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15.俺のいない間に

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 多分、私もヨアキムもどこかが壊れているんだと思う。

「……また指令だ。今度は隣国との戦争を完全に治めてこいだと」

 さっき来たばかりの伝令を雑に追い返したヨアキムが私にため息をついた。

「行きたくない」

 ソファに腰掛ける私の足元に、大きな身体を心なしか小さくさせながら座る。
 そしてごつごつした手で私のお腹を撫でた。

「俺のいない間に何かあったらどうする?」
「何もないって。そろそろ安定期に入るし、つわりも殆どないし」
「でも万が一ってことも。俺の留守を狙って男が来たら……っ」
「大丈夫だよ」

 私は家のドアを指差した。

「あの鋼鉄製のすっごい重いドアを開けられるのはヨアキムだけだから」
「窓から」
「窓は全部格子入りでしょ」
「どこかに抜け道が」
「家の設計に私は一切関わってないし、あってもコレじゃ何処にも行けないでしょうが」

 足首に付けられた足枷と鎖をじゃらりと鳴らした。


 私とヨアキムは、私たちの事を誰も知らない村の外れに家を建てた。
 静かで平和な村の中に、私たちの家は異様だろう。
 壁は厚いし、ドアは普通じゃ開かない重たい鋼鉄製で、頑丈すぎる鍵。窓には全て格子が嵌められている。夫婦の二人暮らしのはずなのに、出入りは夫しかしない。

 この家は私を閉じ込めるために作られているから。

 ヨアキムの『アリーサが男と居るのが嫌だ、話すのも嫌だ、姿を見られるのも嫌だ』というのを突き詰めた結果、こうなった。
 私はこの家が出来てから一歩も外に出ていない。

 ヨアキムといえば王都から時々指令を受けて出掛けるようになった。自由騎士って言っても完全に『自由』なわけではなくて、実力に見合っただけの仕事はしなくちゃいけないらしい。
 それでも聞くだけでは日数のかかりそうな内容なのに、毎回すっごい早く帰ってくる。

「隣国との戦争を完全に治めるとなると一週間はかかるぞ。一週間もアリーサと離れなければならないなんて」
「一週間くらいすぐだって」

 出掛ける前はいつもこうだ。
 普通なら一週間じゃ移動するだけで精一杯じゃないかなぁと思いながら、駄々をこねる子供みたいなヨアキムの頭を撫でる。
 軽く笑い飛ばした私を、ヨアキムがじっと見上げていた。
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