28 / 31
面談(後編)
しおりを挟む
「あっ! それっ!!」
突然の大声に、ゼイナス、そして彼の後ろに立つランラも身体をビクッと跳ねさせた。
ほどなく、タズハはゼイナスの袖に向けて伸ばしていた指をばっと引っ込めて、頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! いきなり大きな声を出して……」
「構わん。それで、どうした?」
「えっと、そのブレスレット、もしかしてセシリアさんからもらったものじゃないですか?」
ゼイナスは袖を捲ってブレスレットを見ると、ふぅと小さく息を吐いた。
「セシリアから聞いたのか」
タズハは頬を緩めた。
やはりゼイナスはセシリアのことを忘れてなどいなかった。
「はいっ!」
「そうか……」
ゼイナスはカップに目を落とした。
そこでタズハはふと思った。
もしかすると、王様はセシリアさんと結婚するためにこの王妃選抜試験を開いたのかな、と。
「タズハ。誤解を招かないよう、これだけは言っておく」
それまでとは一転、ゼイナスは鋭い視線を向けてくる。
「私は国をより良くするために、優秀な女性を妃に迎えたいと思っている。それ故、これまでのしきたりに背き、今回、王妃に相応しい女性を民の中から広く選び出すことにしたのだ。そこに個人的な感情はまったくない」
そしてタズハの考えはすぐに否定された。
「そ、そうですか!」
「ああ」
若干、空気が重くなり、それからは沈黙。
じっとしているのが辛くて、カップを口に運んでは置いてを繰り返すことしばし、ゼイナスが口を開いた。
「それで、タズハ。君はここまで残った者の中で、誰が王妃に相応しいと思う?」
(きた!)
屋敷で共に暮らす少女たちがおべっかを使ってきていたのは、ここで名前を挙げてもらうためだろう。
そんな彼女らには悪いが、タズハが挙げるのは少女たちの名前ではない。
大切なお友達の名前だ。
「わたしはセシリアさんが相応しいと思います」
「……理由は?」
「セシリアさんはとてもしっかりしていて、それに優しいです! そして心も強くって。王妃としての役目を果たせるのは、セシリアさん以外にいないと思います!」
「……そうか。参考にしよう。さて、ここからは君のことについて聞かせてもらおうか」
「あ、はい!」
☆
それから三十分ほど会話を続けた後、タズハは城を後にした。
そうして屋敷に向かっている道中。
「あの、ノノイさん」
「はい」
「ノノイさんはわたしのお世話をしたいって立候補してくれたって、さっき陛下が言ってましたけど……」
「ええ、その通りです」
「ど、どうしてわたしなんかを?」
「妹の大切なお友達ですから」
「妹? えっ……えっ!? ってことはもしかして!?」
「はい。ランラの姉です。妹と仲良くしていただいて、ありがとうございます」
ノノイは小さく頭を下げた。
それを見て、タズハははえーとする。
まさかランラさんのお姉ちゃんだったとは。
「ああ、いえ! こ、こちらこそです!」
タズハもぺこりと礼を返す。
するとノノイは「ふふっ」と笑った。
「機会は少ないかもしれませんが、またランラと会う時があったらぜひ仲良くしてあげてください。それとわたしも。短い間ですが、これからもよろしくお願いしますね」
「もちろんです! よろしくお願いします!」
「――あら、お帰りなさい」
「あっ、今お戻りに?」
屋敷に戻ると、タズハは五人の少女たちに出迎えられた。
偶然会った風を装っているが、面談の内容を聞き出すためにずっと待っていたことはすぐにわかった。
そうでなければ、エントランスホールにいるわけがない。
「陛下との面談はいかがでした?」
