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セシリア(後編)
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セシリアの部屋はタズハの部屋の二つ隣にあった。
掛け布団やソファの柄、色など微妙に違うところはあるが、部屋の広さと家具の種類や配置はタズハの部屋と同じだ。
部屋の手前側に白いローテーブルがあり、それを挟むように同じく白の大きいソファが向かい合わせに置かれている。
その片方にセシリア、もう片方にタズハが座っていた。
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
紅茶を淹れてくれたセシリアの侍女に二人はお礼を。
侍女は恭しく頭を下げると、扉の近くで壁を背に立っているタズハの侍女――ノノイの隣へ。
彼女への怯えや怒りが見えないことから、セシリアは悪口を言われたりしていないのだろう。
いいなぁ、と彼女の顔をじっと見ていると、こっちを向いたセシリアはニコッと微笑んだ。
「わたし、ずっとタズハさんとお話ししたいなって思ってたんです」
「わたしと?」
「はい。わたし、二次試験ではEグループだったんです」
「えっ!」
タズハは驚きに目をぱちぱち。
二次試験のお花摘みはいくつかのグループに分かれて実施されており、タズハもEグループだった。
つまりはあの場にセシリアもいたということだが、全く記憶にない。
顔は見ているのだろうが、あの時は試験のことで頭がいっぱいだった。
四次試験も同様で、この屋敷にいる少女は全員、軍の訓練場にいたはずだが、誰一人として見覚えがなかった。
「ご、ごめんなさい。その、覚えてなくて……」
「ああ、いえ! 全然大丈夫です!」
セシリアは両手を左右にぱたぱたと振ると、「それでですね」と話を続けた。
「わたし、タズハさんの足の速さに感心して。獣人の方ってあんなに速いんだ、すごいなぁって思ってですね」
「は、はい」
「また四次試験でお見かけして、試合を拝見させてもらったんです。そうしたら、その身のこなしが本当にかっこよくって!」
そう話すセシリアは目を輝かせていた。
それを見て、これはお世辞ではなく本心からの言葉だと確信したタズハは、口元をへにゃりとさせた。
かっこいいなんて初めて言われた。
嬉しいけれど、少しくすぐったい。
「だからこの屋敷で顔をお見かけした時はとても嬉しくて、絶対にお話しするぞ! って思ってたんですけど、タズハさん、いつも他の方に囲まれていたので……。やっとお話しすることができて、わたし、とっても嬉しいです!」
本当に嬉しそうな顔でそんなことを言われて、タズハはキュン。
強い感情に脳内のタズハは飛び上がると、セシリアを模した人形を、ミスティやロロネたちが入っている「好き」と書かれた箱へそっと入れた。
「ありがとうございます! いっぱいお話ししましょうね!」
「はいっ! では、まずは――」
話題はやはり、これまでの試験について。
各試験の感想だったり、試験を通じて得た友達のことだったり。
その中で、三次試験の無人島でイノシシを倒した話をした時は、それはもうセシリアは興奮していた。
そうしてひとしきり話し終えると、話題は自然と試験に参加した理由へ。
「――なるほど、それで……。大変だったんですね……」
「まあ、そうですね。でも、やっとここまで来れて。後は王様が聞いてくれれば」
「大丈夫です。ゼイナス様なら絶対聞いてくれますよ。タズハさんのことも、お友達のことも」
セシリアが微笑む。
そう言ってもらえて、タズハは少しほっとした。
「ありがとうございます! それでセシリアさんは?」
「えっ、と……それはですね……」
セシリアは人差し指をくっつけたり、離したりする。
微妙な反応に、タズハは慌てて両手を振った。
「話したくなかったら全然大丈夫ですよ!」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど。タズハさんのを聞いた後だと、わたしの理由はあまりにも幼稚で……」
セシリアは溜め息を吐くと、紅茶を口にする。
(こんなこと前にもあったような。どこでだっけ……)
タズハはむむむと考え、やがてピンときた。
無人島でミスティちゃんの理由を聞いた時だ!
