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元タチの俺が他の男に掘られないようエロ拷問するとか言ってるけど⑩
しおりを挟む「ちがう、ちがうちがうちがうっ、篤志さんとしたくねぇもん、前もチンポ気になったけど、それだけだったもん、お前のせいっ、あの時もお前と会ってなかった、から……お前のせいっ……!」
元々強めの引き締まった顔立ちが、眉も目も口も頬も限界まで下がっていてそれでもまだ僕を咥えてくる。しかしすぐに嘔吐いて一瞬口元を手で覆い、また舌を伸ばしてきて。あまりにも必死でそれしかない様子に、止めるのも躊躇われる。
「隼人……無理は……」
「ううん、平気だから、俺水泡が好きだから、篤志さんのチンポほしいとかじゃなくて水泡の……篤志さんのも、でっかいけど……」
「こら」
もじもじしだしたので頭を軽く小突いたら、腫れた瞼を持ち上げてビクッと仰け反り、大袈裟な反応をしてきた。しかしきっと彼にとっては実際に大事なのだろう、脅えた目をして唇を震わせる。
「あ、ちが、ちげぇの! ちが! 俺、篤志さんにケツ見せてねぇし、中気持ちいいよって言ったけどそんだけ……」
「は?」
「あ、だっ、前に、俺の穴見せたら挿入したくなっちゃうかもって……だから見せちゃだめって……」
中気持ちいいよだなんて言ったのかとつい低い声が出てしまったが、お尻の穴を見せちゃダメだという話は確かにした記憶があるので眉を顰める程度に留めた。いやそんなところ見せないの当然なのだが。君はやらしいんだよという言葉責めの一環で話したのだと思うが。
でももしもその言いつけが隼人のとんでも行動の抑止力になったのなら助かった。この子とはこういう約束を沢山した方がいいのかもしれない。
隼人は人に対していい加減なところがあるし、浮気性だし、隠し事も多くあるので、嘘つきではあるのだろう。けれど隠し事のない僕に対しては恐ろしいほど素直なところがある。
「水泡あのとき、約束してくれた……俺が間違えちゃっても水泡、俺のこと嫌いにならないって……なぁ、覚えてるだろ、もう俺のこと離さないって言ってくれたの」
だから隼人にとって僕との約束はとても重い。
義父の話と、今の話を繋ぎ合わせてハッとする。もちろん今回だって、僕は隼人から本当に離れようなんて思ってはいなかった。
それでも自分の感情に振り回されて、君から距離をとってしまった。君との関係も、出雲との関係も見直そうと思って、自分の気持ちを悟られる訳にもいかないからと、君がどんな反応をするかも知ってときたいと、一人で勝手に。
けれど僕は君から離れないと約束していたのだ。僕に弱さをさらけ出さないと駄目になってしまった、自分のことを全て話したらもっと離れられなくなるかも不安がる君とちゃんと約束したのだ。離れないから大丈夫だよと。少しでも離れるなんてしてはいけなかったんだ。
離れるつもりがないからこの約束を強く意識はしていなかったけれど、隼人はこの会わなかった期間が不安で不安で仕方なかったのだろう。
いつになったら枯れるのか、隼人はまためそめそ泣いている。ちょっと鼻水垂らして、ぐすりとすすって。小さいな子供みたいに顎に皺が寄ってしまうほど唇をきつく結んで。
「言ってくれてた、のに……やっぱりおれのこと、嫌いになったぁ……?」
「なってない……なってないよ……」
「だっておれ、えっちできなくて、熱出して、ごめんなさい……俺使いもんにならなくて、でも嫌いになんないで、だって約束、したっ……離れないでぇ……もう俺、水泡から離れられねぇの……約束破るなよぉ……っ」
「ごめん、ごめんね…………隼人。そんなことしなくていいから、おいで?」
膝に乗せようと二の腕を引くが、ぶんぶんと首だけでなく肩まで振ってそれを拒否し、しゃくりながら手を動かして性器への奉仕を続ける。ちょっと柔らかくなってきてしまった先端にむちゅ、ちゅ、とキスして、虚ろな目で頬ずりする。僕のためではなく、そうしていないと不安なのだろうか。
「さっき……あの……本当に俺のこと、まだ愛してる……? 初めて愛してるって言ってくれた日と、いっしょ……?」
上目遣いに見つめられながら「明日撮影とかあるのかな」と疑問に思った。
浮腫んだ上瞼、化粧したように真っ赤になった下瞼を指先でそっと撫でる。
「水泡がいれば、いてくれれば、俺変になんねぇから……会えねぇと、薬もいっぱい飲んじゃって、つらい……嫌いになんて、なられたらっ……嫌いにならない、で、いっぱい一緒にいて、一緒に、いて……愛して、ほしい……」
愛してる人に愛してほしいと懇願されて、喜びとは違う涙が溢れそうになることはこの他にどれくらいあるのだろうか。
