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第113話
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「えっ……?」
思わず声が出てしまう。
少しの間、頭の中が真っ白になった。
そんなことが、あり得るのか……?
もう一度、冷静に考えてみようとする。
しかし、改めて考えても、答えは1つしかなかった。
答えを出そうとして、まず、ゲドルド効果についての話が出た時のことを考えて。
それから、グレゴリオ効果の話が出た時のことを考えて。
その時点で、ベルさんが誰を庇っていたのかは明白だった。
おそらく、ミスティはその答えを最初に排除してしまったのだろう。
だから、推理が迷走したのだ。
しかし……そんなはずがない。
それは、ベルさんやノエルやルティアさんよりも、さらにあり得ないことだ。
一体、どうしてそんな、おかしな結論が出てきてしまうのか……?
「……ティルト?」
僕の様子がおかしくなったことを心配したらしく、ミスティが不安そうに見上げてくる。
しかし、今の僕には、彼女に構っている余裕がなかった。
何度も、その答えを否定しようと試みる。
だが、考えれば考えるほど、思い当たることが増えていった。
口では僕のことを好きだと言いながら、それらしい素振りは、ベルさんに対抗する時しかしなかったこと。
僕を取り合う関係であるはずのレレとも、平然と仲良くしていたこと。
そもそも、僕達と一緒に旅をしている理由があやふやであること。
そして、どんなに危険だと訴えても、決して僕から離れようとしなかったこと。
全て、何か裏があると感じられる要素である。
それに、彼女は確かに殺気を放っていた。
その対象はベルさんだけだと、僕が勝手に思い込んでいただけだ。
明らかに僕自身が睨まれている時ですら、単なる嫉妬によるものだと解釈していたのである。
だが、僕のことを、殺したいほど憎んだ理由は?
僕が、ベルさんや他の女性と、仲良くしたから……?
そんな理由で、人を殺したいと思うだろうか?
いや、それ以前に。
どうしてベルさんは、彼女を庇ったんだ?
それこそが、一番あり得ないことである。
僕のゲドルド効果が切れてしまうから?
だが、そうだったとしても、事情は説明してくれるはずだ。
僕とベルさんは、何度も2人だけで内緒話をしたのである。
全てを話してから、「今すぐあの女を追い出すわけにはいかないが、警戒するように」とでも言えば良い。
もう一度だけ考えてみる。
客観的に見れば、一番疑わしいのはレレではないだろうか?
彼女は、母親であるルーシュさんと密かに会い、ベルさんについて報告していた。
そんな裏のある彼女ならば、僕のことを殺したいと思っていたとしても、おかしくないように思える。
だが、僕はルーシュさんと会ってから、レレの言動には注意を払っていた。
それは、レレが、何らかの理由で僕達を殺そうとするかもしれないと疑ったからだ。
しかし、彼女は僕に殺意を向けるようなことはなかったはずである。
レレは、感情が顔に出やすい。
普段は、それを、必死に隠そうとしているのである。
ベルさんがレレを不審に思わないのは、彼女のことを信用して、全く疑っていないからなのだろう。
ある程度注意を払えば、レレの様子がおかしいことには気付けるはずだ。
念のため、ミスティを疑ってみようとしたが、すぐにやめた。
彼女は、最も僕と密着している女性だ。
いくら何でも、本気で殺したいと思っているのに、気付けないということはないだろう。
付け加えるなら、今こうして、全てを明らかにしようとしていることまでもが演技だとは思えない。
こうして考えてみると、やはり、最も疑わしいのは……。
しかし、結局ベルさんが彼女を庇う理由は分からない。
それが説明できないのであれば、他の女性の内の誰かが、信じられないほど演技が上手いということだって考えるべきだろう。
……いや、理由は簡単に説明できる!
そのことに思い至り、説明が付いてしまうことに気付いた瞬間、全身が激しく震えた。
ダッデウドにとっては、約束は重大なものらしい。
実際に、ベルさんは、オットームであるロゼットとの約束すら守った。
つまり、ダッデウドは、誰とどんな約束をしたとしても、必ず守らねばならないのである。
そのことには、スピーシアも言及していたので、間違いないだろう。
加えて、ベルさんは慎重さに欠ける性格だ。
危険人物の本性を見誤った、という実績もある。
迂闊な約束をして、大嫌いな相手を庇い続ける必要が生じた可能性は、充分に考えられることではないか!
