジュリーはそんなことを言い出した婚約者に対して、本性を現した。相手を罵ることは、彼女の得意分野であった。
「遭難した『かも』と言っただけだ!遭難したとは言ってないだろうが!だいたいお前はただ俺についてきただけの役立たずの癖に、なんでそんな偉そうなんだ!・・・カトリーヌだったらもっと俺をサポートしてくれていたぞ!彼女は有能だった!お前のような無能と違ってな!」
一方のプロフェッショナルも負けてはいない。自分は間違っていない。そもそも役に立たず文句だけ言うお前はなんなんだ、と相手を罵っている。彼は言い負かされそうになるとキレるのだ。特に、キレた相手に逆ギレをするのが得意分野で、さらに相手が嫌がることを指摘するのに長けていた。彼は間違いなく、その道のプロフェッショナルだった。
彼は、カトリーヌを捨ててジュリーを選んだ。しかし、そのジュリーに対してカトリーヌのほうが優れていると口にしたのだ。その主張自体は正しいのだが、婚約破棄をしたお前が言うな、という状態だった。
そして、よりにもよって、姉と比べて自分が劣っているというタブーを口にされたジュリーはぶち切れた。ついに、彼女は秘儀を出した。顔芸・般若と、怒涛の口汚さのダブルセットである。
「はぁぁぁ!?お前バカじゃねぇのか!黙ってついてこいって言ったのオメェだろうがよぉ!なーにが山のプロフェッショナルじゃ!そもそもプロフェッショナルだったらこんな状況になってねぇだろうが!オメェは救いようのねぇバカだ!バカを極めた、バカのプロフェッショナルだ!低能バカローラン!」
「!・・・・うぇえええええ!」
ここに、勝敗が決した。あまりのジュリーの剣幕で、さすがのローランも泣いてしまったのだ。
泣きじゃくる彼の姿を目にしたジュリーは、ゴミを見る目で彼に向けた。
「・・・っは!泣き出すとかなっさけない男!オメェとの婚約はこっちから破棄してやんよ!山の栄養になって死ねカスが!」
最後の最後まで彼を罵って満足した彼女は、泣いて蹲る彼を置いて、歩いてきた道を引き返した。
彼は、涙が凍ってしまって、目を開けることもできなくなってしまった。
ローランは手元のヌーミル山の地図を見ながら、そう呟いた。
その地図は、登山者用に作られた精巧なもので、紅葉が見られるシーズンなどでは、その地図は大変便利なものだったはずだ。
しかし、極寒の吹雪が吹き荒れる山はその姿形を大きく変えていた。
平時は目印となるものが、この真っ白に覆われた景色の中では埋もれてしまっていたのだ。
さらに、山道も雪で覆われて見えなくなってしまっている。
ローラン達は既に登山コースから外れていたのだ。
そんな頼りないローランの姿に、ジュリーもさすがに不安になったのか、恐る恐る訊ねた。
「ローラン様?だ、大丈夫ですわよね?私達、ちゃんと山頂に向かって歩いているのですよね?」
そんなジュリーの言葉に、余裕のないローランはムキになって答える。
「当たり前だろう!僕を何だと思ってるんだジュリー!僕は山のプロフェッショナルだぞ!君は黙って僕の後をついてくればいいんだ!」
「は・・・はい。すいません・・・」
あまりの婚約者の剣幕に、ジュリーは黙った。ここで彼を怒らせては、せっかく姉から奪った婚約者に、自分も捨てられてしまうと思ったからだ。
彼女は自分が男を捨てることはなんとも思わないが、男に捨てられることはプライドが許さなかったのだ。とりあえず今は彼に従順に従って、徐々に彼に対してもマウントを取るつもりでいた。
そんな彼女の思惑を知らずに、彼は呑気に口を開いた。
「あ!ここだ!ここに間違いないぞ!さすが僕は山のプロフェッショナルだ!さぁジュリー!山頂へ急ごう!」
「さすがローラン様ですわ!やっぱり頼りになりますわね♪」
間違いしかない自称・山のプロフェッショナル。
