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第20話 お留守番
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『んん……。ふわぁ~』
『あっ、おはようございます! アイズさん!』
『おはよう……あれ、カイルは?』
『もうとっくに出掛けたぞ』
そういや昨日、色々と用事があるから一人で出掛けるって言ってたな。
『そっか。それにしても、フィルとエリノアはいつも早起きだな。今日も俺が最後か』
『我らが早いのではなく、お前が遅すぎるのだ』
『そうですよ! アイズさんが寝坊助さんなんです!』
うう、返す言葉もない。
ドラゴンに生まれ変わったからといって、朝に弱いのは相変わらずなんだよな……。
『早く起きれるように努力するよ……。それでフィルは随分疲れてるみたいだけど、一体どうしたんだ?』
『あっ、そうでした! フィルさん、後一回だけ! 後一回だけで良いからお願いします!』
『はぁ……。これで本当に最後だ、分かったな?』
フィルは渋々といった様子でそう言うと、その場で少しだけ飛び上がった。
『やった! では、失礼して!』
エリノアはその真下に駆け寄り、フィルの左足を自身の両前足で掴む。
その直後、フィルは翼を羽ばたかせ、室内を飛び回った。
『わーい! アイズさん、見てください! 私、飛んでますよ!』
『う、うん。そうだな』
何だ、フィルがエリノアと遊んであげていたのか。
もうすっかり仲良しだな。
『もう限界だ。そろそろ離れろ』
『えー、まだほんの少ししか経ってませんよ!』
『離れなければ振り落とすぞ』
『ぶー。分かりましたぁ……』
そんなやり取りの後、エリノアは空中で前足を離して床に着地。
そのすぐ、フィルも片足で着地した。
『ふー、楽しかったです!』
『我は全く楽しくないがな。ん? 何だその顔は? まさかお前もやってくれと言うつもりではあるまいな』
『いや、フィルは自由自在に飛び回れて良いなーと思っただけだよ。俺なんかまだ飛ぶどころか翼さえ動かせないからさ』
『何、お前はドラゴンなのだから、そのうち自然と飛べるようになるだろう。焦る必要はない』
確かヴァルムさんもそんなこと言ってたな。
そのうちかぁ。早く大きくなりたいな。
『まあ、そうらしいんだけどさ。やっぱり空を飛ぶってのは、人間だった頃からの憧れだから。俺も早く飛べるようになりたいよ』
『ん?』
『えっ?』
俺がそう口にすると、フィルとエリノアはなぜか俺の顔を真っ直ぐに見つめてきた。
『ど、どうした?』
『……今、人間だった頃と言わなかったか?』
――あっ!
あまりにもリラックスし過ぎて、ついポロっと……。
『もしかして、アイズさんは人間からの転生者だったんですか?』
『……えっ?』
『その反応からすると、どうやら図星のようだな』
『えっと、あの……』
『別に隠すようなことでもなかろう。転生なんてさほど珍しいことでもあるまい』
『そ、そうなのか?』
『はい、私のお母さんのお父さんも転生者ですし。ただ人間ではなく、カエルが前世だったみたいですけど』
何だ、そうだったのか。
この世界では転生は普通とまではいかなくても、それなりに起こり得ることだったんだな。
そうと分かれば、ここは正直に伝えておくか。
ヴァルムさんには言ったのに、仲間であるエリノアとフィルに黙っておくのも気が引けるし。
『黙っててごめん……。エリノアの言う通り、俺は人間から転生してドラゴンになったんだ』
『別に責めている訳ではないがな。それでどこの国の人間だったのだ? リバラルティアか?』
『実はこの世界とは別の世界から転生したみたいで……』
『ほお、別の世界か。そんなことも起こり得るのだな』
『別の世界から転生するなんて話は初めて聞きました。珍しいこともあるんですね』
全く驚いてないみたいだけど……。
『し、信じてくれるのか?』
『そんなくだらない嘘を付く必要はないからな。それでお前は、人間に戻りたいとは思わないのか?』
『えっ? そんなこと出来るの?』
『我が生まれ育ったボンベイルでは、ネズミに転生した猫がとある魔法によって元の猫の姿に戻ったという伝承がある。あくまでおとぎ話だが、そういった魔法が実在する可能性は否定出来ない』
限りなくゼロに近い数字ではあるけれど、俺が人間に戻れる可能性もあるってことか。
