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小暑 3
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久しぶりに更新です。
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琴音は途方に暮れていた。妹の梨奈に会いに行った帰り、ゲリラ豪雨による倒木の影響で電車が止まってしまい、お屋敷に帰れなくなってしまった。こればかりはどうしようもできないので、その旨を連絡したところ、無理をしなくていいと言ってもらえた。
「朝までネットカフェで時間をつぶしてから帰る手段を探します」
「それはいけません。ホテルを手配しますからそちらに泊りなさい」
一夜を明かすだけだからネットカフェでも十分なのだが、上司の塚原から厳しい口調で咎められた。何かあってからでは遅いと切々と訴えられ、根負けした琴音は塚原が抑えたホテルに1泊することを了承した。
「え? ここ?」
塚原から送られて来たホテルの情報を見て絶句する。一介の使用人に用意するのだからビジネスホテルだろうと思っていたのだが、大人の非日常をコンセプトにしたエトワール系列のハイグレードホテルだったのだ。
何かの間違いじゃないかと思いながら恐る恐るフロントに行くと、懇切丁寧に対応してくれて間違いではなかった事を理解した。ホテルのコンシェルジュに案内してもらった部屋は思っていた以上に広かった。
ダブルサイズのベッドが奥に鎮座し、手前には畳の小上がりがあって靴を脱いで寛げる作りになっていた。バスルームもおしゃれで広く、コンシェルジュが説明がてら浴槽に湯を張ってくれた。そして高級ブランドのアメニティだけでなくルームウェアまで用意してあり、まさに至れり尽くせりのサービスだった。
途方に暮れている琴音にコンシェルジュは部屋の設備に始まりクリーニングの依頼の仕方まで丁寧に説明してくれた。ルームサービスでの夕食と朝食も含まれていて、聞かれるままに希望する時間を伝えた。
「それでは、どうぞごゆっくりおくつろぎください」
一通りの説明を終えたコンシェルジュが頭を下げて部屋を退出し、琴音は広い部屋に取り残された。
部屋で立ち尽くしていた琴音は握りしめていたスマホにメッセージが入って我に返った。慌てて確認してみると、それは和敬からだった。
『何か困った事はありませんか?』
琴音は少し迷った後に手配してもらったホテルが高級すぎてどうしていいか分からないと素直に自分の心情を返した。
『沙耶様が過ごしやすい様に良く働いて下さっていると、塚原さんも綾乃さんも貴女に大変感謝しておられました。ですから、そのご褒美だと思って普段体験できないことを楽しめばいいのではないでしょうか?』
評価ししていただいているのは嬉しい。でも一介の使用人に過ぎない自分がこんな贅沢をしていいのだろうか? そんな疑問を返したところで今度は着信があった。
「もしもし?」
「青柳です。今、大丈夫ですか?」
「は、はい。でも、青柳さんは忙しいのでは?」
「仕事の話は終わりましたので、今はプライベートの時間です。お困りのご様子でしたから、失礼とは思いましたが通話に切り替えさせていただきました」
知っている人の声を聴けるのがこんなにホッとすることなんだと琴音は気付いた。そしてこんな心遣いが出来る人だからこそ、あの義総を陰で支えることが出来るのだとも納得した。
「ありがとう……ございます」
こんな風に誰かに気遣ってもらった事は今までなかった。知らない間に涙があふれていた。
「乃木さん? 大丈夫ですか? 気分が悪いのですか?」
和敬の慌てる声が聞こえる。この人も慌てることがあるんだと新しい発見をした気がした。涙はまだ止まらないが、つかえながらでもどうにか大丈夫だと伝えた。
「私なんかがこの様なところに泊まっていいのでしょうか?」
どうにか落ち着いたところで琴音は抱えていた不安を和敬に打ち明けた。
「ご自身を卑下されることは無いと思います。ですが、こう考えたらどうでしょうか? そこはエトワール系列のホテルです。今後の為に乃木さんに部屋とサービスの評価をしていただくというのは如何でしょう?」
意外な申し出に琴音は戸惑う。
「私がしてもいいのでしょうか?」
「第3者の意見が重要です。乃木さんの率直な感想を教えてください」
「それでお役に立つのでしたら、喜んで」
和敬のこの申し出のおかげで琴音の心がスッと軽くなる。
「それから、明日は私が迎えに行くことになりましたので、部屋でお待ち下さい。こちらに着きましたらご連絡いたします」
「え? それは申し訳ないのですが……」
「復旧に時間がかかりそうです。そちらからのバスの路線は遠回りになりますし、その方が早いかと。それに、私の有休消化も兼ねておりますので、ご心配はいりません。ああ、すみません、仕事の連絡が来ましたこれで失礼します」
「は、はい」
大事な有休を自分の為に使っていいのかと考えてしまったが、何かを言い返す前に和敬の方に仕事の話が入って通話が途切れてしまった。お礼も結局ちゃんと言えなかった。
