』現実世界の崩壊輪舞曲、『

バルッ!!

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第三話『灰の街の亡霊』

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 街は焼けていた。
 昨日まで見慣れた通りが、灰色の瓦礫と化している。
 鉄骨が骨のように突き出し、黒く焦げた看板が風に鳴っていた。

 《革命》が始まって三日目。
 人々の動きは徐々に鈍り、恐怖が常識のように街を覆っていた。
 監理局のドローンが低空を滑り、誰かをスキャンしては消えていく。

 俺はその視線を避けながら、かつての自宅ビルに戻っていた。
 崩れた階段を登り、残骸の中から古いノートPCを掘り出す。
 電源を入れると、かすかに青い光が点った。

 ポケットから、レイが渡したデータカードを取り出す。
 銀色のプレートには、細かく刻印された文字列。
 《SENA》。

 恐る恐るポートに差し込む。
 数秒の沈黙のあと、画面が一瞬、白く弾けた。

 ──音がした。

『……これを見ているなら、たぶん私はもう“局”にはいない』

 聞き覚えのある声だった。
 少女のように若く、それでいて、どこか大人びた冷静さを含んでいる。

『私の名前は、瀬名カリン。監理局・情報技術部所属。
 このデータは、“革命”開始前夜に暗号化して残した記録よ』

 映像が映し出される。
 研究室のような部屋。
 白衣の女性がカメラを見つめていた。
 年齢は十代後半に見える。だが、その瞳は酷く疲れている。

『……ガブリエルの声は、人工的に作られたもの。
 それ自体が、監理局の《観測AI》による“選別信号”だった』

 映像が途切れる。
 ノイズが走り、再び瀬名の声だけが響いた。

『《Talent》を《Ability》に変えるシステム――
 あれは、“人間を分類する”ための装置。
 監理局は、最初からそれを知っていた。』

 息が詰まる。
 彼女の声は、淡々としているのに、どこか震えていた。

『もし、あなたがこのデータを見ているなら。
 私はもう、彼らに見つかった後かもしれない。
 でも、あなたに伝えたい。
 この世界はまだ終わっていない。
 “心”が観測され尽くす前に、止めて。』

 そこまで言って、映像が完全に途切れた。

---

 静寂。
 PCの画面に、最後の一行だけが残る。

 《ACCESS LOG:本城 樹》

 ……なぜ、俺の名前が?

 誰かが、俺を“前提”に記録を残していたのか?
 それとも、偶然ではなく、最初から──。

 指先が震える。
 そのとき、不意に背後からかすかな足音がした。

「……こんなところにいるとはね」

 振り返ると、そこに立っていたのは黒川レイだった。
 黒いコートの裾が風に揺れ、表情は相変わらず冷静。

「見たのね」
「ああ。瀬名カリン。お前、知ってたのか?」
「知ってた。……でも、あなたがアクセスできたのは予想外だった」

「どういう意味だ?」
「そのキー、本来は《局内端末》専用のアクセス権よ。
 外部では起動しないはずだった」

 レイの言葉に、背筋が冷える。
 それなのに作動したということは、誰かが意図的に“開けた”ということだ。

「瀬名が……俺を利用した?」
「違うと思うわ」

 レイが首を横に振る。

「彼女は、あなたを“見ていた”。
 《洞察》って才能を持つ人間を、ね」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が軋んだ。
 ──あの時の“声”は偶然じゃなかった。

 俺の中で、点と点が少しずつ繋がり始めていた。

---

 夜風が吹き、焦げた匂いが漂う。
 レイが静かに言った。

「本城。これで終わりじゃない。
 監理局は、都市そのものを“書き換えよう”としている。
 次の段階が始まるわ」

「書き換え?」
「ええ。人間の心だけじゃない。
 記憶も、空間も、“存在”そのものを」

 レイの視線が空へと向く。
 雲の切れ間から、白く脈打つ光が一瞬見えた。

 それはまるで、天から降る“監視”のようだった。

---

 その夜。
 廃墟の中でひとり、俺はノートPCの画面を見つめていた。

 “亡霊”のように残された瀬名の声が、まだ耳の奥に残っている。

『……止めて。ガブリエルを──止めて。』

 その願いが、俺の中で確かな“目的”へと変わっていった。

 俺は立ち上がる。
 崩れた窓越しに、静かな星を見上げた。
 灰の街の空にも、まだ光は残っている。

 ──なら、終わりじゃない。
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