人間に戻る……そんなこと考えたこともなかった。
でも、今改めて考えてみても、別に人間に戻りたいなんて気持ちは皆無だな。
なんせ万が一人間になったら、カイルのために戦えなくなってしまう。
それにフィルやエリノアとも仲間という関係ではなくなってしまうし。
『少し考えてみたけど、俺は別に人間に戻りたいとは思わないかな』
『……そうか。それを聞いて安心したぞ』
『私もです! そう言ってもらえて良かった!』
『ん? どういうこと?』
『もしもアイズさんが人間に戻りたいって思っているなら、私はそれを応援しますし、そのために出来ることは協力します。でもやっぱり、こうして一緒にカイルさんの元に居たいっていうのが本音ですから』
『ま、まあ、そういうことだ』
二匹とも……。
俺は良いテイマーと仲間に恵まれて幸せ者だな。
『さて、お喋りはこの辺りで終了だ。ようやくアイズも起きたことだし、本題に入ろう』
『本題?』
『ああ、トーナメントのことについてだ。もう一週間もしないうちに本番を迎えるのだから、作戦の一つでも考えておかねばマズいだろう』
『た、確かに』
全く実感がなかったけど、フィルの言う通り後六日でトーナメント当日なんだもんな。
そこに向けて頑張ってきたんだから、しっかりと話し合っておくべきだ。
『でだ。その前に確認しておきたいのだが、アイズとエリノアはトーナメントの概要についてどの程度知っている?』
『三体三で戦うこと位しか……』
『私もその程度ですね』
『そうだろうな。ならば、まずは簡単に説明しておこう。トーナメントはベスト十六までは一試合五分、以降は十分の制限時間で行われる。先に三匹とも戦闘不能になったほうが負けで、時間内に決着が付かなかったら判定勝負だ』
最長でも十分なのか。思ったよりも短いんだな。
『それとベスト十六までは全ての試合が一日で行われるのだ。故に、初戦から全力を出し尽くしてしまうような真似は避けなければならない』
これは炎を吐ける回数が限られている俺には、かなり重要なことだな。
旅の最中、毎日欠かさず炎を吐き続けたものの、結局三回までしか吐けなかったし。
『最後に言うまでもないが、相手を殺すのはダメだ。仮に事故だったとしても、殺してしまった時点で即敗北。加えて、カイルのテイマーとしての立場が危うくなる』
『場合によっては、力を加減する必要もあるってことですね』
『そういうことだ。ここまでで何か質問はあるか?』
『一ついいか? 凄く助かるんだけど、フィルはどうしてそんなに詳しいんだ?』
『去年出場したからに決まっているだろう。以前にも言ったはずだが』
いや、初耳なんだけど……。
もしかして俺が聞いていなかっただけなのか?
そう感じた俺はエリノアのほうに顔を向けると、同じようにエリノアもこちらを見ていた。
うん、間違いなく言ってないな。
『あの、フィルさん。それ初めて聞きました……』
『うん、俺も全く記憶にない』
『何だと? 間違いなく話したはずだが……。いや、もしかすると、それはレパルドの元に居た時の記憶かも知れん。すまない、どうやら記憶違いだったようだ』
『全然大丈夫だよ。それより、去年はどうだったんだ?』
『決勝までは進んだが、そこでボンベイルから参加してきたテイマーに敗北した。まあ、命令を無理やり聞かされている状態だったために何とも思わなかったがな』
『決勝まで……ってことはレパルドって人、最低ですけど実力はあるんですね』
まあ、そういうことになるよな。
『……ああ。奴が連れている魔物は正直強い。今回も間違いなく出場しているだろうから、当たった際には全力でいかねばならないだろう』
出来れば当たりたくはない相手だな。
強敵だからってのはもちろん、何よりフィルの気持ちを考えると……。
二度と顔を見たくないはずだ。
『それで気になる点はもうないか?』
『おう、もう大丈夫だ。ありがとう』
『そうか。ならば次は本題である作戦についてだが、何か良い案はあるか?』
『やっぱり頭数を減らすべきだよな。三対二に持ち込めば一気に有利になるし、最初に一匹を集中的に攻撃するのが良いと思う』
『あっ、それ良いですね!』
『ふむ、妙案だな』
えっ? 誰でも考え付きそうなもんだけど……。
いや、でも今思えば野生の魔物も俺達も戦闘の時、自然と各個撃破の姿勢になっていたし、当事者からすれば意外と思い付かないのかも。
『じゃあ、そうしよう!』
『ああ。基本はそれでいくとしよう 』
