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第1章 群青の騎士団と謎の佳人
104 冬の皇都へ5
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ルークは少し休憩をしてからエアリアルの様子を見に竜舎に向かった。飛竜は彼の姿を見ると、機嫌よく喉を鳴らす。頭をなでてやりながら、世話をしてくれている係員から話を聞くと、数箇所に凍傷が出来てしまっていたらしい。治療を施し、食欲も旺盛なので心配は無さそうだった。
「ルーク、ここにいたのか?」
声をかけられて振り向くと、ユリウスが立っていた。
「ユリウス、昨日はありがとう」
「それはこっちの台詞だよ。今夜食事を一緒にしないか? ヒ―ス隊長も是非同席したいと言っておられる」
「分かった」
ユリウスも自分の飛竜の調子を見に来たようで、2人はしばらく飛竜の世話をしながら近況を話し合った。紫尾の女王を竜騎士7人で退治した話は彼も驚いた様子だった。
「嘘だろう?」
「本当だって。ものすごく大変だった。俺は尾で払われて脇腹痛めたし」
「第3騎士団は精鋭ぞろいだとは聞いていたが、凄いな」
「副団長の指示が的確だからね」
自分の所属する騎士団が褒められるのはやはり嬉しく、ルークは鼻が高かった。飛竜の世話が終わると、ユリウスに誘われて第1騎士団の休憩室に行く。数人の竜騎士が談笑していたが、2人の姿を見て近寄ってくる。
「ルーク卿だろう?昨日は助かった、傷はどうだ?」
ユリウスの話では彼らも同じ隊の仲間で、昨夜の討伐に参加していたらしい。
「はい、大丈夫です」
ルークが答えると、彼らは笑って彼にも席を勧め、いつの間にかユリウスがお茶を用意して差し出してくれる。
「彼女が淹れてくれたものには及ばないだろうが……」
「止めてくれよ」
ルークが照れる様子に一同は大笑いする。ひとしきり笑った後に互いの近況を話し合っていると、自然に情報交換の場になっていく。妖魔たちの弱点や発生状況、ルークにはいい勉強になる。
「もう少し情報が入ればいいのだが……」
年長の竜騎士がつぶやくと、皆頷いている。
「領主達がもう少し融通を利かせてくれると助かりますね、確かに」
「せめて自領から境界付近に逃げた妖魔は討伐してくれると助かるのだが……」
逆にこちらが同様のことをした場合、騎士団が責められるのだ。たまったものではない。そう言ってたまには愚痴をこぼしながら会話が弾む。
「おう、ここにいたか」
しばらく話をしていると、ヒ―スが顔を出す。ルークの顔を見るとにこやかに話しかけてくる。
「もうじき夕食だが、一緒でかまわないな?」
「はい」
ルークには何の異存も無かった。誘われるままに騎士団の食堂へ向かうと、ユリウスはともかく他の竜騎士たちもついてきた。ちょうど夕食時だったこともあり、そこには他の隊の竜騎士もいて、ルークの側は人だかりが出来てしまう。
「そんなに珍しいかな?」
「いろんな噂が流れているからね」
「え?」
なんだか聞くのも怖い。そうしている内に目の前にはボリュームを重視した食事が並べられる。定番の薄焼きパンにチーズ、ゆでた馬鈴薯に具がたっぷり入ったシチュー。分厚く切った鱒を焼いたものにあぶり肉は2種類もある。一応祈りをささげてルークは食事を始める。
「明日はいつ頃出る予定だ?」
ヒースは肉をほおばりながら尋ねてくる。
「夜明け前を予定しています。寝坊しなければですが……」
あの寝台はあまりにも心地よすぎる。唯一の心配はそれであった。
「まあ、この時期だからな。あまり無理はするな」
「はい。肝に命じます」
ルークは神妙に答える。
「おお、にぎやかだな」
そこへ現れたのは何とハルベルトだった。驚きのあまり一同起立して直立不動となる。
「そう驚くこともあるまい。私も2年前までは竜騎士だったからな。まあ、座れ。私にももらえるか?」
ハルベルトはそう言ってルークの側に座り込む。竜騎士の1人が慌ててハルベルトにも食事を用意した。確かにそうであるが、彼が突然現れれば驚くのも当然だろう。
