掌中の珠のように2

花影

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制裁7

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 義総は床に座り込んだままガタガタ震えている渡部と黙り込んでしまった秘書を見据える。そのプレッシャーに2人はもはや顔を上げる事すらできない。
「先程、幸嗣が言ったとおり、君達は懲戒解雇とする」
「わ、私もですか?」
 震える声で秘書が問い返す。どうやらまだ己がした事の重大性が分かっていないらしい。内心呆れながらも義総は極めて無機質に言葉を続ける。
「職務を放棄し、罪もない少女を脅した挙句に精神的に傷つけた。起訴されれば有罪は確実だと思うのだが、まだ自覚していないのか? 納得がいかないのなら訴えても構わないが、君達が勝つ見込みは無い」
「何故、何故そこまで……」
「公にしていないが、あの子には高貴な血が流れている。君達の愚かな行いの所為で、もう少しで国際問題に発展するところだったのだぞ」
 渡部も秘書も、そして親族の男ですら知らされた事実に青くなる。
「明日には全社に通達する。気まずい思いをしたくなかったら、今日中に身辺整理は済ませておくんだね」
 最早反論する余地は無く、渡部も秘書も大人しく処分を受けるしかなかった。



 項垂れる2人にはもう目もくれず、次に義総は親族の男に視線を移す。幸嗣には強く出れても義総相手では分が悪いのが分かっている男は、逃げる算段を付けていたのだが、義総に鋭く睨みつけられればその思考も固まる。
「最初の暴露で大人しくしておけば幸嗣もここまで徹底的にお前達を潰す真似はしなかった筈だ」
「お前がしたんじゃないのか?」
 男はまだ、見くびっていた相手に完膚なきまでに叩きのめされた事実を認めたくないらしい。
「今回私は何も関与していない。昨年、私の後継として周知させた時に言ったはずだ。コイツは私の身に何時、何が起きようとも、既に後を引き継ぐ能力は身に付けていると」
「……」
 何も言い返せない男はただ悔しげに唇をかみしめている。
「吉浦の事業は整理してエトワールの傘下に入れる」
 元々、義総が父親の後を継いだ時にそうする予定だったのだ。それを久子が一存で遺言を捻じ曲げて吉浦を己の物としてしまい、結果、吉浦は彼女の金集めの道具となってしまったのだ。哲也がうまく隠匿してそうと知られていないが、中には詐欺まがいの商法を行う部門もある。義総は健全な部門だけ取り込み、他は全て潰して吉浦の存在そのものも無くしてしまうつもりだった。
「吉浦を抹消するつもりか!?」
「もちろん」
 意図を察した男は声を荒げるが、義総も幸嗣も平然としている。
「そんな事、誰もゆるさねぇぞ」
「そうは言っても、既に幸嗣が買収済みだ。特にお前の会社はお前を排除出来るなら……と、もろ手を挙げて賛成してくれたそうだ」
「そんなばかな……。アイツら、裏切ったのか!」
 社員どころか役員達も皆、自分に従順な者ばかりだったはずだ。彼等の裏切りに男は歯ぎしりをする。
「保身の為に罪を全て部下に擦り付けるからだ。先に裏切ったのはお前だろう」
「……」
 幸嗣に一刀両断されて返す言葉も無い。だが、彼にはまだ頼れる相手がいた。どうにかこの事実を伝えて助けてもらおうと思い、この場から逃げ出す方策を練る。そんな男の思惑を義総も幸嗣もお見通しなので、考え込む彼を冷ややかに眺めていた。
 そこへ綾乃から「青柳君、到着しました」と連絡が入る。やがて重苦しい沈黙が続く最中へ青柳が居間に入って来た。
「お待たせいたしました」
 青柳は依頼主である幸嗣に先ずは手にしていた封書を手渡す。幸嗣は受け取ったそれの中身を確認すると、今度は義総に手渡した。
「彼も誘惑には勝てなかったか……」
 ざっと目を通すと、義総はその資料を男の前に置いた。
「この2人を私の病室があったフロアへ出入りさせるのに、スタッフの身分証を偽装したな?」
「……」
 何もかもお見通しの義総に男も秘書も体をビクつかせる。だが、何も知らされていないらしく、床に座り込んだままの渡部は怯えたように首を振る。
「委託しているセキュリティ会社の社員が白状した。お前達に脅されてやったと」
「その社員がもう1人についても白状した。庇ってくれる奴はもういないから、変な期待はしない方が良いぞ」
「……」
 青柳が持参したのは黒幕に関する最終報告書だった。男に警察の捜査を逃れる方法を伝授した相手の事細かな調査報告書が目の前にある。他にも言い逃れできない罪があり、その人物も近いうちに警察の事情聴衆が行われる。これで最後の希望までもが打ち砕かれてしまった。
「下で警察の方が貴方にお話を伺いたいとお待ちでございます。素直に応じられた方が今後のためかと思われます」
 にこやかに青柳が付け加えると、男は観念したのかがっくりとうなだれた。
「青柳、下へ連れて行け。もう用は無い」
「かしこまりました」
 青柳は義総と幸嗣に頭を下げると、親族の男とがっくりとうなだれている渡部と秘書も促して居間を出て行く。
「さて、残るは1人……だね」
「最後まで気を緩めるな」
「分かっているよ」
 幸嗣は肩を竦めると黒幕に関する資料を手に取った。これで親族間の煩わしい諍いから解放されるのだが、今まで特に邪険にされた記憶がない相手と対峙するので幸嗣は少々複雑な気分だった。
「行くぞ」
 やがて3人を外へ連れ出した青柳が戻って来ると、一時は命が危うかったとは思えない程しっかりした足取りで義総は玄関に足を向ける。幸嗣も慌てて資料を封筒に戻すとその後を追いかけた。


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残すは黒幕のみ。
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