追放公爵ベリアルさんの偉大なる悪魔料理〜同胞喰らいの逆襲無双劇〜

軍艦あびす

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第2部

第17話 最適解

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 無機質な病室で、虚空を貪る影がひとつ。白い病床に付した身を持ち上げて、電子音に耳を傾ける。
 心地よいリズムはどうやら自身の発するそれと全く同じリズムを刻むらしく、何を意図するのかを理解する事ができた。
「そういうことか……全部理解したぜ」
 半身を寝転ばせた状態のまま、自身の腹部の中心に向けて鋭利な爪を立てた手を突っ込む。少しの血が滲む温かい体温を感じながら、胃袋を掴んで握りしめて中身を逆流させて吐き出した。
「やっぱブエルのコアか。ベリアルの奴、俺を労ってくれたのかね……って、んな訳ねえか。さーて帰るか」
 大方、ベリアルの持つブエルコアを強引に奪った蓮磨が口に突っ込んだのだろうか。なんにせよこうして動き回れるほどまでに回復できたのはありがたい限りだ。
「あー服ボロボロじゃねえか……サマエルの野郎ふざけんなよ一張羅だぞ」
 ハンガーにそのままかけられた服は、あの日のままだった。こういうところに気が効かないのも、蓮磨らしいといえばそうなのだろう。
「……ん」
 振り返った先の机の上に、見覚えのあるマークが描かれたビニール袋と一枚の紙を発見した。蓮磨の顔が凄いことになったあの日の事を想起させるものだ。
 紙を手に取ると、言葉が記されていた。その文字に感慨深い何かを感じる。
 不意に、強欲を司る悪魔ながら、充分どころか貰いすぎたなと思ってしまった。

『起きたら食べて下さいね‼︎ byウラヤ』
 
「ありがてえけど、常温保存はダメだぜ浦矢ちゃん」
 案の定ぬるくなってしまったシュークリームを、飛び出すカスタードへの警戒を行いながら胃袋に落としていった。カレンダーが無いので何日眠っていたのかは分からないが、久しい食事が身に染みているのは簡単に理解できる。
 
 強欲が満足と思えるものが多すぎるな、と。
 
 簡単に手に入ってしまう幸せに、恵まれすぎているのか自分が貪欲なのか分からなくなる。だがきっと、恵まれすぎているのだろう。是非ともそう思いたい。
「さて、とりあえず3課だな。ベリアルにコア返さねえと……」
 扉の方向に顔を向け、目的地へ向けて脚を進める。
 だが、視界に入った異様なものはそれを許してはくれなかった。
「……殺気すげえなぁ。今起きたとこなんだけど、準備させてくれたりしねえの?」
 開け放たれた窓に座り込む一つの影が、長剣を咥えてこちらへ殺気を放っていた。それは感じたこともないような、サマエルの比にならないようなもの。明らかに手負いにはオーバーキルだ。
「マジメなラファエルちゃんが言い出しちまったから仕方ねえんだ。マジ尊い犠牲として処分されてくれや」

 「おいおい、マジかよ」
 先程まで病床に伏していた身体は、当然完璧なそれとは言い難い。というか、負傷による療養だったので寧ろキツい。
 とりあえず、今ここで出来ることを考えて整理してみる。少しは解決法が見つかるかもしれない。
 
 完全に自身が個人として狙われるというのは、考えにくいだろう。眠っている間に殺すことも出来たはずなのに、放置されていたのだ。偶然このタイミングを狙ったのもあり得ない話ではないが、3課の誰かがコアを食わせた時点で行動を起こさなかったのが決定打となる。
 
 次に、この女の目的。当然眠っていた訳だから恨みを買っていた事もないだろうし、初対面だ。だが、女は「ラファエル」と口にしていた。
 もし天使といった存在であるならば、サマエルが何かしらを起こしたと考えるのが妥当か。それなら堕天使を標的にしている可能性があるだろう。
 
 しかし色々考えるも、生身で勝てる相手ではないと悟る。病み上がりというのもあるが、自身が堕天使だというなら、奴はこちらの情報を簡単に得ることができるだろう。未だ憶測でしかないが、能力や性格を読まれているのは大きな障害だ。
 