俺達はその後もトーナメントに向けて、真剣に話し合いを行った。
『あっ、おはようございます! アイズさん!』
『おはよう……あれ、カイルは?』
『もうとっくに出掛けたぞ』
そういや昨日、色々と用事があるから一人で出掛けるって言ってたな。
『そっか。それにしても、フィルとエリノアはいつも早起きだな。今日も俺が最後か』
『我らが早いのではなく、お前が遅すぎるのだ』
『そうですよ! アイズさんが寝坊助さんなんです!』
うう、返す言葉もない。
ドラゴンに生まれ変わったからといって、朝に弱いのは相変わらずなんだよな……。
『早く起きれるように努力するよ……。それでフィルは随分疲れてるみたいだけど、一体どうしたんだ?』
『あっ、そうでした! フィルさん、後一回だけ! 後一回だけで良いからお願いします!』
『はぁ……。これで本当に最後だ、分かったな?』
フィルは渋々といった様子でそう言うと、その場で少しだけ飛び上がった。
『やった! では、失礼して!』
エリノアはその真下に駆け寄り、フィルの左足を自身の両前足で掴む。
その直後、フィルは翼を羽ばたかせ、室内を飛び回った。
『わーい! アイズさん、見てください! 私、飛んでますよ!』
『う、うん。そうだな』
何だ、フィルがエリノアと遊んであげていたのか。
もうすっかり仲良しだな。
『もう限界だ。そろそろ離れろ』
『えー、まだほんの少ししか経ってませんよ!』
『離れなければ振り落とすぞ』
『ぶー。分かりましたぁ……』
そんなやり取りの後、エリノアは空中で前足を離して床に着地。
そのすぐ、フィルも片足で着地した。
『ふー、楽しかったです!』
『我は全く楽しくないがな。ん? 何だその顔は? まさかお前もやってくれと言うつもりではあるまいな』
『いや、フィルは自由自在に飛び回れて良いなーと思っただけだよ。俺なんかまだ飛ぶどころか翼さえ動かせないからさ』
『何、お前はドラゴンなのだから、そのうち自然と飛べるようになるだろう。焦る必要はない』
確かヴァルムさんもそんなこと言ってたな。
そのうちかぁ。早く大きくなりたいな。
『まあ、そうらしいんだけどさ。やっぱり空を飛ぶってのは、人間だった頃からの憧れだから。俺も早く飛べるようになりたいよ』
『ん?』
『えっ?』
俺がそう口にすると、フィルとエリノアはなぜか俺の顔を真っ直ぐに見つめてきた。
『ど、どうした?』
『……今、人間だった頃と言わなかったか?』
――あっ!
あまりにもリラックスし過ぎて、ついポロっと……。
『もしかして、アイズさんは人間からの転生者だったんですか?』
『……えっ?』
『その反応からすると、どうやら図星のようだな』
『えっと、あの……』
『別に隠すようなことでもなかろう。転生なんてさほど珍しいことでもあるまい』
『そ、そうなのか?』
『はい、私のお母さんのお父さんも転生者ですし。ただ人間ではなく、カエルが前世だったみたいですけど』
何だ、そうだったのか。
この世界では転生は普通とまではいかなくても、それなりに起こり得ることだったんだな。
そうと分かれば、ここは正直に伝えておくか。
ヴァルムさんには言ったのに、仲間であるエリノアとフィルに黙っておくのも気が引けるし。
『黙っててごめん……。エリノアの言う通り、俺は人間から転生してドラゴンになったんだ』
『別に責めている訳ではないがな。それでどこの国の人間だったのだ? リバラルティアか?』
『実はこの世界とは別の世界から転生したみたいで……』
『ほお、別の世界か。そんなことも起こり得るのだな』
『別の世界から転生するなんて話は初めて聞きました。珍しいこともあるんですね』
全く驚いてないみたいだけど……。
『し、信じてくれるのか?』
『そんなくだらない嘘を付く必要はないからな。それでお前は、人間に戻りたいとは思わないのか?』
『えっ? そんなこと出来るの?』
『我が生まれ育ったボンベイルでは、ネズミに転生した猫がとある魔法によって元の猫の姿に戻ったという伝承がある。あくまでおとぎ話だが、そういった魔法が実在する可能性は否定出来ない』
限りなくゼロに近い数字ではあるけれど、俺が人間に戻れる可能性もあるってことか。
人間に戻る……そんなこと考えたこともなかった。
でも、今改めて考えてみても、別に人間に戻りたいなんて気持ちは皆無だな。
なんせ万が一人間になったら、カイルのために戦えなくなってしまう。
