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幼馴染ルート

07_仲のいい人

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■中野ウルハ視点
今日も生徒会活動が長引きそうだ。
自分で書いた原稿をチェックするため、プリントアウトして、席を立つ。

少し気分を変えてから読み直すと、変なところや誤字脱字を自分でも見つけられることがある。

ふと外を見ると、私の心臓を射抜くようなものを見てしまった。
ユージだ。
知らない女子と腕を組んで歩いている。

なに!?あの親密さ!

頭に血が上るのが自分でもわかった。

でも、私は彼を拒絶したのだ。
別れたのだ。
彼が誰とどこで何をしようと何も言う権利はない。

でも、私と別れてすぐに他の女になびくなんて・・・


「会長?どうかしましたか?」

声をかけられて我に返る。

「あ、いえ・・・」

さっきプリントアウトした紙が手元でぐしゃぐしゃになっていた。
私は何を考えているの?

ユージは私のなのに・・・誰なのアレ!?
胸が焼ける様な感覚。
この感情は・・・





■葛西ユージ視点
今日は小田島さんの家にいくことになっている。
髪を切ってくれるらしい。

最近忙しくて髪を切るのは後回しになっていたのでいい機会だと思った。
バイト代もあらかた例のプレゼントにつぎ込んだのでお金はほとんど残ってない。

タダで切ってくれるというのは魅力的な提案だった。

「じゃ、いこっか」

小田島さんが、教室で腕を組んできた。

「え、えっと、うん・・・」

「えへへ」

照れ笑いを向けてくる小田島さん。
まさか帰りがけ一緒に行くことになるとは思っていなかった。
てっきり、お店の場所を聞いてそこに行くものだとばかり・・・

小田島さんは男女とも友達が多いので、ATフィールド(心の距離)が狭い。
腕を組むのも普通のスキンシップなのかもしれない。
ただ、僕はちょっと、いや、かなり落ち着かない。

ウルハとも腕なんて最近は組んでないのに。
こうして彼女と腕を組んでいると目立ってしまう。

しかも、彼女はかなりかわいい方の部類なので、クラス内でも男子に人気がある。
無駄に嫉妬の対象になるからやめて(汗)



どぎまぎしながら、小田島さんに連れられて、彼女の家の美容院に向かった。
下駄箱で靴を履き替えて、その後も小田島さんは腕を組んできた。

これって普通?
女友達だったら分かるけど、もしかして、僕って男とも思われてない?

時々、僕の肘に彼女の胸が当たって、すごく気になるんだけど、女子って気にならないの!?
色々話してはいるけど、全く内容が頭に入ってこない。





「上を30ミリ、横と前は10ミリカットでお願いします」

「そんな工業製品みたいな切り方しないよ~、ウケるー」

美容院に着いて、僕は椅子に座っている。
お店は今日お休みらしく、小田島さんが直々に切ってくれるらしい。

同級生が髪を切るって・・・不安だ。

「ユカがかっこいいと思う髪型にしちゃいます!」

小田島さん、下の名前は『ユカ』なのか。

「マジかぁ~」

「あ、心配してるぅ?大丈夫だもん!パパとママは私がカットしてるもんっ!」

『もんっ』て可愛いな。
ウルハは死んでもそんな事言わないから新鮮。

「あ、笑った!ひどぉ。信じてないなぁ~!」

「いやいや。信じてる、信じてる」

「に、2回言ったなぁ・・・見てろぉ」

小田島さんはとても愉快な人だった。
さすがクラスの人気者だ。

しかも、カットがうまい!