「それはそうと、ヒースとユリウスに聞いてみたか?」
「何ですか?」
2人は首をかしげている。
「これから聞いてみようかと……」
「彼は昨日、夜明け前に向こうを出てあの時間にこちらに着いたらしいのだが、そなた達2人にもそれは可能だろうと言っている。出来るか?」
「え?」
食堂内は静まり返る。
「出来るだろう?ユリウス。風しだいで時間は多少前後するだろうけど」
当然のように言われてユリウスは答えに詰まる。
「無理だな」
即答したのはヒースである。
「春や秋ならともかく、この時期には無理だ」
「私も無理です」
ユリウスもようやく答える。
「え?」
逆にルークが驚く。
「私たちだけでは無いだろう、タランテラの竜騎士でそれが出来るのは君くらいではないか?まさに雷光の騎士だ」
ヒースがそう言うと、食堂に集まった竜騎士たちは皆、頷いている。この瞬間にまた、ルークの伝説が一つ増えた。
「どうして?」
1人腑に落ちないのがルークである。まだ彼は首をかしげている。
「まあ、何にせよ得意な分野があるということは良い事ではないか?またそなたの場合はそれでおごり高ぶる事も無い。すばらしい事だ」
「自分はまだまだでありますから」
ハルベルトが褒め称えるが、ルークは恐縮して頭を下げる。
「こういった所がルークだな」
ユリウスが言った締めの一言に皆納得してしまう。その後は特別にワインを皆に振舞われた。ただ、討伐の要請がいつあるか分からないので、酔いつぶれるわけにはいかず、皆一杯ずつである。それを味わいながらまた皆で話が盛り上がる。ルークは惜しまれながらも朝が早い事を理由に、早目に用意されている部屋へと引き上げた。
寝る前に湯浴みを済ませ、また侍官に来てもらって薬を取り替えるのを手伝ってもらう。そして明日に備えてふかふかの寝台に潜り込んだのだった。
翌朝、ルークは早目に起きだし、洗顔と着替えを済ませた。そこへ滞在中に世話をしてくれた侍官が朝食を運んできてくれる。あたたかいスープにパンと腸詰、林檎も添えられていた。いくら寝起きで食欲が無くても、今日は一日飛竜に乗るので食べておかないと体が持たない。ルークはしっかり食べておく事にした。朝食が終わる頃、医師が傷の診察に来た。すっかり忘れていたくらいに傷は痛まなくなっている。
「寒さに当たると悪化する事もありますからな。あちらに戻られたらもう一度医師に診て頂いた方がよろしいですな」
彼はそういうと薬を替えて包帯を巻き直してくれる。更には道中に替える薬と痛み止めを余分に渡してくれる。
「道中お気を付けなされ」
「ありがとうございます」
ルークが頭を下げて礼を言うと、医師も軽く会釈をして部屋を出て行った。
全て準備を整え、荷物と外套、防寒具の類を手にルークは部屋を出た。ハルベルトに昨夜、出発前に竜騎士の控え室で待つよう言われていた。行ってみると、ヒースとユリウスを始め、数人の竜騎士が待っていた。
「朝早いのにわざわざ悪いな」
「見送りぐらいはさせてくれ」
ユリウスが笑って応じる。そこへハルベルトが現れる。
「おはようルーク、体調はどうだ?」
「大丈夫です」
「そうか。無理をせずに気をつけて帰ってくれ。それからこれが持ち帰ってもらうものだ」
ハルベルトは幾つかの手紙を差し出す。国主アロンとハルベルト、ソフィアにアルメリアまでがエドワルドとグロリアにそれぞれ宛てて手紙を書いているので、行きよりも預かる手紙の数が多くなった。それでもルークは腰につけた小物入れにそれらを丁寧にしまう。
「では、これで失礼します。お世話になりました」
一同に頭を下げると、ルークは外套を着込み、防寒具を身につけた。
「それは、編んでもらったのか?」
ルークの防寒具を見てユリウスが冷やかす。群青の地色にルークの髪の色と似た黄色い帯の中にエアリアルが飛んでいるのだ。明らかに彼専用のデザインである。
「まあな。もったいなくて討伐に使えない」
のろけた答えに皆が笑う。着場に出ると、既にエアリアルが準備を整えて待っていた。
「帰ろう、エアリアル」