それにフィルやエリノアとも仲間という関係ではなくなってしまうし。
『少し考えてみたけど、俺は別に人間に戻りたいとは思わないかな』
『……そうか。それを聞いて安心したぞ』
『私もです! そう言ってもらえて良かった!』
『ん? どういうこと?』
『もしもアイズさんが人間に戻りたいって思っているなら、私はそれを応援しますし、そのために出来ることは協力します。でもやっぱり、こうして一緒にカイルさんの元に居たいっていうのが本音ですから』
『ま、まあ、そういうことだ』
二匹とも……。
俺は良いテイマーと仲間に恵まれて幸せ者だな。
『さて、お喋りはこの辺りで終了だ。ようやくアイズも起きたことだし、本題に入ろう』
『本題?』
『ああ、トーナメントのことについてだ。もう一週間もしないうちに本番を迎えるのだから、作戦の一つでも考えておかねばマズいだろう』
『た、確かに』
全く実感がなかったけど、フィルの言う通り後六日でトーナメント当日なんだもんな。
そこに向けて頑張ってきたんだから、しっかりと話し合っておくべきだ。
『でだ。その前に確認しておきたいのだが、アイズとエリノアはトーナメントの概要についてどの程度知っている?』
『三体三で戦うこと位しか……』
『私もその程度ですね』
『そうだろうな。ならば、まずは簡単に説明しておこう。トーナメントはベスト十六までは一試合五分、以降は十分の制限時間で行われる。先に三匹とも戦闘不能になったほうが負けで、時間内に決着が付かなかったら判定勝負だ』
最長でも十分なのか。思ったよりも短いんだな。
『それとベスト十六までは全ての試合が一日で行われるのだ。故に、初戦から全力を出し尽くしてしまうような真似は避けなければならない』
これは炎を吐ける回数が限られている俺には、かなり重要なことだな。
旅の最中、毎日欠かさず炎を吐き続けたものの、結局三回までしか吐けなかったし。
『最後に言うまでもないが、相手を殺すのはダメだ。仮に事故だったとしても、殺してしまった時点で即敗北。加えて、カイルのテイマーとしての立場が危うくなる』
『場合によっては、力を加減する必要もあるってことですね』
『そういうことだ。ここまでで何か質問はあるか?』
『一ついいか? 凄く助かるんだけど、フィルはどうしてそんなに詳しいんだ?』
『去年出場したからに決まっているだろう。以前にも言ったはずだが』
いや、初耳なんだけど……。
もしかして俺が聞いていなかっただけなのか?
そう感じた俺はエリノアのほうに顔を向けると、同じようにエリノアもこちらを見ていた。
うん、間違いなく言ってないな。
『あの、フィルさん。それ初めて聞きました……』
『うん、俺も全く記憶にない』
『何だと? 間違いなく話したはずだが……。いや、もしかすると、それはレパルドの元に居た時の記憶かも知れん。すまない、どうやら記憶違いだったようだ』
『全然大丈夫だよ。それより、去年はどうだったんだ?』
『決勝までは進んだが、そこでボンベイルから参加してきたテイマーに敗北した。まあ、命令を無理やり聞かされている状態だったために何とも思わなかったがな』
『決勝まで……ってことはレパルドって人、最低ですけど実力はあるんですね』
まあ、そういうことになるよな。
『……ああ。奴が連れている魔物は正直強い。今回も間違いなく出場しているだろうから、当たった際には全力でいかねばならないだろう』
出来れば当たりたくはない相手だな。
強敵だからってのはもちろん、何よりフィルの気持ちを考えると……。
二度と顔を見たくないはずだ。
『それで気になる点はもうないか?』
『おう、もう大丈夫だ。ありがとう』
『そうか。ならば次は本題である作戦についてだが、何か良い案はあるか?』
『やっぱり頭数を減らすべきだよな。三対二に持ち込めば一気に有利になるし、最初に一匹を集中的に攻撃するのが良いと思う』
『あっ、それ良いですね!』
『ふむ、妙案だな』
えっ? 誰でも考え付きそうなもんだけど……。
いや、でも今思えば野生の魔物も俺達も戦闘の時、自然と各個撃破の姿勢になっていたし、当事者からすれば意外と思い付かないのかも。
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俺達はその後もトーナメントに向けて、真剣に話し合いを行った。
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