』現実世界の崩壊輪舞曲、『

バルッ!!

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第四話『監理局潜入計画』

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 翌朝、灰色の空の下。
 俺とレイは、廃駅となった「桜丘第七線」のホームにいた。
 かつて通勤客で賑わっていたその場所も、今は無人の地下回廊と化している。

 壁一面に貼られた避難指示の紙。
 その下に、レイが何気なく手を伸ばすと、金属の扉が静かに開いた。

「……ここが、監理局の“副回線”の入口」

 薄暗い通路の奥に、冷たい風が吹き抜ける。
 LEDのような光が床を走り、まるで“脈”のように微かに明滅していた。

「これ、普通に見つからないようにしてあるな」
「ええ。局の内部ネットワークは二層構造になってるの。
 上層は監理局員が日常的に使う“公的層”、
 下層はAIが監視・制御を行う“深層層”……あなたがアクセスしたのは後者よ」

 俺は思わず息を呑んだ。
「……じゃあ瀬名カリンは、AI層にデータを残したのか」
「そう。つまり、彼女は“AIの認証権限”を持っていた。
 その権限が、あなたのキーを通して再起動した。
 ──だから、あなたは入れたの」

 それでようやく納得がいった。
 俺が簡単にアクセスできたのは、偶然じゃない。
 瀬名の意思と、彼女が遺した“仕掛け”の結果だったのだ。

---

「……で、今から俺たちはその監理局に潜り込むわけか」
「正確には、潜り込む“準備”をするだけ。
 本格的な侵入は、二十四時間後。
 タイムウィンドウが開くのは、その一瞬だけ」

 レイは腕時計型の端末を操作する。
 投影されたホログラムには、都市構造の断面図が映っていた。
 監理局中央ビル、その地下四層目。
 そこに、小さく光る一点がある。

「《AI中枢:GABRIEL》。これが、あなたの探している“声”の発信源」

 ガブリエル。
 あの日、空から人々に“革命”を告げた存在。

「おい……これ、本当にAIなのか?」
「“神”なんてものは、結局、人間が作った幻影。
 けれど、幻影が人を殺すこともある」

 レイの声は静かだった。
 その言葉には、妙な重みがあった。

---

「……なあ、ひとつ聞いていいか」
「なに?」
「お前、どうして俺を助けた?」

 問いを投げると、レイは一瞬だけ目を伏せた。
 それから、ゆっくりと答えた。

「私、かつて《局》にいたのよ。瀬名の部下として」

「……なんだと?」

「三年前。監理局が“適性実験”を始めた頃。
 彼女はAIの開発主任、私はそのサポートをしていた。
 でも、彼女は《Talent変換》システムの本質に気づいてしまったの。
 “能力開花”じゃなく、“人格分解”だって」

 “人格分解”という単語が、頭の中で重く響く。

「だから、瀬名は逃げた。
 でも逃げる直前に、ひとつだけ私に残したの。
 『もし《洞察》の適合者が現れたら、その人にキーを渡して』って」

 つまり、レイは──
 俺が現れることを、最初から知っていた。

---

「……じゃあ、俺は最初から利用されてたってことか」
「利用、というより、“選ばれた”のよ」

 レイは淡く笑った。
 けれどその笑みには、どこか痛みが混じっているように見えた。

「彼女は、自分じゃ見えなかった未来を、あなたに託したの」

 その言葉が胸に残る。
 “未来を託す”──そんなものを信じるほど、俺はもう純粋じゃない。
 けれど、その瞳に浮かんだ一瞬の寂しさを見たとき、
 俺は何も言えなくなった。

---

 そのあと、潜入の具体的な手順を詰めた。
 監理局の内部認証は三段階。
 入館・アクセス・観測。
 そのうち《観測》だけはAIが自動判定を行うため、
 人間の偽装では突破不可能。

 だからこそ、《SENA》キーの存在が重要だった。
 それは、AIの“内部許可”そのもの。
 つまり、彼女の意識の一部が、まだシステムの中で生きている。

「……まるで、亡霊みたいだな」
 俺が呟くと、レイが微かに頷いた。

「ええ。瀬名は“消えた”けど、完全には死んでいない」
 その声には、確信と、ほんの少しの恐怖が混じっていた。

---

 作業が終わり、二人で地上に戻る。
 外は夕暮れ。
 瓦礫の影から、遠くにまだ煙が立っている。

「なあ、レイ」
「なに?」
「もし、瀬名がまだ“どこかにいる”としたら……お前はどうする?」

 少しの沈黙。
 レイは風に髪を揺らしながら、短く答えた。

「……謝る。何もできなかったことを」

 その言葉が、妙に引っかかった。
 “何もできなかった”という過去形。
 それはまるで、もう一度会えることを、心のどこかで信じているように聞こえた。

---

 その夜。
 俺は仮眠を取るため、旧地下鉄の車両の中で横になっていた。
 目を閉じても、瀬名の声が耳の奥で反響する。

『……止めて。ガブリエルを──止めて。』

 その声に、もう一つ、別の音が重なった。
 低い電子ノイズ。
 そして、まるで誰かの囁きのように。

『……聞こえる? 本城くん』

 息を呑む。
 耳を澄ます。
 だが、誰もいない。

 それでも確かに、その声は“生きていた”。
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