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第四章 俺様の外れスキルは【四死】 ~獣人国レオのレグルスの場合

第01話 王の器

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 ここはこの世界の東に位置する国で色々な獣人種達が集まって一つの国になった獣人だけの国『獣人国レオ』

 亜人と呼ばれる獣人、エルフ、ドワーフなどの種族はジョブと言う概念がなく、スキルも生まれた時から持って居る為、人間族が行っている『祝福の儀』と言うものが無い。

 ステータスが元々人間族の五倍はあり、人間族が持つ『上級職』のステータス補正と変わらない、そして生まれた後も複数のスキルを覚えて行くこともできる。これは魔物と同じだ。

 生まれながらに魔物などと戦える身体能力、スキルを所持して居る為、『祝福の儀』を行わないとスライムにすら勝てない人間族を下に見ている亜人は多い。

 そして亜人は種族固有のスキルも持っており、獣人族ならば『獣魔化』と言う、見た目も内面も、より獣に近い状態に変化するスキルを生まれながらに所有している。理性を無くして身体能力を数段上げる接近戦主体の能力だ。

 更に獣人族の場合はそこから、一族特有のスキルを持って居る。例えば狐人族なら『狐火きつねび』、狸人族なら『変化へんげ』など。

 話は変わりこの国『獣人国レオ』には『いにしえの掟』という古くからの掟が幾つかある。

一つ、五年毎にこの国の王にあたる『獣王』を決める格闘大会を必ず行う、ただし参加出来るのは一種族につき一名だけ。

一つ、格闘大会で負けた者はその時の優勝者である『獣王』に忠義を尽くすか、国を出るか選ばなければならない。どちらも拒否した場合は死罪となる。

一つ、格闘大会は一族の誇りを背負って正々堂々と戦わねばならない。反則行為や卑怯な行いをした者は死罪。その一族は今後百年間、格闘大会に参加できない。

一つ、何か問題が起きた場合は全て武力による決闘で解決する。

一つ、絶滅の危機に在る種族は皆で協力し助ける。

一つ、上記五つの掟以外の規則はその時の『獣王』が好きに決める事ができる。


~獣人国ウォルフ城内 獣王ウォルフ視点side

 今年は新たな『獣王』を決める年である。今代の『獣王』は黒狼こくろう族のウォルフ。『獣王』になる前は獣人族では珍しく智将と呼ばれていた。ただ一部では恥将と呼ぶ者もいたが……そしてここはその『獣王』が住む城ウォルフ城の一室――。

「ウォルフ卑怯だぞぉ! 正々堂々と戦えー、自分の有利になるように規則を変えるなぁ!」

 俺は城の中から外を覗く。城門の方から聞こえてくる声に苛立ちを覚え右腕がうずき出す、隣にいる俺と同族の黒狼族のライエ宰相にその怒りをぶつける。

「おい!? どういう事だ、またあの小僧が来ているではないか?」

「も、申し訳ございません、どうやらまた・・暗殺に失敗したようです」

「貴様言っていたよな、最強の暗殺部隊を用意したので次は絶対成功すると」

「そ、それはそうですが、ただ今まで送った暗殺者が誰一人戻って来ないのであの子供がどの様な戦いをしたのかすら分からないので対策をとれず……」

「貴様は無能か! 全滅する前に誰か一人ぐらい情報を持って逃げられただろう」

「そういう指示も出しておいたのですが、結局誰も……」

「何っ……ならば次は、何人かは遠くから観察するだけの者も連れて行け!」

「はっ!」

▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

――次の日。

~獣人国ウォルフ城内 獣王ウォルフ視点side

「また殺し屋を寄越しやがったなぁ! ウォルフ卑怯だぞぉ、正々堂々と戦え!」

 俺は城の中から外を覗く。城門の方から聞こえてくるいつもの声に苛立ちを覚え右腕を撫でながら、隣に立って大量の冷や汗を流しているライエ宰相にその怒りをぶつける。

「おい!? どういう事だ、またあの小僧が来ているではないか?」

「……申し訳ございません、どうやらまた・・暗殺に失敗したようです」

「ちっ、無能が! それで、あの小僧が持って居るスキルの一つや二つは流石に分かったんだろうな?」

「……それが……」

「おい? まさかまた何も分からなかったとは言わないよな?」

「……その通りでございます。流石獣王フォルフ様です」

 俺は持って居たワイングラスをふわふわの絨緞に叩きつける。

「ふざけるな! 何が流石獣王様だ! 貴様ちゃんと俺が言ったように偵察専用の者も雇ったんだろうな?」

「はい、勿論です、大量の暗殺部隊と一緒に偵察に長けたスキル持ち四名も率いて行きました、そこまでしたのですが結局誰も戻って来ませんでした……」

「くっ、一体どういう事だ? あの小僧にはそれほど強い仲間が沢山いるのか? それともあの小僧一人で返り討ちにしたのか――それが分からねばもうすぐ始まる獣王を決める格闘大会、通称『獣王祭じゅうおうさい』で万が一の事が起こる可能性があるぞ」

「こうなるとやはり土壇場で『獣王祭じゅうおうさい』のルールを変えたのは正解でございましたね」

「ん? ああ、そうだな、念には念を入れておいて良かったな、そこだけは提案を出した貴様を褒めてやる」

 俺は今年も『獣王』を続ける為、幾つか今までと違うルールにした。本当は『獣王祭じゅうおうさい』そのものを無くせればいいのだがそれは古来の掟上許されないと他の者達に言われたから仕方がない。

 まず一つは、今までの対戦方式はトーナメントか総当たり戦だったのを勝ち抜き戦にした。勿論不公平ではあるがあの小僧を潰す為だ。

 そして次に、今代の『獣王』は勝ち抜き戦で優勝した者と最後に一度・・だけ『獣王』の座を掛けて戦えば良く、しかも本人ではなく代理でもかまわない事にした。これも勿論不公平ではあるが俺に万が一の事があっては困るからだ。

 そして最後に、今代の『獣王』以外の『獣王祭じゅうおうさい』に参加する者は持って居るスキルを先に大会委員に報告しなければならない。報告していないスキルを使った場合は失格となる。まあこれも勿論不公平ではあるが俺が有利になる為には仕方がない事だ。

「だがもっと俺が有利になるようにルールを変えた方がいいんじゃないか?」

「い、いえ流石にこれ以上やるともう不公平と言うより『獣王祭じゅうおうさい』そのものが無意味になってしまいますので、そもそも私が提案したのはウォルフ様の代わりに代理を出すと言う事だけだった筈ですが……」

「ん? ああ俺の代わりに出場する息子のケフェウスが気を利かせて色々付け足してくれたようだな、それに俺は、出来れば『獣王祭じゅうおうさい』自体を無くしたいのだからもっと変えてもいいのだぞ」

「ですが既に国民からの支持率は下がっており、ウォルフ様の為にもならないかと」

「ふん、国民の支持率などどうでもよい、問題があれば武力でどうにでもなるだろ」

「しかしそのお陰で既にレジスタンスの存在が確認されており、これ以上は火に油を注ぐことになりかねません」

「レジスタンスか、そんなのも居ったな……『獣王祭じゅうおうさい』が始まる前に片付けておけよ」

「え? そ、それは、あの子供の件でもう人員が――」

「何か言ったか?」

「い、いえ、はい、分かりました、何とか致します」
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