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第1話 ビギニング・ミステリアル
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今日も今日とて、平凡を絵に描いた世界。面白いわけでもなく、つまらないわけでもない。そんな日常は、きっと永遠に続いていくのだろう。
その中に囚われた。と、捉えるか。それは、人それぞれの感性による違いがあるだろう。正しいと思えばそれは正しい。違うと思えばそれは違う。
人間それぞれの価値観なんて、所詮そんなものではないだろうか。
義務でもないが、皆に流れるようにして高校生をしている。これもそうだ。学校に通う人間はその行為を正しいと思い、拒否する人間はその行為を間違いと思う。
私立高校二年、望月常葉。今を生きるこの世界に、何の不満もなく、何の理想も持たない者だ。
この世界は単純ではないようで、二択の間に「どちらでもない」という概念を生んでいる。
しかしそれは、そう思う自身が出した概念。それを正しいか正しくないか判断するのは、難しいようで。
今日も、どちらでもない世界を眺めている。HR棟校舎の四階にて、暑い夏の時間を無駄に浪費するように。
4時12分。帰宅するか否かは、どちらでもいいと結論に変えて保留する。
なんだか、このまま眠ってしまいたい気分だ。どちらでもない日々に埋め込まれた時間なんて、どうでもいい事に使われるべきなのだと言い聞かせる。
視界から日光を消し去ろうと、うつ伏せた目線の先に腕を組む。ゆっくりと目を閉じて、夢の世界へ旅立つとしよう。
夢の世界とは、素晴らしいものだと思うのだ。
世界の平凡は、平凡に慣れたから平凡と呼ばれるのだ。だからこそ、新たな事や不可思議な事が起こる世界は非平凡。きっと、自身は喜んでそちらの世界を受け入れるだろう。
なに不自由ない事が不自由で。自身を取り巻く日常に縛られて。
そんな生活は、17年も経てば飽きてしまう。きっと自身がそうなのだから、間違いない筈だ。
そんな夢の世界にて。自身の生み出した非平凡と戯れていた時間もあっという間に過ぎ去ってしまったらしく、目を覚ました頃に時計の短針は5と6の間を指す。
寝起きの思考に、正気へ戻れと言い聞かせて起きあがろうと試みる。しかし、目覚めが悪いのは毎朝と同様に癖となっているらしい。
低い唸り声を上げながら、身体を伸ばそうと顔を持ち上げてみる。かなり時間がかかりそうだ。
ふと、後頭部のつむじ辺りにぽんと感触が乗る。人為的な、なにかの感触だ。
振り返る先に、夢の延長である非平凡な何かを期待してみる。無論、そんなことはあり得ないと反面理解して尚。
その場には、やはり現実を語るに適しているであろう人物。ここ2-Bの委員長とやらを担っている、比嘉鶉が居た。
「望月、教室閉めるから帰って」
毒舌というにはまろやかで、優しい口調かと言われれば違うと答えるだろう。そんな雰囲気を醸し出す彼女は、手に持つ緑色のバインダーで頭をペシペシと叩いてくる。
「言われなくても帰るわ。ったくマジでストレートに言うよなお前」
「へえ、なんて言って欲しかったわけ?」
別に、そういう意味を込めた訳ではないのだが。まあ、そう解釈させたのだから、仕方ないだろう。
「望月くん、起きてよぉ。早く帰らないとお化けがでるよぉ。みたいな?」
「あんた私をなんだと思ってんの?」
割と、自分でも下らない話をしたなと感じる。だが、そんなことも茶番劇としては、日常の域を出ない何気ない一欠片に過ぎない。
「じゃ、帰るとしますかね」
「ちょっと、質問の答えは?」
悪いが、こればっかりは言えないのだ。大衆からの評価に流されやすい自身が彼女に持ち合わせる評価は『幼女委員長』なのだから。
もし、この件で自分が委員長に攻撃されるのであれば、呼び方を定着させた輩は制裁されるべきだ。
「……委員長かな」
「今なんか濁したでしょ」
すると、静かな教室にスマートフォンの通知が軽快な音を立てて響いた。それは、反響している様に聴き取れる。
それはどうやら、自身と委員長のスマートフォン、両方に同時に通知が届いたらしい。
きっと広告か何かだろうが、仕方なく確認してやるとしよう。