そして案の定、何を聞かれたか教えろ、と圧をかけてきた。
それをタズハは「何も言うなと言われてるので」で切り抜けると、そのままセシリアの部屋に。
「――わっ、よかったですね!」
「はいっ!」
お願いしたいことは既にゼイナスが動いてくれていたことを話すと、セシリアは自分のことのように喜んでくれた。
それが嬉しくて、タズハはニコニコ笑顔に。
「あとねあとね、陛下、セシリアさんのこと覚えてましたよ!」
「ほ、ほんとですか!?」
「うん! それにね、ブレ――」
「タズハ様」
ノノイに遮られ、タズハははっとする。
そうだ、ブレスレットのことは口止めされているんだった。
「と、とにかく! 陛下はちゃんと覚えてました! よかったですね!」
「はいっ!」
今度はタズハが自分のことのように喜んだ。
☆
三日後。
いってらっしゃいと、セシリアを送り出してから数時間。
部屋にやってきたセシリアは顔を伏せていた。
タズハはその様子を不審に思いながら「お帰りなさい」と声をかける。
それでようやく彼女は顔を上げた。
その瞳は赤く充血しており、頬には水が通ったような跡があった。
「……何があったんですか?」
「……ゼイナス様に、『君を選ぶことはない』と」
「えっ?」
タズハは言葉を失った。
ゼイナスは今でもセシリアが贈ったブレスレットをつけていたので、好意を持っていると信じて疑わなかった。
だから、まさかそんなことを言うなんて想像もしていなかった。
セシリアはドレスの袖で目を拭うと、タズハを見る。
「ですから、タズハさん、お願いします。どうか王妃になって、ゼイナス様のことを隣で支えてあげてください」
「えっ、わ、わたしが?」
「はい。タズハさんならきっと、ゼイナス様が求めるいい妃になれますから」
セシリアがぎこちなく笑う。
その姿はあまりにも痛々しかった。
タズハは必死に頭を働かせる。
しかし、気の利いた言葉は何も思い浮かばなくて。
「……うん」
ただ一言、そう返すことしかできなかった。
突然の大声に、ゼイナス、そして彼の後ろに立つランラも身体をビクッと跳ねさせた。
ほどなく、タズハはゼイナスの袖に向けて伸ばしていた指をばっと引っ込めて、頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! いきなり大きな声を出して……」
「構わん。それで、どうした?」
「えっと、そのブレスレット、もしかしてセシリアさんからもらったものじゃないですか?」
ゼイナスは袖を捲ってブレスレットを見ると、ふぅと小さく息を吐いた。
「セシリアから聞いたのか」
タズハは頬を緩めた。
やはりゼイナスはセシリアのことを忘れてなどいなかった。
「はいっ!」
「そうか……」
ゼイナスはカップに目を落とした。
そこでタズハはふと思った。
もしかすると、王様はセシリアさんと結婚するためにこの王妃選抜試験を開いたのかな、と。
「タズハ。誤解を招かないよう、これだけは言っておく」
それまでとは一転、ゼイナスは鋭い視線を向けてくる。
「私は国をより良くするために、優秀な女性を妃に迎えたいと思っている。それ故、これまでのしきたりに背き、今回、王妃に相応しい女性を民の中から広く選び出すことにしたのだ。そこに個人的な感情はまったくない」
そしてタズハの考えはすぐに否定された。
「そ、そうですか!」
「ああ」
若干、空気が重くなり、それからは沈黙。
じっとしているのが辛くて、カップを口に運んでは置いてを繰り返すことしばし、ゼイナスが口を開いた。
「それで、タズハ。君はここまで残った者の中で、誰が王妃に相応しいと思う?」
(きた!)