震えが止まらない。
導き出した結論は、まるで、僕の全てを否定するもののように感じられた。
「この時を待っていました」
突然、聞き覚えのある女性の声がした。
皆が、慌てて声がした方を向く。
「……姉さん!?」
「……お母様!」
ベルさんとレレが叫んだ。
声の主は、ルーシュさんだった。
彼女は、全ての感情が消えたような顔をして、暗い瞳で僕を見つめた。
「スピーシアから、貴方達が別荘に着いたという知らせを受けました。本当に貴方達が彼女を頼るのか、確信はありませんでしたが……近くの町の宿に泊まっていて良かったです」
そう言って、ルーシュさんは、僕に向かって手を伸ばした。
「貴方のことは、敵に回したくありませんでしたが……私達の未来のために、死んでください」
危険を感じて、僕は身を守ろうとした。
しかし……魔法が発動しない。
集中できない状況では、魔法を発動させることは出来ない。
改めて、ベルさんがそう言っていたことを思い出す。
ルーシュさんは、全てを知った直後の僕は無防備になることが分かっていたから、このタイミングで現れたのだろう。
普段は容易に発動できるのに、今は、どうすれば魔法が使えるのかを忘れてしまったような気分だ。
それほど、僕は動揺しているのである。
ルーシュさんは、僕に向けて攻撃魔法を放った。
レレもルティアさんもノエルも、突然現れたルーシュさんに動揺した様子で、その攻撃を防ぐためには動かなかった。
ただ1人、ベルさんだけが、それを防ぐために障壁を展開した。
しかし、ルーシュさんの魔法は、ベルさんの障壁よりも手前の地面を叩いた。
外れた……?
そう思った時。
「あっ……!」
ミスティが、何かに気付いたような声を出す。
その意味を察知するよりも、僅かに早く。
僕の背中に、何かがぶつかってきた。
思わず声が出てしまう。
少しの間、頭の中が真っ白になった。
そんなことが、あり得るのか……?
もう一度、冷静に考えてみようとする。
しかし、改めて考えても、答えは1つしかなかった。
答えを出そうとして、まず、ゲドルド効果についての話が出た時のことを考えて。
それから、グレゴリオ効果の話が出た時のことを考えて。
その時点で、ベルさんが誰を庇っていたのかは明白だった。
おそらく、ミスティはその答えを最初に排除してしまったのだろう。
だから、推理が迷走したのだ。
しかし……そんなはずがない。
それは、ベルさんやノエルやルティアさんよりも、さらにあり得ないことだ。
一体、どうしてそんな、おかしな結論が出てきてしまうのか……?
「……ティルト?」
僕の様子がおかしくなったことを心配したらしく、ミスティが不安そうに見上げてくる。
しかし、今の僕には、彼女に構っている余裕がなかった。
何度も、その答えを否定しようと試みる。
だが、考えれば考えるほど、思い当たることが増えていった。
口では僕のことを好きだと言いながら、それらしい素振りは、ベルさんに対抗する時しかしなかったこと。
僕を取り合う関係であるはずのレレとも、平然と仲良くしていたこと。
そもそも、僕達と一緒に旅をしている理由があやふやであること。
そして、どんなに危険だと訴えても、決して僕から離れようとしなかったこと。
全て、何か裏があると感じられる要素である。
それに、彼女は確かに殺気を放っていた。
その対象はベルさんだけだと、僕が勝手に思い込んでいただけだ。
明らかに僕自身が睨まれている時ですら、単なる嫉妬によるものだと解釈していたのである。
だが、僕のことを、殺したいほど憎んだ理由は?
僕が、ベルさんや他の女性と、仲良くしたから……?
そんな理由で、人を殺したいと思うだろうか?
いや、それ以前に。
どうしてベルさんは、彼女を庇ったんだ?
それこそが、一番あり得ないことである。
僕のゲドルド効果が切れてしまうから?
だが、そうだったとしても、事情は説明してくれるはずだ。
僕とベルさんは、何度も2人だけで内緒話をしたのである。
全てを話してから、「今すぐあの女を追い出すわけにはいかないが、警戒するように」とでも言えば良い。
もう一度だけ考えてみる。
客観的に見れば、一番疑わしいのはレレではないだろうか?
彼女は、母親であるルーシュさんと密かに会い、ベルさんについて報告していた。
そんな裏のある彼女ならば、僕のことを殺したいと思っていたとしても、おかしくないように思える。
だが、僕はルーシュさんと会ってから、レレの言動には注意を払っていた。
それは、レレが、何らかの理由で僕達を殺そうとするかもしれないと疑ったからだ。
しかし、彼女は僕に殺意を向けるようなことはなかったはずである。
レレは、感情が顔に出やすい。
普段は、それを、必死に隠そうとしているのである。
ベルさんがレレを不審に思わないのは、彼女のことを信用して、全く疑っていないからなのだろう。
ある程度注意を払えば、レレの様子がおかしいことには気付けるはずだ。
念のため、ミスティを疑ってみようとしたが、すぐにやめた。
彼女は、最も僕と密着している女性だ。
いくら何でも、本気で殺したいと思っているのに、気付けないということはないだろう。
付け加えるなら、今こうして、全てを明らかにしようとしていることまでもが演技だとは思えない。
こうして考えてみると、やはり、最も疑わしいのは……。
しかし、結局ベルさんが彼女を庇う理由は分からない。
それが説明できないのであれば、他の女性の内の誰かが、信じられないほど演技が上手いということだって考えるべきだろう。
……いや、理由は簡単に説明できる!
そのことに思い至り、説明が付いてしまうことに気付いた瞬間、全身が激しく震えた。
ダッデウドにとっては、約束は重大なものらしい。
実際に、ベルさんは、オットームであるロゼットとの約束すら守った。
つまり、ダッデウドは、誰とどんな約束をしたとしても、必ず守らねばならないのである。
そのことには、スピーシアも言及していたので、間違いないだろう。
加えて、ベルさんは慎重さに欠ける性格だ。
危険人物の本性を見誤った、という実績もある。
迂闊な約束をして、大嫌いな相手を庇い続ける必要が生じた可能性は、充分に考えられることではないか!
震えが止まらない。
導き出した結論は、まるで、僕の全てを否定するもののように感じられた。
「この時を待っていました」
突然、聞き覚えのある女性の声がした。
皆が、慌てて声がした方を向く。
「……姉さん!?」
「……お母様!」
ベルさんとレレが叫んだ。
声の主は、ルーシュさんだった。
彼女は、全ての感情が消えたような顔をして、暗い瞳で僕を見つめた。
「スピーシアから、貴方達が別荘に着いたという知らせを受けました。本当に貴方達が彼女を頼るのか、確信はありませんでしたが……近くの町の宿に泊まっていて良かったです」
そう言って、ルーシュさんは、僕に向かって手を伸ばした。
「貴方のことは、敵に回したくありませんでしたが……私達の未来のために、死んでください」
危険を感じて、僕は身を守ろうとした。
しかし……魔法が発動しない。
集中できない状況では、魔法を発動させることは出来ない。
改めて、ベルさんがそう言っていたことを思い出す。
ルーシュさんは、全てを知った直後の僕は無防備になることが分かっていたから、このタイミングで現れたのだろう。
普段は容易に発動できるのに、今は、どうすれば魔法が使えるのかを忘れてしまったような気分だ。
それほど、僕は動揺しているのである。
ルーシュさんは、僕に向けて攻撃魔法を放った。
レレもルティアさんもノエルも、突然現れたルーシュさんに動揺した様子で、その攻撃を防ぐためには動かなかった。
ただ1人、ベルさんだけが、それを防ぐために障壁を展開した。
しかし、ルーシュさんの魔法は、ベルさんの障壁よりも手前の地面を叩いた。
外れた……?
そう思った時。
「あっ……!」
ミスティが、何かに気付いたような声を出す。
その意味を察知するよりも、僅かに早く。
僕の背中に、何かがぶつかってきた。
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