胸ポケットから取り出したスマートフォンの待受画面に表示される通知には、寝ていた時間の分も合わせてかなりの量が表示される。その1番上に陣取るのは、某動画サイトのものだ。先程の通知のものとみて間違い無いだろう。
同様に、委員長もスマートフォンを確認している。不可思議な表情が、彼女の顔に浮かんでいた。
「なにこれ……?このアプリ、ダウンロードしてない筈なんだけど」
「委員長も動画サイトの広告?」
「あぁ、広告なのね。びっくりした……」
そんな会話の最中。互いのスマートフォンからは、音声が響き出した。それもまた、繰り返す様に全く同じ音が。
学校なので、マナーモードはオンにしていた。それに、本体にはパスワードを入力しないと使えない設定をかけているにも関わらず。
ただ、通知を確認しただけだ。それなのに、スマートフォンはひとりでに動き出したという。
「なんで勝手に……」
電源を落とそうとボタンを押すも、反応は無い。このタイミングで壊れてしまったのだろうか。
画面には、カウントダウンと思わしき数字が淡々と切り替わっていく。次々と数は小さくなり、3、2、1と続ける。
ゼロを数えた次のシーンでは、画面に一人の人物が映し出された。人物は仮面をつけ、黒いローブを羽織っている。おそらく、個人の特定は不可能だろう。
すると、変声機を使っていると思わしき声が発せられた。画面に映る人物のものだ。
『はじめまして。私の名は、仮にエデンと名乗ろう。私は今、全世界のインターネット端末と繋がり声明を発信している。是非、最後まで聞いてほしい』
この人物が語ることは真実ならば、全世界のインターネットに接続された端末に、この映像映っているのだろうか。
ただ、委員長のスマートフォンからも同じ音声が流れているのだから、真実である可能性が高いだろう。
「ねぇ、望月。これどうやって消すの?私機械に疎くて……」
「俺も分かってたら消してるよ」
画面の中の人物は、淡々と続ける。
『この世界には、謎が沢山ある。原因不明の現象や、未解決の事件。未確認生物や、宇宙人や、心霊。我々に好奇心を与えてくれる、素晴らしいものたちだ』
「なに言ってんのよコイツ」
そんな委員長の声を横に、この声明にそこそこ共感できる自分がいた。
『そこで、私はより一層楽しい世界を作る方法を思いついたのだ。そういった理由の元、世界中に99個の『ミステリー』を作った。興味のある人間だけで構わない、是非このミステリーを15年以内に全て解き明かして欲しい。98個の謎を解いた暁には、最初であり最後でもある『15年以内に解けなければどうなるのか』という謎の答えを与えよう。私の努力の賜物だ、是非楽しんで欲しい』
その言葉を最後に、スマートフォンは待受画面へと戻る。ハッキングの類いとみて間違いないだろうが、コンピュータウイルスを検出するフィルターには何の検知も示されていなかった。
「なんだ今の……」
「世界中に謎……?訳わかんない」
兎にも角にも、現状を探る為にSNSアプリを立ち上げた。その中に表示される、全世界リアルタイムのタイムラインには同じ単語が並ぶ。
先程のハッキングから1分も経たずして、トレンドには「エデン」や「ミステリー」といった単語が並んでいる。
「つまり……どういうことなの?」
「エデンって奴が、世界中にミステリーを新しく99個も作ったってこと」
「そんな事できるの?」
いや、出来るわけがない。この世界では、人間に理解できないものがミステリーとして扱われ、オカルトの類としてジャンル入りをしている。
つまり、エデンとやらが人間でない限りはそんな事ができるわけがない。ましてや、99だなんてそんな数が。
「とりあえず、明日も学校だ。今日は帰ろう……」
スマートフォンから目を離し、委員長の姿を確認する。その先では、委員長が座り込んで虚を見つめていた。
「委員長……?」
彼女は、顔をあげる。ただ、こちらに向けた眼差しよりも、その顔が不安を煽る様に。そんな変化を、先程の一瞬で。
彼女の頬に、四葉のクローバーに酷似した模様があった。しかしそれは、青白く光っていた為か、クローバーではない何かの様にも捉えられる。
「なに、なに見つめてんの?」