屋敷で共に暮らす少女たちがおべっかを使ってきていたのは、ここで名前を挙げてもらうためだろう。
そんな彼女らには悪いが、タズハが挙げるのは少女たちの名前ではない。
大切なお友達の名前だ。
「わたしはセシリアさんが相応しいと思います」
「……理由は?」
「セシリアさんはとてもしっかりしていて、それに優しいです! そして心も強くって。王妃としての役目を果たせるのは、セシリアさん以外にいないと思います!」
「……そうか。参考にしよう。さて、ここからは君のことについて聞かせてもらおうか」
「あ、はい!」
☆
それから三十分ほど会話を続けた後、タズハは城を後にした。
そうして屋敷に向かっている道中。
「あの、ノノイさん」
「はい」
「ノノイさんはわたしのお世話をしたいって立候補してくれたって、さっき陛下が言ってましたけど……」
「ええ、その通りです」
「ど、どうしてわたしなんかを?」
「妹の大切なお友達ですから」
「妹? えっ……えっ!? ってことはもしかして!?」
「はい。ランラの姉です。妹と仲良くしていただいて、ありがとうございます」
ノノイは小さく頭を下げた。
それを見て、タズハははえーとする。
まさかランラさんのお姉ちゃんだったとは。
「ああ、いえ! こ、こちらこそです!」
タズハもぺこりと礼を返す。
するとノノイは「ふふっ」と笑った。
「機会は少ないかもしれませんが、またランラと会う時があったらぜひ仲良くしてあげてください。それとわたしも。短い間ですが、これからもよろしくお願いしますね」
「もちろんです! よろしくお願いします!」
「――あら、お帰りなさい」
「あっ、今お戻りに?」
屋敷に戻ると、タズハは五人の少女たちに出迎えられた。
偶然会った風を装っているが、面談の内容を聞き出すためにずっと待っていたことはすぐにわかった。
そうでなければ、エントランスホールにいるわけがない。
「陛下との面談はいかがでした?」
そして案の定、何を聞かれたか教えろ、と圧をかけてきた。
それをタズハは「何も言うなと言われてるので」で切り抜けると、そのままセシリアの部屋に。
「――わっ、よかったですね!」
「はいっ!」
お願いしたいことは既にゼイナスが動いてくれていたことを話すと、セシリアは自分のことのように喜んでくれた。
それが嬉しくて、タズハはニコニコ笑顔に。
「あとねあとね、陛下、セシリアさんのこと覚えてましたよ!」
「ほ、ほんとですか!?」
「うん! それにね、ブレ――」
「タズハ様」
ノノイに遮られ、タズハははっとする。
そうだ、ブレスレットのことは口止めされているんだった。
「と、とにかく! 陛下はちゃんと覚えてました! よかったですね!」
「はいっ!」
今度はタズハが自分のことのように喜んだ。
☆
三日後。
いってらっしゃいと、セシリアを送り出してから数時間。
部屋にやってきたセシリアは顔を伏せていた。
タズハはその様子を不審に思いながら「お帰りなさい」と声をかける。
それでようやく彼女は顔を上げた。
その瞳は赤く充血しており、頬には水が通ったような跡があった。
「……何があったんですか?」
「……ゼイナス様に、『君を選ぶことはない』と」
「えっ?」
タズハは言葉を失った。
ゼイナスは今でもセシリアが贈ったブレスレットをつけていたので、好意を持っていると信じて疑わなかった。
だから、まさかそんなことを言うなんて想像もしていなかった。
セシリアはドレスの袖で目を拭うと、タズハを見る。
「ですから、タズハさん、お願いします。どうか王妃になって、ゼイナス様のことを隣で支えてあげてください」
「えっ、わ、わたしが?」
「はい。タズハさんならきっと、ゼイナス様が求めるいい妃になれますから」
セシリアがぎこちなく笑う。
その姿はあまりにも痛々しかった。
タズハは必死に頭を働かせる。
しかし、気の利いた言葉は何も思い浮かばなくて。
「……うん」
ただ一言、そう返すことしかできなかった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界こども食堂『わ』
ゆる弥
ファンタジー
【ネオページで先行配信中!】
知らない間に異世界へと迷い込んでしまったリュウ。拾ってもらった老夫婦の店を継ぐことになる。
そこで、こども食堂を営もうと思い立ち、困っている人のための食堂にすると決め。運営する決意をする。
困っている人は様々な理由がある。そんな人たちの居場所になればいい。リュウの優しさと料理で街の人達はこの食堂『わ』にハマるのであった。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる