【完結】猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する~狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~

白水廉

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セシリア(前編)

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 屋敷での生活三日目。
 タズハは精神的に参っていた。
 理由は二つ。

「――はぁ。同じ空間にいたら、わたしまで獣臭くなっちゃいそう。早く終わらないかしら」

 これが一つ目の理由だ。
 ノノイは普段は普通に接してくるのだが、二人っきりでいると、ふとした拍子にこうして独り言というていで暴言をぶつけてくる。

 それに、タズハは「やめて」とは言えなかった。
 逆ギレだったり、却って悪口の頻度が上がったりすることを恐れたのだ。
 そして言う勇気もなかった。

 だからじっと耐えるしかなく、暴言の度にタズハの心は削られていって。
 今ではノノイの声を聞くと、動悸が起こるようになってしまった。

 だったら、せめて日中は他の少女と一緒にいればいいと思われるだろうが、その少女こそが、タズハの精神を疲弊させている二つ目の理由である。

 六人いるうちの五人は顔を合わせる度、貼り付けた笑顔で自分を褒め称えてくる。
 気に入られることで、ゼイナスとの面談の際に王妃に相応しい人として名前を挙げてもらうのが目的だろう。

 タズハもバカではない。
 それが下心の透けたご機嫌取りだとわかっているからこそ、応対するのが心底しんどく、嫌で嫌で仕方がなかった。

 自室にいればノノイの暴言、部屋を出ると少女たちの相手。
 どちらも苦痛だが、ノノイの暴言はたまにだし、それにただ我慢すればいいだけ。
 そっちのほうがまだマシと判断し、タズハは部屋に篭るほうを選んだ。

 日中からソファでこうして、『ニードヘレン王国の繁栄の歴史』なる死ぬほど退屈な本を読んでいるのは、そんな事情からである。

「ふぅ」

 最後のページをめくると、小さく息を吐いて本を閉じる。
 またやることがなくなってしまった。

(しょうがない。また本、取り行こ)

 誰とも会いませんように。
 タズハは扉の前で心を込めてお祈りしてから部屋を出た。
 長い廊下を早歩きで進むと、後ろをぴたりとノノイがついてくる。

(ついてこなくていいのに……)

 タズハは小さく溜め息を吐きながら、角を曲がる。
 
 ――ゴッ!
 おでこに強い衝撃。
 バランスを崩し、タズハは尻もちをついた。

「いったー……」

 じんじんと痛むおでこをさすりながら、目を開ける。
 目の前で、ベージュの髪の女の子が床にお尻をつけていた。
 初日に最初に自己紹介した勇者にして、少女たちの中で唯一自分に媚を売ってきていない――セシリア・アリスフェルドだ。

 自分と同じようにおでこをさすっているのを見て、状況を理解したタズハはたちまち顔を青くさせる。
 相手は貴族だ。
 もしも怪我をさせてしまったとなれば――

「ごごっ、ごめんなさい!」

 タズハは立ち上がると、膝にぶつける勢いで深々と頭を下げた。

「いえ、こちらこそ。お怪我はありませんか?」

 聞こえてきたのは穏やかな声。
 タズハは少しだけ頭を上げて、顔をちらっと見る。
 セシリアは申し訳なさそうに眉を下げていた。
 そこに怒りは窺えない。

「は、はい! あ、あの、あなたは?」
「よかった。わたしも何ともありません。……あっ」

 セシリアは屈んで落ちていた本を拾うと、タズハに差し出す。

「はい、どうぞ」
「わっ、すみません、ありがとうございます!」

 ぶつかっても怒らず、それどころか心配してくれた。
 それに落とした本も拾ってくれた。

 ご機嫌取りをしてきていないということもあって、彼女に対する好感度がぐーんと上昇した。

「いえいえ。これから読書ですか?」
「あ、いえ、読み終わったので図書室に返しにいくところで」
「そうだったんですね。その後はまた本を?」
「はい、そうしようかなって」
「本、お好きなんですね」
「えっ、やっ、全然! ただ他にやることないので、仕方なくというか」

 タズハが困ったように笑うと、セシリアは僅かに目を見開く。
 少しの間を置いて、様子を窺うように尋ねてきた。

「そ、それなら、よろしければわたしと少しお喋りしませんか? 実はわたしもやることがなくて、暇をしていたところで……」
「えっ、と……じゃあ、ぜひ!」

 この屋敷に来てから、タズハは他参加者からのお茶のお誘いをすべて快諾している。

 断ったら反感を買って、ゼイナスにあらぬことを吹き込まれかねない。
 そうなった場合、自分の印象が悪くなり、お願い事を聞いてもらいづらくなってしまう。
 少女たちのおべっかに付き合ってきたのは、そんな可能性を危惧していたからだ。

 だから誘われた以上は、相手が誰であろうがタズハの答えは同じ。
 いつもは嫌々なのだが、しかし、今回はそれほどでもなかった。

「わぁ、ありがとうございます! では、わたしのお部屋に」
「あ、はい!」
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