これが、エデンの語る99のミステリーだろうか。だとするならば、こんな突拍子もなく現れるものは好奇心だとかで押さえ込んでいい次元のものでは無い。
そんな不安は、この場で異変に気付いている自分だけが理解しているらしい。
その中に囚われた。と、捉えるか。それは、人それぞれの感性による違いがあるだろう。正しいと思えばそれは正しい。違うと思えばそれは違う。
人間それぞれの価値観なんて、所詮そんなものではないだろうか。
義務でもないが、皆に流れるようにして高校生をしている。これもそうだ。学校に通う人間はその行為を正しいと思い、拒否する人間はその行為を間違いと思う。
私立高校二年、望月常葉。今を生きるこの世界に、何の不満もなく、何の理想も持たない者だ。
この世界は単純ではないようで、二択の間に「どちらでもない」という概念を生んでいる。
しかしそれは、そう思う自身が出した概念。それを正しいか正しくないか判断するのは、難しいようで。
今日も、どちらでもない世界を眺めている。HR棟校舎の四階にて、暑い夏の時間を無駄に浪費するように。
4時12分。帰宅するか否かは、どちらでもいいと結論に変えて保留する。
なんだか、このまま眠ってしまいたい気分だ。どちらでもない日々に埋め込まれた時間なんて、どうでもいい事に使われるべきなのだと言い聞かせる。
視界から日光を消し去ろうと、うつ伏せた目線の先に腕を組む。ゆっくりと目を閉じて、夢の世界へ旅立つとしよう。
夢の世界とは、素晴らしいものだと思うのだ。
世界の平凡は、平凡に慣れたから平凡と呼ばれるのだ。だからこそ、新たな事や不可思議な事が起こる世界は非平凡。きっと、自身は喜んでそちらの世界を受け入れるだろう。
なに不自由ない事が不自由で。自身を取り巻く日常に縛られて。
そんな生活は、17年も経てば飽きてしまう。きっと自身がそうなのだから、間違いない筈だ。
そんな夢の世界にて。自身の生み出した非平凡と戯れていた時間もあっという間に過ぎ去ってしまったらしく、目を覚ました頃に時計の短針は5と6の間を指す。
寝起きの思考に、正気へ戻れと言い聞かせて起きあがろうと試みる。しかし、目覚めが悪いのは毎朝と同様に癖となっているらしい。
低い唸り声を上げながら、身体を伸ばそうと顔を持ち上げてみる。かなり時間がかかりそうだ。
ふと、後頭部のつむじ辺りにぽんと感触が乗る。人為的な、なにかの感触だ。
振り返る先に、夢の延長である非平凡な何かを期待してみる。無論、そんなことはあり得ないと反面理解して尚。
その場には、やはり現実を語るに適しているであろう人物。ここ2-Bの委員長とやらを担っている、比嘉鶉が居た。
「望月、教室閉めるから帰って」
毒舌というにはまろやかで、優しい口調かと言われれば違うと答えるだろう。そんな雰囲気を醸し出す彼女は、手に持つ緑色のバインダーで頭をペシペシと叩いてくる。
「言われなくても帰るわ。ったくマジでストレートに言うよなお前」
「へえ、なんて言って欲しかったわけ?」
別に、そういう意味を込めた訳ではないのだが。まあ、そう解釈させたのだから、仕方ないだろう。
「望月くん、起きてよぉ。早く帰らないとお化けがでるよぉ。みたいな?」
「あんた私をなんだと思ってんの?」
割と、自分でも下らない話をしたなと感じる。だが、そんなことも茶番劇としては、日常の域を出ない何気ない一欠片に過ぎない。
「じゃ、帰るとしますかね」
「ちょっと、質問の答えは?」
悪いが、こればっかりは言えないのだ。大衆からの評価に流されやすい自身が彼女に持ち合わせる評価は『幼女委員長』なのだから。
もし、この件で自分が委員長に攻撃されるのであれば、呼び方を定着させた輩は制裁されるべきだ。
「……委員長かな」
「今なんか濁したでしょ」
すると、静かな教室にスマートフォンの通知が軽快な音を立てて響いた。それは、反響している様に聴き取れる。
それはどうやら、自身と委員長のスマートフォン、両方に同時に通知が届いたらしい。
きっと広告か何かだろうが、仕方なく確認してやるとしよう。
胸ポケットから取り出したスマートフォンの待受画面に表示される通知には、寝ていた時間の分も合わせてかなりの量が表示される。その1番上に陣取るのは、某動画サイトのものだ。先程の通知のものとみて間違い無いだろう。