ルークは彼の頭をなでて挨拶すると、身軽に飛竜の背に乗った。
「気をつけて帰れよ」
「無理するなよ」
皆が口々に声をかけてくれる。ルークはそれに手を上げて答えると、暁闇の中ロベリアへ向けて飛び立った。
「ルーク、ここにいたのか?」
声をかけられて振り向くと、ユリウスが立っていた。
「ユリウス、昨日はありがとう」
「それはこっちの台詞だよ。今夜食事を一緒にしないか? ヒ―ス隊長も是非同席したいと言っておられる」
「分かった」
ユリウスも自分の飛竜の調子を見に来たようで、2人はしばらく飛竜の世話をしながら近況を話し合った。紫尾の女王を竜騎士7人で退治した話は彼も驚いた様子だった。
「嘘だろう?」
「本当だって。ものすごく大変だった。俺は尾で払われて脇腹痛めたし」
「第3騎士団は精鋭ぞろいだとは聞いていたが、凄いな」
「副団長の指示が的確だからね」
自分の所属する騎士団が褒められるのはやはり嬉しく、ルークは鼻が高かった。飛竜の世話が終わると、ユリウスに誘われて第1騎士団の休憩室に行く。数人の竜騎士が談笑していたが、2人の姿を見て近寄ってくる。
「ルーク卿だろう?昨日は助かった、傷はどうだ?」
ユリウスの話では彼らも同じ隊の仲間で、昨夜の討伐に参加していたらしい。
「はい、大丈夫です」
ルークが答えると、彼らは笑って彼にも席を勧め、いつの間にかユリウスがお茶を用意して差し出してくれる。
「彼女が淹れてくれたものには及ばないだろうが……」
「止めてくれよ」
ルークが照れる様子に一同は大笑いする。ひとしきり笑った後に互いの近況を話し合っていると、自然に情報交換の場になっていく。妖魔たちの弱点や発生状況、ルークにはいい勉強になる。
「もう少し情報が入ればいいのだが……」
年長の竜騎士がつぶやくと、皆頷いている。
「領主達がもう少し融通を利かせてくれると助かりますね、確かに」
「せめて自領から境界付近に逃げた妖魔は討伐してくれると助かるのだが……」
逆にこちらが同様のことをした場合、騎士団が責められるのだ。たまったものではない。そう言ってたまには愚痴をこぼしながら会話が弾む。
「おう、ここにいたか」
しばらく話をしていると、ヒ―スが顔を出す。ルークの顔を見るとにこやかに話しかけてくる。
「もうじき夕食だが、一緒でかまわないな?」
「はい」
ルークには何の異存も無かった。誘われるままに騎士団の食堂へ向かうと、ユリウスはともかく他の竜騎士たちもついてきた。ちょうど夕食時だったこともあり、そこには他の隊の竜騎士もいて、ルークの側は人だかりが出来てしまう。
「そんなに珍しいかな?」
「いろんな噂が流れているからね」
「え?」
なんだか聞くのも怖い。そうしている内に目の前にはボリュームを重視した食事が並べられる。定番の薄焼きパンにチーズ、ゆでた馬鈴薯に具がたっぷり入ったシチュー。分厚く切った鱒を焼いたものにあぶり肉は2種類もある。一応祈りをささげてルークは食事を始める。
「明日はいつ頃出る予定だ?」
ヒースは肉をほおばりながら尋ねてくる。
「夜明け前を予定しています。寝坊しなければですが……」
あの寝台はあまりにも心地よすぎる。唯一の心配はそれであった。
「まあ、この時期だからな。あまり無理はするな」
「はい。肝に命じます」
ルークは神妙に答える。
「おお、にぎやかだな」
そこへ現れたのは何とハルベルトだった。驚きのあまり一同起立して直立不動となる。
「そう驚くこともあるまい。私も2年前までは竜騎士だったからな。まあ、座れ。私にももらえるか?」
ハルベルトはそう言ってルークの側に座り込む。竜騎士の1人が慌ててハルベルトにも食事を用意した。確かにそうであるが、彼が突然現れれば驚くのも当然だろう。
「それはそうと、ヒースとユリウスに聞いてみたか?」
「何ですか?」
2人は首をかしげている。
「これから聞いてみようかと……」
「彼は昨日、夜明け前に向こうを出てあの時間にこちらに着いたらしいのだが、そなた達2人にもそれは可能だろうと言っている。出来るか?」
「え?」
食堂内は静まり返る。
「出来るだろう?ユリウス。風しだいで時間は多少前後するだろうけど」
当然のように言われてユリウスは答えに詰まる。
「無理だな」
即答したのはヒースである。
「春や秋ならともかく、この時期には無理だ」
「私も無理です」
ユリウスもようやく答える。
「え?」
逆にルークが驚く。
「私たちだけでは無いだろう、タランテラの竜騎士でそれが出来るのは君くらいではないか?まさに雷光の騎士だ」
ヒースがそう言うと、食堂に集まった竜騎士たちは皆、頷いている。この瞬間にまた、ルークの伝説が一つ増えた。
「どうして?」
1人腑に落ちないのがルークである。まだ彼は首をかしげている。
「まあ、何にせよ得意な分野があるということは良い事ではないか?またそなたの場合はそれでおごり高ぶる事も無い。すばらしい事だ」
「自分はまだまだでありますから」
ハルベルトが褒め称えるが、ルークは恐縮して頭を下げる。
「こういった所がルークだな」
ユリウスが言った締めの一言に皆納得してしまう。その後は特別にワインを皆に振舞われた。ただ、討伐の要請がいつあるか分からないので、酔いつぶれるわけにはいかず、皆一杯ずつである。それを味わいながらまた皆で話が盛り上がる。ルークは惜しまれながらも朝が早い事を理由に、早目に用意されている部屋へと引き上げた。
寝る前に湯浴みを済ませ、また侍官に来てもらって薬を取り替えるのを手伝ってもらう。そして明日に備えてふかふかの寝台に潜り込んだのだった。
翌朝、ルークは早目に起きだし、洗顔と着替えを済ませた。そこへ滞在中に世話をしてくれた侍官が朝食を運んできてくれる。あたたかいスープにパンと腸詰、林檎も添えられていた。いくら寝起きで食欲が無くても、今日は一日飛竜に乗るので食べておかないと体が持たない。ルークはしっかり食べておく事にした。朝食が終わる頃、医師が傷の診察に来た。すっかり忘れていたくらいに傷は痛まなくなっている。
「寒さに当たると悪化する事もありますからな。あちらに戻られたらもう一度医師に診て頂いた方がよろしいですな」
彼はそういうと薬を替えて包帯を巻き直してくれる。更には道中に替える薬と痛み止めを余分に渡してくれる。
「道中お気を付けなされ」
「ありがとうございます」
ルークが頭を下げて礼を言うと、医師も軽く会釈をして部屋を出て行った。
全て準備を整え、荷物と外套、防寒具の類を手にルークは部屋を出た。ハルベルトに昨夜、出発前に竜騎士の控え室で待つよう言われていた。行ってみると、ヒースとユリウスを始め、数人の竜騎士が待っていた。
「朝早いのにわざわざ悪いな」
「見送りぐらいはさせてくれ」
ユリウスが笑って応じる。そこへハルベルトが現れる。
「おはようルーク、体調はどうだ?」
「大丈夫です」
「そうか。無理をせずに気をつけて帰ってくれ。それからこれが持ち帰ってもらうものだ」
ハルベルトは幾つかの手紙を差し出す。国主アロンとハルベルト、ソフィアにアルメリアまでがエドワルドとグロリアにそれぞれ宛てて手紙を書いているので、行きよりも預かる手紙の数が多くなった。それでもルークは腰につけた小物入れにそれらを丁寧にしまう。
「では、これで失礼します。お世話になりました」
一同に頭を下げると、ルークは外套を着込み、防寒具を身につけた。
「それは、編んでもらったのか?」
ルークの防寒具を見てユリウスが冷やかす。群青の地色にルークの髪の色と似た黄色い帯の中にエアリアルが飛んでいるのだ。明らかに彼専用のデザインである。
「まあな。もったいなくて討伐に使えない」
のろけた答えに皆が笑う。着場に出ると、既にエアリアルが準備を整えて待っていた。
「帰ろう、エアリアル」
ルークは彼の頭をなでて挨拶すると、身軽に飛竜の背に乗った。
「気をつけて帰れよ」
「無理するなよ」
皆が口々に声をかけてくれる。ルークはそれに手を上げて答えると、暁闇の中ロベリアへ向けて飛び立った。
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