記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

少年の話

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朝食を終えて自室に戻ると、ペディアはクローゼットの隙間からミニ机を引っ張り出してきた。デスクは持っているが、少年と座って話すにはこちらの方が話しやすいと思ったからだ。

「さ、座って。あなたの話を聞かせて」

「うんっ!」

少年はどこか嬉しそうにニコニコしながら話し始めた。


☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

僕は今までどこにいて、何をしていたか記憶にはないんだ。だから、僕の名前が何かも分からない。

僕が覚えてる1番古い記憶は、"暗闇の恐怖"なんだ。いまは他人事にみたいな感覚なってるから、夜になっても平気なんだけど、その時、何が起きてそうなったとかは覚えてないんだよね。

でも、僕がこの家で、自我を持ってからの記憶はあるよ。ペディ姉のことも、ペディ姉のパパのことも知ってる。僕は12年間この家に居たから。家の外は…、あまり家から離れることは出来ないけど、少しなら外の様子も知ってるし、何が流行りとかも分かるよ!

僕が話せるのはそのくらいかなぁ…?

あっ、そうだ。最後にひとつだけ。誰かが伝言してくれって言ってたんだ。

『思い出せ。私はここにいる。早く真実を知って、私を解放しろ』

そう言ってたよ。


☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

ペディアは長々と少年の話を聞いて少し混乱していた。聞きたいことはある。思いつく順から聞いていくことにした。

「……あなた、12年間もここにいたっていうなら、なんで私たちに今まで姿が見えなかったの?」

「時が来たからだと思う。本当なら、僕は誰にも気付かれずに消えるはずだから。がそうさせたのかもしれない」

?」

「僕に伝言を託した相手。僕も顔は知らないけど、記憶はあるんだ」

「ふーん…、12年も経ってる割には身長低いよね…」

「……?身長が低いとなにかダメなこととかあるの?」

「ううん。あなたが大丈夫なら、別にいいわよ。12年もあれば、私みたいに身長伸びるはずなのになーって思っただけ」

少年はペディアの質問の内容がよく分かっていないらしく、首をかしげていた。

「…そういえば、あなた、名前」

少年は無言になって苦笑いを浮かべる。ペディアは一方的に少し考えてから言う。

「名前がないのはちょっと不便よね。いまは2人だけだからいいけど、他に人と会う時呼びづらいし…。
アウ…アク……、うーん、、"アガーべ"。そう呼んでいい?」

「アガーべ…?古代アステルの言葉で"使命"だね。いいよ。ペディ姉が付けてくれる名前なら嬉しい!」

古代アステル。この世界の全ての言語の源とされている最古の言葉だ。日本人が漢文を学ぶように、ペディアの住む世界の人々は、学べる環境にいる人は必ずと言っていいほど学ぶ言語なのだ。

「次の質問ね、"暗闇の恐怖"っていうのは、具体的にどんなものなの?」

「分からない。1番辛くて苦しい記憶だった気がする」

「じゃあ、最後の質問ね。伝言の内容は、いつ言われたの?」

「それも分からない。手掛かりになるのは…、どこかの山の中…かな?」

ペディアはハッとした。あの夢(1話参照)の最後に出てきた特徴の場所に行けばなにかあるかな…?

「ね、アガーべ。一緒に来て欲しい場所があるんだけど、来れる?」

「どこまで?」

「えっと…、あの特徴は…、トランテスタ…山…」

夢の内容を思い出しながら自信なさげに伝えると、アガーべは申し訳なさそうな顔をして断る。

「ごめん、僕そこまで行けない。ペディ姉の住む地域内だったら、ギリギリ行けるんだけど…」

「そっか…。アガーべと一緒の方が手掛かりを掴みやすいと思ったんだけどな…。」

ペディアは残念そうに呟く。すると、少し明るい声でアガーべが提案した。

「ペディ姉、使い魔契約しよう」

使い魔契約とは、魔物と人間がお互いの体に魔力で出来た契約印を結ぶことである。離れた場所にいても、契約があることで、すぐにその場に召喚し呼び寄せることが出来る。

アガーべの場合、周囲の魔素、魔力の源となるものを媒体として存在している。家の周囲までしか行けないアガーべの場合、家から離れる際はペディアの魔力によって現存することになるのだ。

「えっ?」

「ペディ姉の魔力を少し貰うことになるけど…、姉ちゃん魔力量が他の人より多いし、いいかな…?もっといい方法もあるけど、そっちは僕が消える時、姉ちゃんも一緒に居なくなっちゃうから…」

ペディアは使い魔契約以外の契約方法を知らないため、アガーべの言った意味が分からなかったが、一緒に行けるというのであればなんでもいい。契約しようと思った。

「アガーべがいいなら、使い魔契約しよっか」
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