そう一人ですっきりしていると、セシリアがカップを置いた。
「その……わたし、ゼイナス様のことを愛してて。……お嫁さんになりたくて、この試験に参加したんです」
セシリアは目を伏せた。
「わたしは自分の欲望を叶えるために。……タズハさんからしたら、馬鹿馬鹿しすぎますよね」
「えっ、ううん、全然! 王様と結婚するためにここまで一生懸命頑張って。それって、とっても素敵なことだと思います!」
本心からの言葉だった。
タズハはまだ恋を知らないが、恋をすること自体は素敵だと思っており、憧れてもいた。
「わたし、応援します! 王妃に相応しいと思う人、セシリアさんを推薦しますね!」
セシリアは目を瞬くと、満面の笑みを浮かべる。
「タズハさん、ありがとうございます! わたしもタズハさんを推薦します!」
「わっ、ありがとうございます!」
それにタズハも笑顔で応えた。
掛け布団やソファの柄、色など微妙に違うところはあるが、部屋の広さと家具の種類や配置はタズハの部屋と同じだ。
部屋の手前側に白いローテーブルがあり、それを挟むように同じく白の大きいソファが向かい合わせに置かれている。
その片方にセシリア、もう片方にタズハが座っていた。
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
紅茶を淹れてくれたセシリアの侍女に二人はお礼を。
侍女は恭しく頭を下げると、扉の近くで壁を背に立っているタズハの侍女――ノノイの隣へ。
彼女への怯えや怒りが見えないことから、セシリアは悪口を言われたりしていないのだろう。
いいなぁ、と彼女の顔をじっと見ていると、こっちを向いたセシリアはニコッと微笑んだ。
「わたし、ずっとタズハさんとお話ししたいなって思ってたんです」
「わたしと?」
「はい。わたし、二次試験ではEグループだったんです」
「えっ!」
タズハは驚きに目をぱちぱち。
二次試験のお花摘みはいくつかのグループに分かれて実施されており、タズハもEグループだった。
つまりはあの場にセシリアもいたということだが、全く記憶にない。
顔は見ているのだろうが、あの時は試験のことで頭がいっぱいだった。
四次試験も同様で、この屋敷にいる少女は全員、軍の訓練場にいたはずだが、誰一人として見覚えがなかった。
「ご、ごめんなさい。その、覚えてなくて……」
「ああ、いえ! 全然大丈夫です!」
セシリアは両手を左右にぱたぱたと振ると、「それでですね」と話を続けた。
「わたし、タズハさんの足の速さに感心して。獣人の方ってあんなに速いんだ、すごいなぁって思ってですね」
「は、はい」
「また四次試験でお見かけして、試合を拝見させてもらったんです。そうしたら、その身のこなしが本当にかっこよくって!」
そう話すセシリアは目を輝かせていた。
それを見て、これはお世辞ではなく本心からの言葉だと確信したタズハは、口元をへにゃりとさせた。
かっこいいなんて初めて言われた。
嬉しいけれど、少しくすぐったい。
「だからこの屋敷で顔をお見かけした時はとても嬉しくて、絶対にお話しするぞ! って思ってたんですけど、タズハさん、いつも他の方に囲まれていたので……。やっとお話しすることができて、わたし、とっても嬉しいです!」
本当に嬉しそうな顔でそんなことを言われて、タズハはキュン。
強い感情に脳内のタズハは飛び上がると、セシリアを模した人形を、ミスティやロロネたちが入っている「好き」と書かれた箱へそっと入れた。
「ありがとうございます! いっぱいお話ししましょうね!」
「はいっ! では、まずは――」
話題はやはり、これまでの試験について。
各試験の感想だったり、試験を通じて得た友達のことだったり。
その中で、三次試験の無人島でイノシシを倒した話をした時は、それはもうセシリアは興奮していた。
そうしてひとしきり話し終えると、話題は自然と試験に参加した理由へ。
「――なるほど、それで……。大変だったんですね……」
「まあ、そうですね。でも、やっとここまで来れて。後は王様が聞いてくれれば」
「大丈夫です。ゼイナス様なら絶対聞いてくれますよ。タズハさんのことも、お友達のことも」
セシリアが微笑む。
そう言ってもらえて、タズハは少しほっとした。
「ありがとうございます! それでセシリアさんは?」
「えっ、と……それはですね……」
セシリアは人差し指をくっつけたり、離したりする。
微妙な反応に、タズハは慌てて両手を振った。
「話したくなかったら全然大丈夫ですよ!」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど。タズハさんのを聞いた後だと、わたしの理由はあまりにも幼稚で……」
セシリアは溜め息を吐くと、紅茶を口にする。
(こんなこと前にもあったような。どこでだっけ……)
タズハはむむむと考え、やがてピンときた。
無人島でミスティちゃんの理由を聞いた時だ!
そう一人ですっきりしていると、セシリアがカップを置いた。
「その……わたし、ゼイナス様のことを愛してて。……お嫁さんになりたくて、この試験に参加したんです」
セシリアは目を伏せた。
「わたしは自分の欲望を叶えるために。……タズハさんからしたら、馬鹿馬鹿しすぎますよね」
「えっ、ううん、全然! 王様と結婚するためにここまで一生懸命頑張って。それって、とっても素敵なことだと思います!」
本心からの言葉だった。
タズハはまだ恋を知らないが、恋をすること自体は素敵だと思っており、憧れてもいた。
「わたし、応援します! 王妃に相応しいと思う人、セシリアさんを推薦しますね!」
セシリアは目を瞬くと、満面の笑みを浮かべる。
「タズハさん、ありがとうございます! わたしもタズハさんを推薦します!」
「わっ、ありがとうございます!」
それにタズハも笑顔で応えた。
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