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第二話『監理局=オーソリティ』
しおりを挟む翌日、街の空気は一変していた。
昨日までの混乱が嘘のように、通りは整然と整備され、人々が列を作っていた。
誰もが一様に無言で、灰色の制服を着た兵士に導かれていく。
俺はその列の端で、廃ビルの影から様子を見ていた。
「監理局」と書かれた車両が、無人の交差点をゆっくり通り過ぎる。
車体の側面に刻まれたロゴには、白い羽と目を象った紋章。
──《Authority》。
天使《ガブリエル》の宣告以降、わずか一晩で設立された“新たな統治機関”。
政府ではなく、軍でもない。
世界中で同時に発足し、各地の通信を掌握した謎の組織。
彼らはこう名乗った。
『我々は《革命》を管理する者。秩序を再定義する』
そして、能力者を「登録」しない者は、“排除”された。
---
通りを歩く女性の手首に、青いリングのようなものが光っている。
《認識バンド》。
監理局が発行する識別端末であり、個々の《Ability》を制御・監視する道具。
俺は持っていない。
登録していない能力者は「異端」として扱われる。
つまり、今の俺は──狩られる側だ。
昨日聞いた“超能力者狩り”という言葉。
あれは噂じゃなかった。
監理局の実働部隊は、まさに“狩り”を行っていた。
---
背後で、足音がした。
廃ビルの鉄扉が軋む。
反射的に身構えると、声がした。
「そんなところに隠れてると、逆に目立つわよ」
女の声。低く、落ち着いている。
ゆっくりと振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
監理局の制服に似た黒いコートを羽織り、片手に端末を持っている。
「誰だ」
「黒川レイ。……あんたが本城樹ね?」
どうして俺の名前を?
口を開く前に、彼女が先に答えた。
「《心象透視》。あなたの《Ability》」
その瞬間、胸が冷たくなる。
監理局の情報網が、すでに俺のデータを掌握している。
「安心して。私は“局の人間”じゃない」
「じゃあ、何者だ」
「……説明するより、見せた方が早いわ」
レイが端末を起動する。
ホログラムが浮かび上がり、監理局の構造図が投影された。
中央制御部《オーソリティ・コア》。
各地の端末や監視衛星を一元的に制御する、いわば“電子の神殿”。
「私たちは《フリーリンク》――監理局の監視から逃れた者たち」
「逃れた?」
「ええ。登録拒否者。能力を奪われたくなかった人間の集まり」
レイの目は、鋭く、それでいてどこか悲しげだった。
《心象透視》を使わなくても分かる。
彼女は、かつて“失った”側の人間だ。
---
「本城樹。あなたに、お願いがある」
レイはホログラムの一点を指差す。
監理局本部――中央データ層。
そこには《天使ガブリエル》の降臨時に記録された“初期ログ”が保管されているという。
「そこに、《革命》の真の目的が書かれているはず。
私たち《フリーリンク》は、そこへアクセスしたい。
でも……外部からの侵入は不可能」
「だから俺を?」
「そう。あなたの《心象透視》が必要なの」
意味が分からなかった。
だがレイの瞳は、まっすぐ俺を見ていた。
「監理局は、AIでも魔法でもない。
“人の心”を読むために作られてる。
なら、あなたの力は唯一、対抗できる手段なのよ」
言葉の意味が、少し遅れて理解に変わる。
《監理局》とは、“秩序”ではなく、“管理”。
つまり、人の“内側”を観測するシステム。
ならば。
俺の力は、それを暴ける。
---
夜になり、レイは去っていった。
残されたのは、一枚のデータカード。
「接触を望むなら、これを起動して」
「……信じていいのか?」
「信じるかどうかは、あなたが決めなさい」
そう言い残して、彼女は闇に消えた。
カードの端に、微かに文字が刻まれていた。
《識別キー:SENA》。
──瀬名。
昨日、俺の頭に響いた“少女の声”。
偶然のはずがない。
世界は、静かに、確実に俺を“中心”へと引き寄せている。
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