そして、そんな男をヨイショして機嫌をとるジュリー。
頓珍漢な2人は、こうして、更に地獄に向かって進んでしまった。
・・・
「お母様。ジュリーの姿が見えませんが、どこかに出かけているのですか?」
もう夜になろうというのに、妹の姿が見えません。私は母に尋ねてみました。
「あら、そういえば姿が見えませんね。・・・またあの子は夜遊びをしているのかもしれないわね。帰ってきたらちゃんと叱りつけなければ」
「ハハハ、ジュリーはまだ遊びたい盛りなんだろう。それでも私の娘なんだ。ちゃんと戻ってくるさ」
娘の非行に眉をしかめる母と、対照的に楽観的にのほほんとした父。
母が父に冷めた目を向けるのを見ながら、私はふと先日のローラン様と妹の会話を思い出します。
「まさか、ね」
外を見ると、チラチラと雪が降っています。
この王都でも雪が降ると言うことは、ヌーミル山は大変な状況のはず。
さすがにこんな状況で山に登ってる訳、ないわよね。
いくらあの2人の頭がアレでも、さすがにそれは無いわよね。
(はぁ、いけないわ。私ったら、さすがにいくら頭の弱いあの2人でも、そんなにおバカすぎる訳ないじゃない)
私は反省しました。
・・・
一方その頃、おバカすぎる2人は醜い言い争いをしていました。
「ちょっと!どういうことですの!遭難したかも?ですって!山のプロフェッショナルが聞いて呆れるわよ!」
自称・山のプロフェッショナルが「遭難したかも」などとふざけたことを言い出したのだ。ジュリーはそんなことを言い出した婚約者に対して、本性を現した。相手を罵ることは、彼女の得意分野であった。
「遭難した『かも』と言っただけだ!遭難したとは言ってないだろうが!だいたいお前はただ俺についてきただけの役立たずの癖に、なんでそんな偉そうなんだ!・・・カトリーヌだったらもっと俺をサポートしてくれていたぞ!彼女は有能だった!お前のような無能と違ってな!」
一方のプロフェッショナルも負けてはいない。自分は間違っていない。そもそも役に立たず文句だけ言うお前はなんなんだ、と相手を罵っている。彼は言い負かされそうになるとキレるのだ。特に、キレた相手に逆ギレをするのが得意分野で、さらに相手が嫌がることを指摘するのに長けていた。彼は間違いなく、その道のプロフェッショナルだった。
彼は、カトリーヌを捨ててジュリーを選んだ。しかし、そのジュリーに対してカトリーヌのほうが優れていると口にしたのだ。その主張自体は正しいのだが、婚約破棄をしたお前が言うな、という状態だった。
そして、よりにもよって、姉と比べて自分が劣っているというタブーを口にされたジュリーはぶち切れた。ついに、彼女は秘儀を出した。顔芸・般若と、怒涛の口汚さのダブルセットである。
「はぁぁぁ!?お前バカじゃねぇのか!黙ってついてこいって言ったのオメェだろうがよぉ!なーにが山のプロフェッショナルじゃ!そもそもプロフェッショナルだったらこんな状況になってねぇだろうが!オメェは救いようのねぇバカだ!バカを極めた、バカのプロフェッショナルだ!低能バカローラン!」
「!・・・・うぇえええええ!」
ここに、勝敗が決した。あまりのジュリーの剣幕で、さすがのローランも泣いてしまったのだ。
泣きじゃくる彼の姿を目にしたジュリーは、ゴミを見る目で彼に向けた。
「・・・っは!泣き出すとかなっさけない男!オメェとの婚約はこっちから破棄してやんよ!山の栄養になって死ねカスが!」
最後の最後まで彼を罵って満足した彼女は、泣いて蹲る彼を置いて、歩いてきた道を引き返した。
彼は、涙が凍ってしまって、目を開けることもできなくなってしまった。
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