クシを通したり、カットしたり、少し頭を触られたり、知っている人が髪を切ってくれるのって新鮮だった。
異性にこんなに頭を触られることなどない。
なんか勝手に親近感を持ったというか、仲良くなった気になっていた。

「葛西くん、頭の形が良いんだよね。ずっと気になってたの」

「頭の形・・・そんな風に人を見たことがなかったよ」

「なんだろ、職業病?仕事じゃないけど。つい、人の頭の形を見ちゃうの」

髪を切ってくれながら会話もできる。
少なくとも僕から見たらプロと変わらないくらいの余裕が感じられた。

「へー、よく誰かの切るの?」

「うーん、パパとママとたまにスタッフの人のを切らしてもらう感じ」

「へー、知ってる人に髪を切ってもらうのってなんか新鮮だよ」

「私も同級生切るの初めて。なんかエロいよね」

そういうこと言われて、僕はどう答えたらいいのか・・・

「ふふ・・・葛西くん、顔真っ赤」

「だって・・・」

「えへへ、意識してくれた?」

「そりゃあ・・・」

「だったら嬉しいな・・・はい!出来上がり!どう!?」

後ろは広げるタイプの鏡を持って後頭部も見えるようにしてくれている。

「おお!マジこれ!?いいよ!」

すごくうまくカットされていた。
普通にカットと言うよりは、毎回ここで切りたいくらいだった。

耳の上はいつも短くしたいのだけれど、刈上げで青くなるのは躊躇してしまう。
いい具合の長さで横を切ってくれる店はあまりなかったのだ。

「ホント!?よかった」

「葛西くん髪伸びるの早いみたいだから、2週間に1度くらい切るとほんとはいいんだよ」

「そんなとこまで見てるんだ・・・もうプロだね」

小田島さんが耳元に口を近づけて、鏡越しに僕の目を見ながら言った。

「好きじゃないとそんなに見ないよ」

「え!?」

カットだよね!?
カットのことだよね!?
すぐ僕は誤解するから。

そう分かっていても、意識せずにはいられなかった。


「ねえ、葛西くん、まだ時間大丈夫?」

小田島さんが首にかける布みたいなのを片付けながら聞いてきた。

「あ、うん」

別に帰ってもすることなど特にない。
時間があると強烈な羞恥心にヤられそうになるだけ。

「ジュースあるからさ、ちょっと部屋でお話しない?」

「あ、うん・・・」

部屋!?
小田島さんの部屋!?

美容室にいるので、なんとなく忘れてたけど、ここ小田島さんの家じゃん!
部屋って、彼女の部屋!?
女の子の部屋!?


小田島さんの部屋は2階。
廊下を歩いていると、お母さんに会ってあいさつされてしまった。
美容室をやっているからか、髪は染めた感じで、見た目にも若い。

小田島さんのお姉さんと言ったら、通用してしまうかもしれない。
ちゃんと挨拶をすることで、『変なことをしに来た間男的なやつじゃないですよぉ』とアピールした。

そして通された小田島さんの部屋。
美容院とはまた違って、甘いようなにおいがして、それだけで女の子の部屋だと感じられた。
ウルハの部屋よりもぬいぐるみとか多くて、ピンクを基調としている。

壁のハンガーにはさっきまで小田島さんが着ていた制服がかけられていて、なんかエロかった・・・

「ジュース持ってくるね。そこ座ってて」

小田島さんがジュースを取りに行ってしまった。
ベッドの横に小さな丸テーブルがあり、そこを指されたので、ちょこんと床に座る。

クラスメイトの女の子の部屋に一人・・・
なんか、もう、どうしようもない、『イケないことしてる感』が半端なかった。



小田島さんは、コーラを持ってきてくれて、小さな丸テーブルの向かいに座った。
それからしばらく他愛もない話をした。

「ユカね、葛西くんとゆっくり話してみたかったんだ」

「え?そうなの?僕、忙しかったからねぇ」

「それもだし、会長と付き合ってたから・・・」

「ああ・・・」

嫌なことを急に思い出した。
テンションが下がるのが自分でもわかった。

「あ、ごめ・・・そうじゃなくて、葛西くん魅力的だからね?」

小田島さんが丸テーブルを避けて、膝をついたままこっちに近づいてくる。

(ガンッ・バシャ―)

テーブルにぶつかりコーラがこぼれた。

「あ・・・」

コーラも気になるけど、小田島さんの顔がめちゃくちゃ近い。
目があって2人とも固まってしまった。

次の瞬間、小田島さんが静かに目を閉じた。

え?
ええ?
これってどういう意味!?