 つまり、最適解は増援に頼ることになる。
 幸い人の多い施設に居たのは救いだろうか。そして自身は急患だったということは、一番近い場所に。つまりここは、野鳥市内に位置する病院と予想ができる。
 もし一時的に逃走が出来れば蓮磨との再開や、他の堕天使たちの協力が得られるだろう。
 とにかく、時間を稼ぎつつ逃走する経路を探す。これが最善手だ。
「……誰だお前、俺なんかしたか?」
「いや、別に何もしてねえだろ。さっきまで寝てたんだろマジ凡骨かてめぇ」
 いちいち言動が気に触るな、と。絶対仲良くなれないタイプに嘲笑を見せつつ、経緯を聞いて時間稼ぎを試みる。
「じゃあ俺はなんで狙われてんだ。納得しねえとモヤモヤして死にきれねえよ」
「じゃ、説明してやったらマジ死んでくれんのか」
「そこは内容次第で」
 当然死ぬつもりなど微塵もないが、相手に有益なものを与えれば乗ってくると考えていた。恐らく端的な情報を処理する思考はあるだろうが、見た感じ騙し合いは得意そうではない。
「じゃあ簡単にまとめてやる。マジでアタシの苦労ムダにすんなよ」
「話すだけだろ。何が苦労だよ」
 明らかに眉間を動かした動作を確認した。少しの挑発に乗るような性格なのだろうか。
「……サマエルがアタシら天使の存在を探った結果、タブーに触れた。そっから四百年くらい経ってラファエルが『堕天使やっぱりマジで殺しといたほうがいいんじゃね?』って言った。はい以上。終わり」
 あまりにも、端的すぎる。所々理解に苦しむ様な箇所すら見受けられるが、この際に内容はどうでも良い。
 本当に端的すぎた。まだ何も考えが纏まっていないのに、今使える時間稼ぎのネタが尽きたのだ。
「サマエルの野郎……」
「おーそうだ、恨むならサマエルをマジで恨め。アタシは悪くねえからな」
 そういって、蒼い長剣の矛先を眼球の先に突き立てる。少しの動作で失明を生むそれは、微動だにせずこちらを睨んでいた。
「あー……もうめんどくせえわ」
 既に打つ手を失ったも当然だった。だからこそ、己にできるのはひとつだけだ。
 
 そう、生き延びることだけ。
 
 女と自身の間にある空間を完全に遮断する様に、召喚した針を床と天井から突き立てて視界と進路を塞ぐ。その数秒持つかも分からないものに頼りながら、一番人が多いであろう受付を目指した。
 扉を開けて、何も分からぬまま右に。階段を降りる際に確認すると、ここはどうやら二階らしい。すぐに出口へ辿り着けそうな様で、少しばかり安心を見せる。流石に人の目がある場所で殺人は出来ないだろう。
「さーて、こっから出るか待機するか。どっちのが安全に勝機を得れるのか……」
 命を賭けた二択に脳をフル回転させるが、ふと目に入った公衆電話が全てを決める。とりあえず今は人混みに紛れるのが良いと考えた。
 椅子に座り、横に落ちていた昨日の新聞紙で顔をできるだけ隠す。自身の身体が人間に類似した姿をしていて本当によかった。
「テメェマジで馬鹿だろ。病室特定された時点で察しろや」
 不意に聞こえた言葉に、反射して身を翻して床に転がる。振り返った先の光景は、常識に縛られた己を崩すようだった。
 一面のガラス張りが、一斉に割れて砕け散る。吹き抜けの二階三階を巻き込んで、大量のガラスが降り注いでいた。
「馬鹿はお前だろ‼︎何考えてんだッ‼︎」
 当然、人混みに紛れると自身は考えていた。それならば、そこに見えるものは限られる。
 恐らく、全員が病状または痛みに苦しんでいたのだろう。それを追い討ちする様に、皆が全身に突き刺した透明の刃を赤に染めていた。
「うるっせぇな。病院で騒ぐなって教わってねえのか?マジ迷惑だぞお前」
 長剣片手に、小指を耳に突っ込む女は背後に巨大な羽を背負っていた。ベルゼブルのものとは違う、神々しいというかそんな感じの白い羽だ。
 
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