僕にその言葉をまた求めるか。同じものが返ってくることはない、報われない言葉を。君は本当に可愛くて残酷だ。
少しくらい、少しでいいから、僕のことを理解してはくれないだろうか。歩み寄れないだろうか。少しづつで、いいから。
「隼人、おいで?」
「でも……」
「顔……近くが、いい。おいで?」
俯いたり僕をチラリと見たりしてどうしようかとまだ躊躇っている様子だったが、先程よりも強引に腕を引き上げて膝に乗せる。座高の低い君は膝に乗せても目線があまり変わらない。だから真っ直ぐと見つめあうことができる。
「出雲と、僕が寝るの……嫌なの?」
こつんと額を合わせながら、できるだけ優しく問いかけた。それに対して小さく小さく、隼人は首を左右に振る。
「ほんと?」
しかし僕が念を押すと、今度はもっと小さく首を振った。
「嫌なんだ?」
ただ顎を引いただけなのか判断に悩むような首肯。
「僕も……君しか、抱きたくない」
「え、あ、だめ」
予想通り狼狽える隼人の顔にかかる髪をかきあげ、額を合わせたま頬に触れる。そして「違うよ、聞いて」と触れた場所にキスをした。
「出雲のこと……愛してる。愛してるから、解放したい」
「は、なんで……? それって、別れる、て、こと?」
「君のことしか、抱きたくない。君のことですぐ、僕の頭はいっぱい。君と、離れられない。君と、たくさん一緒にいたい。出雲を、愛してるから。こんな僕と……一緒にいてほしくない。幸せに、できない」
「みなわ、ごめ」
「しぃー……黙って、大人しく……聞いて? ね?」
強く真一文字に結んだ唇をわなわなと震わせながらも今度は大きく頷いた隼人に、僕も頷き返す。赤い瞼から覗く琥珀色の瞳は鏡のように全てを反射しており僕のシルエットもくっきりと浮かんで見える。
僕はもうこの瞳に囚われている。
「僕は……あの子に酷いことをしている。君を抱く前から。閉じ込めてる」
「でもあいつはそれを望んで」
「そんな選択肢、なくてよかった。与えてしまった。あの子は、人に囲まれて輝く。そんなあの子が好きだった。それなのに、僕は……だからずっと僕は……」
この先はさすがに言葉に詰まる。君のせいじゃない、それだけ伝わればいい。隼人の頬にキスをする。瞼にキスをする。額にキスをする。隼人は落ち着かなそうにしながらも、頬にだけお返しのキスをしてくれた。そして頭をよしよしと不器用な手つきで撫でてくれた。そんな君が愛しくて僕は目を細める。
「僕が出雲と……どんな選択をしようと、否定しないでほしい」
隼人の手を取って、小指同士を絡ませた。
「約束、してほしい。僕も誓うから」
しかし小指を繋いだまま、頷いてはもらえなかった。なのでその小指に唇を寄せ、懇願する。君は僕の神様だ。
「愛してる。ずっと君から離れない」
「でも、俺には」
「求めない。君はそのままで、いい。だからせめて、否定……しないで」
「あ……」
「愛してる。君に言われなくても、何度でも告げたい。言葉が溢れてくる……」
抱きしめる。強く。首筋に顔を埋めて、愛しい香りに埋もれる。甘く重い、スモーキーなバニラの香り。愛煙している銘柄を思わせる香り。それが君の体臭と混ざって、その高い体温で蒸発する。
この腕の中に君がいる。君の声を聞いたら君でいっぱいになってしまう、それは間違いではないけれど正しくはない。君の声を聞かなくても僕は君のこととばかり考えていた。
君からの着信に出ないと決めていたのに毎日君を待ちわびていた。震えるスマートフォンの向こうに君を感じて愛しかった。
君の香りに埋もれたくて、体温に包まれたくて、君の中に入りたかった。
「僕も、会いたかった」
想うことはできるのに、上手く紡げない言葉たち。この一言で僕のこの想いはどれくらい伝わるだろうか。
隼人は僕に抱きしめられたまま、何も言わなくて。頷いたりすることもなくて。でも否定もしなくて。暫くして微かに「ごめん」と吐息とともに聞こえてきた。
でもそれは断りのごめんには聞こえなくて、驚きを交えたような、そんな響きで。しかしここまできて否定されたと思いたくない僕の勝手な解釈でしかない可能性もある。
君が自分のこれまでの発言を振り返っての謝罪なのではないかと思うのはさすがに自分勝手か。それはどういう意味のごめんなのかと聞こうかどうか悩む。悩んでいるうちに隼人が先に口を開いた。
「電話の声、気持ちよさそうだった……」
ほしかった言葉のどれとも違う主旨の発言だったので、一瞬何を言われてるのか分からなかったが、行為中の電話のことだろう。そこを突っ込まれるのは少し気まずい。
「自慰が気持ちいいのと、同じ……」
「は? それはさすがにひでぇだろ……」
確かにそれはそうだ。返す言葉がなくてただ僕を責める背中を撫でる。