ま、まさか、キス!?
キスじゃないよね!?

「あ、あの・・・コーラ!こぼれて大変だから!」

どうしていいか分からずに、どうでもいいコーラのことを言ってしまった。
いや、こぼれているから、どうでもいいってことはないのだけれど。

「あ!コーラ!」

我に返ったように慌ててティッシュで拭く小田島さん。
僕も一緒に拭いた。
さっきのは・・・


その後は、雰囲気は戻らず、適当に切り上げて帰ることにした。
小田島さんは帰りがけ、玄関まで見送りに来てくれた。
その時はお母さんも一緒だった。

「またいつでも来てね、葛西くん」

「もう、やめてよママ。そういうんじゃないから」

玄関に2人並んで見送ってくれた。
なんか微笑ましい親子の会話って感じ。
小田島さんが僕の視線に気づいたみたいだ。

「あの・・・また学校で・・・」

顔が真っ赤だ。
さっきのことを思い出しているのかもしれない。

「また・・学校で・・・」

僕は小田島さんの家を後にした。
玄関のドアを閉めた後、家の中で親子がキャイキャイ言っているのが聞こえた。

僕は、なんとなく心が落ち着かなかった。





■中野ウルハ視点

「お姉ちゃんなんか大っっ嫌い!人の気も知らないで!!」

今日、食事の時に家族にユージと別れたことを告げると、妹の詩織がブチ切れた。
あんなに激怒する妹を見たのは初めてだったので、少し驚いてしまった。

ただ、その後、食べかけの食事もそのままに、部屋から一歩も出てこないのでなにも事情が分からない。
詩織の部屋の前まで行ったが、中で声を殺して泣いているようだった。

私(姉)の恋愛事情なんて、そこまで妹に関係するとは思えないのだけれど・・・





リビングに戻ったが、パパとママもなんだかよそよそしい。

パパは何も言わなかったけど、食後にママにキッチンに呼ばれた。

「ユージくんと何かあったの?」

「別に・・・嫌いって訳じゃないけど、好きって訳でもなくなって・・・ちょうどその時に光山先輩に告白されたから・・・」

「ウルハは、光山先輩のことが好きなの?」

「まだ・・・よく分からない。でも!バスケットでインターハイに行ったし!雑誌とかにも載ってる有名な選手なのよ!大学がって推薦で決まってるし!」

「それは素晴らしいことだけど、ウルハは有名人と付き合いたかったの?」

「それは・・・」

ママはこちらを向いて真剣に聞いてくれている。

「ユージくんは騒がしい方じゃないけど、落ち着いていて、あなたのことを本当によくしてくれていたじゃない?」

「そうだけど、最近全然会ってないし、かっこよくないし・・・」

「まあ、あなたの人生だからパパやママが口を出すことじゃないけど、パパはユージくんのことをかなり気に入ってて、20歳になったら一緒にお酒を飲むんだって、もうそのお酒を買ってたのよ」

「そんなの知らない・・・」

「しーちゃんはね、多分、ユージくんのことが好きなのよ。お姉ちゃんと付き合ってたから我慢して諦めてたのに・・・それで・・・」

「そんなの知らない・・・」



「もう一回考えることはできないの?」

「もう、ユージも彼女がいるみたい。昼間腕を組んで学校を帰るのを見た・・・」

「まあ、そうなの?そんな急に変わるとは思えないけど・・・」

「ママが知らないだけ!私はこの目で見たもの!」

「そうなの・・・じゃあ、この話はもうおしまい。パパには私から言っておくから気にしないで」

「うん・・・」

「ウルハも気を落とさないでね」

別に気を落とすようなことは何もない。




どうして、みんなユージ、ユージと言うのだろうか。
あいつは、昔からあんな感じじゃない。
ユージがあたしに何かをするのって、当たり前のことじゃない。

まったく・・・
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