後悔しながらも連絡をもらう前に比べると随分と気持ちは楽になっていた。
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設定では今日が義総の誕生日。
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琴音は途方に暮れていた。妹の梨奈に会いに行った帰り、ゲリラ豪雨による倒木の影響で電車が止まってしまい、お屋敷に帰れなくなってしまった。こればかりはどうしようもできないので、その旨を連絡したところ、無理をしなくていいと言ってもらえた。
「朝までネットカフェで時間をつぶしてから帰る手段を探します」
「それはいけません。ホテルを手配しますからそちらに泊りなさい」
一夜を明かすだけだからネットカフェでも十分なのだが、上司の塚原から厳しい口調で咎められた。何かあってからでは遅いと切々と訴えられ、根負けした琴音は塚原が抑えたホテルに1泊することを了承した。
「え? ここ?」
塚原から送られて来たホテルの情報を見て絶句する。一介の使用人に用意するのだからビジネスホテルだろうと思っていたのだが、大人の非日常をコンセプトにしたエトワール系列のハイグレードホテルだったのだ。
何かの間違いじゃないかと思いながら恐る恐るフロントに行くと、懇切丁寧に対応してくれて間違いではなかった事を理解した。ホテルのコンシェルジュに案内してもらった部屋は思っていた以上に広かった。
ダブルサイズのベッドが奥に鎮座し、手前には畳の小上がりがあって靴を脱いで寛げる作りになっていた。バスルームもおしゃれで広く、コンシェルジュが説明がてら浴槽に湯を張ってくれた。そして高級ブランドのアメニティだけでなくルームウェアまで用意してあり、まさに至れり尽くせりのサービスだった。
途方に暮れている琴音にコンシェルジュは部屋の設備に始まりクリーニングの依頼の仕方まで丁寧に説明してくれた。ルームサービスでの夕食と朝食も含まれていて、聞かれるままに希望する時間を伝えた。
「それでは、どうぞごゆっくりおくつろぎください」
一通りの説明を終えたコンシェルジュが頭を下げて部屋を退出し、琴音は広い部屋に取り残された。
部屋で立ち尽くしていた琴音は握りしめていたスマホにメッセージが入って我に返った。慌てて確認してみると、それは和敬からだった。
『何か困った事はありませんか?』
琴音は少し迷った後に手配してもらったホテルが高級すぎてどうしていいか分からないと素直に自分の心情を返した。
『沙耶様が過ごしやすい様に良く働いて下さっていると、塚原さんも綾乃さんも貴女に大変感謝しておられました。ですから、そのご褒美だと思って普段体験できないことを楽しめばいいのではないでしょうか?』
評価ししていただいているのは嬉しい。でも一介の使用人に過ぎない自分がこんな贅沢をしていいのだろうか? そんな疑問を返したところで今度は着信があった。
「もしもし?」
「青柳です。今、大丈夫ですか?」
「は、はい。でも、青柳さんは忙しいのでは?」
「仕事の話は終わりましたので、今はプライベートの時間です。お困りのご様子でしたから、失礼とは思いましたが通話に切り替えさせていただきました」
知っている人の声を聴けるのがこんなにホッとすることなんだと琴音は気付いた。そしてこんな心遣いが出来る人だからこそ、あの義総を陰で支えることが出来るのだとも納得した。
「ありがとう……ございます」
こんな風に誰かに気遣ってもらった事は今までなかった。知らない間に涙があふれていた。
「乃木さん? 大丈夫ですか? 気分が悪いのですか?」
和敬の慌てる声が聞こえる。この人も慌てることがあるんだと新しい発見をした気がした。涙はまだ止まらないが、つかえながらでもどうにか大丈夫だと伝えた。
「私なんかがこの様なところに泊まっていいのでしょうか?」
どうにか落ち着いたところで琴音は抱えていた不安を和敬に打ち明けた。
「ご自身を卑下されることは無いと思います。ですが、こう考えたらどうでしょうか? そこはエトワール系列のホテルです。今後の為に乃木さんに部屋とサービスの評価をしていただくというのは如何でしょう?」
意外な申し出に琴音は戸惑う。
「私がしてもいいのでしょうか?」
「第3者の意見が重要です。乃木さんの率直な感想を教えてください」
「それでお役に立つのでしたら、喜んで」
和敬のこの申し出のおかげで琴音の心がスッと軽くなる。
「それから、明日は私が迎えに行くことになりましたので、部屋でお待ち下さい。こちらに着きましたらご連絡いたします」
「え? それは申し訳ないのですが……」
「復旧に時間がかかりそうです。そちらからのバスの路線は遠回りになりますし、その方が早いかと。それに、私の有休消化も兼ねておりますので、ご心配はいりません。ああ、すみません、仕事の連絡が来ましたこれで失礼します」
「は、はい」
大事な有休を自分の為に使っていいのかと考えてしまったが、何かを言い返す前に和敬の方に仕事の話が入って通話が途切れてしまった。お礼も結局ちゃんと言えなかった。
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