同様に、委員長もスマートフォンを確認している。不可思議な表情が、彼女の顔に浮かんでいた。
「なにこれ……?このアプリ、ダウンロードしてない筈なんだけど」
「委員長も動画サイトの広告?」
「あぁ、広告なのね。びっくりした……」
そんな会話の最中。互いのスマートフォンからは、音声が響き出した。それもまた、繰り返す様に全く同じ音が。
学校なので、マナーモードはオンにしていた。それに、本体にはパスワードを入力しないと使えない設定をかけているにも関わらず。
ただ、通知を確認しただけだ。それなのに、スマートフォンはひとりでに動き出したという。
「なんで勝手に……」
電源を落とそうとボタンを押すも、反応は無い。このタイミングで壊れてしまったのだろうか。
画面には、カウントダウンと思わしき数字が淡々と切り替わっていく。次々と数は小さくなり、3、2、1と続ける。
ゼロを数えた次のシーンでは、画面に一人の人物が映し出された。人物は仮面をつけ、黒いローブを羽織っている。おそらく、個人の特定は不可能だろう。
すると、変声機を使っていると思わしき声が発せられた。画面に映る人物のものだ。
『はじめまして。私の名は、仮にエデンと名乗ろう。私は今、全世界のインターネット端末と繋がり声明を発信している。是非、最後まで聞いてほしい』
この人物が語ることは真実ならば、全世界のインターネットに接続された端末に、この映像映っているのだろうか。
ただ、委員長のスマートフォンからも同じ音声が流れているのだから、真実である可能性が高いだろう。
「ねぇ、望月。これどうやって消すの?私機械に疎くて……」
「俺も分かってたら消してるよ」
画面の中の人物は、淡々と続ける。
『この世界には、謎が沢山ある。原因不明の現象や、未解決の事件。未確認生物や、宇宙人や、心霊。我々に好奇心を与えてくれる、素晴らしいものたちだ』
「なに言ってんのよコイツ」
そんな委員長の声を横に、この声明にそこそこ共感できる自分がいた。
『そこで、私はより一層楽しい世界を作る方法を思いついたのだ。そういった理由の元、世界中に99個の『ミステリー』を作った。興味のある人間だけで構わない、是非このミステリーを15年以内に全て解き明かして欲しい。98個の謎を解いた暁には、最初であり最後でもある『15年以内に解けなければどうなるのか』という謎の答えを与えよう。私の努力の賜物だ、是非楽しんで欲しい』
その言葉を最後に、スマートフォンは待受画面へと戻る。ハッキングの類いとみて間違いないだろうが、コンピュータウイルスを検出するフィルターには何の検知も示されていなかった。
「なんだ今の……」
「世界中に謎……?訳わかんない」
兎にも角にも、現状を探る為にSNSアプリを立ち上げた。その中に表示される、全世界リアルタイムのタイムラインには同じ単語が並ぶ。
先程のハッキングから1分も経たずして、トレンドには「エデン」や「ミステリー」といった単語が並んでいる。
「つまり……どういうことなの?」
「エデンって奴が、世界中にミステリーを新しく99個も作ったってこと」
「そんな事できるの?」
いや、出来るわけがない。この世界では、人間に理解できないものがミステリーとして扱われ、オカルトの類としてジャンル入りをしている。
つまり、エデンとやらが人間でない限りはそんな事ができるわけがない。ましてや、99だなんてそんな数が。
「とりあえず、明日も学校だ。今日は帰ろう……」
スマートフォンから目を離し、委員長の姿を確認する。その先では、委員長が座り込んで虚を見つめていた。
「委員長……?」
彼女は、顔をあげる。ただ、こちらに向けた眼差しよりも、その顔が不安を煽る様に。そんな変化を、先程の一瞬で。
彼女の頬に、四葉のクローバーに酷似した模様があった。しかしそれは、青白く光っていた為か、クローバーではない何かの様にも捉えられる。
「なに、なに見つめてんの?」
これが、エデンの語る99のミステリーだろうか。だとするならば、こんな突拍子もなく現れるものは好奇心だとかで押さえ込んでいい次元のものでは無い。
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