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第十六話『不可視の街』
しおりを挟む街は、あまりにも静かだった。
瓦礫は昨日と同じ位置にあり、崩れたビルも、焼け跡も変わらない。
それなのに、本城は“何かが欠けている”感覚を覚えていた。
「……音が、少ない」
風は吹いている。
だが、雑音がない。
遠くの叫びも、無線のノイズも、監理局特有の低い電子音も。
**世界が、誰にも聞かれていない。**
「不可視状態が完全に成立してるわね」
レイは周囲を見回しながら言った。
「監理局の観測網だけじゃない。
一般の通信、衛星、SNS……全部から“外れてる”」
「まるで……この街だけ切り取られたみたいだ」
「正確には、“切り捨てられた”の」
レイの声は淡々としていたが、その指先はわずかに強張っていた。
---
二人は、かつて商店街だった通りを歩く。
シャッターの下りた店。
割れたショーウィンドウ。
誰もいないはずなのに、生活の痕跡だけが残っている。
「人が、いないな」
「いるわ」
「……え?」
レイは立ち止まり、足元を指さした。
そこには、踏み荒らされた足跡がいくつも残っている。
「逆観測は“私たちを見えなくする”だけ。
他の人間が消えたわけじゃない」
「じゃあ、なんで姿が見えない?」
「“観測されていない存在”同士は、干渉しにくいの。
確率的に、出会えない状態に近い」
本城は眉をひそめた。
「……それって」
「ええ。“孤立”よ」
---
その時だった。
本城の視界に、淡い色が滲んだ。
《心象透視》が、勝手に発動する。
だが――いつもと違う。
感情の色が、見えない。
代わりに、“空白”が見えた。
「……っ」
本城は思わず足を止める。
「レイ、俺の能力が……おかしい」
「どんなふうに?」
「感情が、見えない。
人の“心”が、白紙みたいになってる」
レイの表情が、僅かに曇る。
「……やっぱり」
「やっぱり、って」
「逆観測下では、
能力は“他者から与えられた意味”を失うの」
「意味?」
「あなたの能力は、
“他人が存在として認識されている”ことを前提にしてる。
でも今、この街では……」
「誰も、誰にも認識されていない」
レイは、はっきりとそう言った。
---
本城は拳を握った。
「じゃあ俺は……何も見えないまま、進むしかないのか」
「いいえ」
レイは首を振る。
「見えるものが、ひとつだけある」
「……何だ?」
「あなた自身」
レイは、本城をまっすぐ見つめた。
「逆観測下では、“自己観測”だけが残る。
つまり――
あなたが、自分をどう定義するかが、世界に反映される」
「それって……」
「あなたが“亡霊”だと思えば、亡霊になる。
“生きている”と選べば、生きた存在になる」
静かな言葉だった。
だが、本城の胸に重く響いた。
---
「……選べ、ってことか」
「ええ。
瀬名も、きっとそれをあなたに託した」
その瞬間。
遠くの建物の影で、何かが“揺れた”。
本城は反射的に目を向ける。
だが、そこには誰もいない。
――いや。
ほんの一瞬だけ、
**“誰かが見ている”感覚**があった。
「レイ……今、誰か……」
「……気づいた?」
レイの声が低くなる。
「この街、完全に安全じゃない」
「監理局か?」
「違う。
“観測から外れた存在”は、私たちだけじゃない」
本城は息を呑んだ。
「それって……」
「観測に失敗した人間。
消されるはずだったのに、消えきれなかった“残留者”」
---
レイは小さく呟く。
「不可視の街は、
そういう存在を“引き寄せる”」
風が吹いた。
空気が、ほんの一瞬だけ歪む。
本城の胸に、嫌な予感が広がる。
この街は、隠れ場所であると同時に――
**“溜まり場”**でもある。
---
「本城」
「……なんだ」
「ここに長居はできない。
逆観測は、逃げ場じゃない。
“猶予”よ」
本城は、崩れた街並みを見渡し、静かに頷いた。
「だったら……
次は、どこへ行く?」
レイは少しだけ考え、
そして答えた。
「“最初の観測点”」
「最初?」
「天使が降りた場所。
《革命》が始まった地点」
本城の背筋が、ぞくりとした。
世界の始まりに、
答えがあるとは限らない。
だが――
**“選ばされた理由”**は、きっとそこにある。
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