「やってる時に好きだよとか言った? ほらあの、三人でした時みたいに……」
「ううん」
「ほんとかよ」
「ほんと」
「俺、すき、すきってたくさん水泡と言いながらヤんの大好き」
「僕も」
僕をじっと見つめてくる隼人の目から涙は引いていた。揺れて落ち着かなかった瞳がとても静かだ。黙って静かに、互いを見つめあう。
隼人がゆっくりと瞬きをすると、たったそれだけのことがとても大事なことのように思える。いつだって見惚れてしまう。それはまるで花が開く瞬間のようだ。赤茶色に透けた睫毛から、黄色みの強い琥珀色の艶々とした瞳が現れる。少し首を傾けただけだキラキラと輝いて、時には高い鼻が影を落とす。
隼人は静かな目をしたまま、独り言のように聞いてきた。
「俺ずっと、もしかしてすごく、わがままだった……?」
それに対して僕は鼻先を擦り合わせながら答える。
「僕らは二人とも、最低」
「出雲と別れたら許さないってまた言ったら、俺ってやっぱり最低だよな?」
「わがまま……?」
鏡みたいに同じ方向へ首を傾げる。それに少し笑ったあと、隼人は上唇をつんと尖らせて考えを巡らすように視線を横へやる。
「ごめん、俺、なんもわかんねぇや……出雲とのこと約束できない、かも……お前らほんとに別れんの……? やだな……」
「いや、なの?」
「ん……でも、やっぱり俺は水泡としかセックスしたくないし、水泡が俺以外とセックスすんのもやだから……俺いま、水泡が出雲ともうやらないってわかったのは……嬉しくて、ほっとして……でもわかんない、それだけじゃなくて悲しくもあって、なんだろうこの感情……俺……」
約束してくれないのか。嘘の約束なんかできないのか。君らしい。残念なのにため息混じりに笑ってしまう。
僕は君の気に食わないことをしてしまったら、今度こそ君が誰かに抱かれちゃうんじゃないか、もしかしたら僕はあっさり捨てられるんじゃないかと恐れているのに。だから君に少しでも釘を刺されたら動けなくなってしまうくらいなのに。
動けなくなって考え直す間に君はあっさり誘惑されるししちゃうのに。勝手に壊れちゃうのに。
「やっぱり、わがまま」
笑った。笑ってしまったけど、それよりも泣いてしまいそうだった。そんなことを知らない君は僕と一緒になって可愛く微笑む。
「じゃあわがままだから愛してるっていっぱい言われたい……キスして愛してるって、俺すごく落ち着くんだ、今ギューってされた時も凄く、心臓がすーって穏やかになって……」
「うん……よかった」
「まだ篤志さんと、どんな顔して会えばいいかわかんねぇし、帰りたくねぇけど、でも……」
もう帰したくなくなる。帰したくない。篠原輝彦なんかに君を撮らせたくない。どうして君は約束してくれないのだろう。約束できないのは出雲とのことだけだよね。君は僕にしか抱かれないよね。君が間違えを起こしても君を嫌いにならないとは言ったけど、僕はその時がきたら何をするか分からないよ。
「俺、気持ち悪くねぇかな……?」
──ああ、可愛い顔だな。なんて甘えた顔をするんだろう。
「うん」
「ほんと?」
「ほんと」
「愛してる?」
「とっても」
問い詰めたいのにやっと穏やかになって笑顔を取り戻してきた君に僕は微笑みかけるしかできない。キスをして、舌を絡めて、愛してると囁いて、キスをした。隼人がとろとろになって自分の罪を溶かしてくのがわかる。
僕のこの行動に嘘はない。でも満たされていく君と違って僕の心は決して穏やかではない。
そんな僕に君はおずおずと、僕の背中に回した手の指先をもぞもぞとさせながら、恥ずかしそうに目を伏せておねだりをした。
「あの、俺が悪さしねぇように……もう他の奴に抱いてとか言わねぇように……して、ほしいんだけど」
「おしおき……されたいの?」
赤く染めた頬の、むすっとしてるように見える顔をして、うんと頷く。
「かわいい」
ドMでほしがり。僕はそんな君の欲求を満たすために、そしてこの自分の腹に渦巻く感情を少しでも晴らすために、君を虐める。
可愛い可愛い君への復讐。
嫌というほど愛して沈める。
──僕は君のために奴隷にだってなれる。
こういうことなのだ。
隼人の身体をベッドへ倒して、放ってあったネクタイで手首を縛る。こういうの好きだろう。
上に乗って隼人の肌の上で指を滑らせて、左胸にぺたりと手のひらをくっつける。心臓の音が早い。でもそれはざわざわとしたものではなくて、とくんとくんと甘く疼く音。
「今日は……抵抗、してみようか。襲われた時の練習。できるかな」
こうしてまた僕は一番大事なことをあやふやにして違う罪で君を責めるんだ。
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