限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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くもいの館 前編

7.

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通されたのは食堂とおぼしき大きく長いテーブルの置かれた部屋だった。豪奢なシャンデリアの下、真っ白なテーブルクロスにはケーキやらマカロンやらチョコレートやら多種多様のお菓子が載っている。さっき聞かれたフィナンシェの載った皿もある。

窓側にひとつ、対面の壁側にふたつ置かれた三つのカップにはそれぞれなみなみと注がれた紅茶が湯気を立てている。

え、いつの間に準備したの?

紅茶なんか、今まさに注がれた感じなんだけど。

くもいさんが部屋に入ってすぐ私たちは呼ばれたよな…。その短い間に準備したとは思えないし、あらかじめセッティングしていたとしても、ケーキや洋菓子を見てもどれも瑞々しく表面が乾いた気配もない。

いやまあ、普通に考えてお手伝いさんが用意したんだよね。こんな広いお屋敷に住む金持ちなんだから、お手伝いさんのひとりやふたり余裕でいるに決まってる…ひとの気配を感じないがな主人の邪魔をしないように姿を見せないだけだよな!

怒涛の如く自分を納得させ、くもいさんに勧められてティーカップを持ち上げる。
どっかで見たことあるな…とこっそり底を見て、底にバーンと並んだロゴが庶民の私でも知っている西洋の有名なものだと知り思い切り手が震えた。いや待って! 耐えて私の手よ! まじで割ったらまずいから。

対面に座ったくもいさんは優雅にティーカップを傾け「美味しい?」と聞いてきた。高級食器に奇声をあげそうになっていた私が鼓動の爆音を抑えて「はい」と返すと、とても嬉しそうにしてあれもそれもと次々とお菓子を勧めてきた。

あまい。あますぎる。甘いものは人並みに好きだけど、ケーキなら一切れだけで満足してしまうコスパの良さなので、早々に白旗をあげそうになった。気分はエサを詰め込まれているフォアグラのためのガチョウのそれだ。見たことないけど。

「こちらも如何? 焼き立てなの」

パウンドケーキの載ったトレイを示し、取り分けてくれようとするくもいさんに意を決して言う。

「あ、あの!」

「なあに」

「お探しのものがあるとのお話でしたよね?」

くもいさんは小首を傾げ、ややあって「ああ…」と思い出したかのように両手を顔の前で打ち合わせた。

「そうそう、そうだったわ。今日はわたくしの依頼で来て頂いたのよね」

よかった。私が本格的にフードファイターになる前に本題に入れそうだ。

頬に手をあて、くもいさんが物憂げにため息をついた。

「本当に何処にいったのかしら…。困るのよ、わたくしの大切なものなの」

「何を失くされたんですか?」

「さあ、なんだったかしら?」

返された言葉に二の句が継げなくなった。
くもいさんは本当に不思議そうにしていて、私をからかっている様子じゃない。
失くしたものを忘れてしまったのか?

「ねえそんなことより」と、くもいさんが明るく微笑みかけてきた。真っ直ぐ私を見て言う。

「あなた、お名前はなんと言うの?」
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